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異形コレクション VI(6) 屍者の行進

◾️全体 ★★★★☆
 屍者という悍ましい存在がテーマなため、私の好みの濃厚エピソードが多く、近年も同テーマが再び取り上げられるあたり人気だったのだろうという感。白眉はバイオウェスタンの『ジャンク』、死姦純愛ラブロマンス『黄沙子』、グチャドロ青春譚『地獄の釜開き』。特に『ジャンク』の主人公はヒロイックで好き。しろー大野先生のファンアートが最高なんですよね。
https://s-ohno.blogspot.com/2011/10/blog-post_20.html


◾️昔恋しい / 早見裕司 ★★☆☆☆

 ある映画評論家が銀座を歩いて試写会に入ると、そこには……。『試写会』を別の字にかけた地口ネタで、屍者というよりは彷徨える霊魂のような存在を描く。銀座自体に足を運んだ経験が数えるほどしかなく、屍者の虚ろさが銀座に似合うかどうかもよく分からない。Not For Me感。

◾️春の味 / 安土萌 ★★★☆☆

 主人公の少年は春の土の上で妹との再会を喜ぶが、その姿は……。わずか5ページのショートショートだが、短い顛末に余白を含むワザマエが本作も見事。妹は生きていたのか死んでいたのか、そもそも何があったのか。土着的なJホラーの匂いも嗅ぎ取れる。春のゾンビと言えば半熟英雄のスプリミリョーネ

◾️薔薇よりも赤く / 篠田真由美 ★★★☆☆

 勤めていた出版社を辞めてドブカスのような生活を送っていたアラフォー女性の主人公、親戚の依頼によりイタリアへ赴き訪ねた女性は、寂れた教会で修道女となっており……。カトリックの本質を「聖体の拝領」と捉え、それをヨモツヘグイ的に異界への取り込みとして用いる修道女の狂気と、最後に垣間見える百合要素。

◾️部屋で飼っている女 / 小中千昭 ★★★★☆

 都内でタクシー運転手を営んでいる主人公。ある夜に乗せ、道中姿を消した赤い服の女が忘れられなくなり、再会を果たしたその女を自宅に連れ帰った彼は……。屍者の女、乞われたら付いてくる、服に付着した血痕を嗅ぎ取って舐めてくる、切り傷からの血液を飲むと血色が良くなり発情する、と特徴を列挙してゆくと萌える。血液確保のため最終的に連続殺人に至る主人公、「怪異の呪いに中てられた」より「端的に性欲に狂った」であってほしい。なんか八尺様萌え対象化みたいな「怪異だけど異性」について考える機会を与えてくれた作品。

◾️草笛の鳴る夜 / 倉阪鬼一郎 ★★★☆☆

 地方の伯父から見合いの打診を受けたSF作家の主人公。旧家の邸宅で多くの親族に囲まれ、悍ましい儀式に巻き込まれてゆく……。儀式の詔や行為の意味など一切明らかにされることのないまま、地元に残っていた親どころか東京の恋人までガンガン惨殺されてゆくスピード感と、SF作家としてのプライドがどこか上滑りしてる主人公の変な滑稽さが印象に残るスプラッタ因習ホラー。

◾️楽園 / 森真沙子 ★★★☆☆

 2010年、全寮制の学校に転校した澪は、あるきっかけにより『楽園』のようなその環境に疑問を感じ始める……。いわゆる「汚染されているのは外か・中か」的なサスペンスで、汚染源は今や懐かしい環境ホルモン。その摂取により生きる屍に、という話は現代だと陰謀論扱いされる類だが、過去の公害を考えればパラノイア的な言説が在る方が社会は健康なのかも、と思ったり。また、執筆当時からは10数年ほど未来が舞台になっているが、PCによるテレビ電話はドンピシャで当ててて感動した一方、ニフティサーブによるパソ通が生き残っている世界線というのにはほっこり。

◾️屍蒲団 / 神宮寺秀征 ★★★☆☆

 吉原で起こった連続遊女殺人の下手人を追う岡っ引きの辰、200年後の現代で赤羽ソープ嬢殺人事件を追うベテラン刑事の辰野、そして時代を超えた因果が犯人を追い詰める……。少々下世話な駄洒落オチも相まって、怪談要素が入った新作落語といった趣。一龍斎貞水師匠の語りで聞いてみたい。

■三次会まで / 中井紀夫 ★★★☆☆

 ある中学の同窓会、幹事の駒井、西木戸、森山は、当時いじめ自殺した筈の鹿原の名前を名簿に見つけ……。がっつり実体を以って同窓会をエンジョイしつつ、当時のいじめ主犯格である幹事達を足で追い詰める鹿原のガッツとフィジカルにほっこり。

■晴れない硝煙 / 江坂遊 ★★☆☆☆

  死者蘇生(ヨミガエリ)の能力(スキル)を持つ少年(ガキ)を偶然見つけた極道が、抗争(カチコミ)で死滅(くたば)った組長(おやじ)を現世(シャバ)に呼び戻そうとするが……という5ページのショートショート。死の直前の苦痛(イタミ)も蘇生してしまう、という制約(シバリ)は令和の世では割と見慣れてしまった感。SCPのスワンプマンをちょっと想起。

■壁、乗り越えて / かんべむさし ★★★☆☆

 上方落語家の笑太は、兄弟子と呑んだ帰りに見知らぬ古びた町に迷い込み、その一角にある寄席小屋に呼び止められ噺を演じることになる……。「一度、死んだ人間になる」ことで芸の高みに近づく(ただし本当に死ぬ)、というポジティブなんだかホラーなんだか分からないところが、むしろ落語的な懐の広さに通じる話。面白かったかというと、まあ普通というか。

■僕の半分の死 / 本間祐 ★★☆☆☆

 「あなたを半分だけ愛してる」という謎めいた詩人の恋人への独占欲を抱えた主人公、一人夜の山中をドライブする道中で土砂崩れに巻き込まれ……。ある実在する症候群による「半身の緩慢な死」をテーマに結び付けた作品だが、恋人のポエムと恋人宅で目撃した怪現象は何だったんだ、という《?》が大きく浮かんでしまう。

■虫すだく / 加門七海 ★★★★☆

 虫駕籠が怖い、と怯える男。彼がかつて巡礼中に立ち寄った秩父の寺で僧侶から聞かされた、鈴ヶ森で首を落とされた女盗賊との異常な恋物語とは……。僧を魅了する妖艶な女生首と、生首へ金品を貢ぐため犯罪に手を染め続ける僧の顛末は、読み応えのある王道怪談。男にトラウマを受け付けた虫と生首の織り成すクライマックスも、悪夢的で良き。

■ジャンク / 小林泰三 ★★★★★

 壊れた人造馬を修理すべく、ある小さな町のジャンク屋を訪れたハンターキラー、道中仕留めたハンターの死体の買い取りを打診し……。生物学系テクノロジーに特化し進化した暗黒西部世界を舞台にした傑作SFウェスタン。脳をCPUとして接続するだの手足を追加マニピュレーターとして接続するだの生体組織を道具として活用する描写の唯一無二性に、学生時代に初めて読んだときは衝撃を受けた。後半のハンターとの戦闘描写で主人公の切り札が明らかになるシーンからのラストも、グロテスクなのに実に美しい。

■脛骨 / 津原泰水 ★★★★☆

 銀座のクラブのバンドマンである主人公は、事故で片足を失った多恵の見舞いの帰り、事故現場で白骨化した彼女の足を発見する……。これは名作。切り離された自分の一部はその時点で《屍骸》であり、それ故に時を経てもその頃の自分の面影を湛え、同じ《屍骸》である主人公のベースの残骸との交換を通じ数十年振りに二人の人生が交差する、という流れが美しい。人骨という異形要素がいい感じにサブカル的なエッジになっており、地上波ドラマでギリギリ放送できなさそうなのも良き。

■肉食 / 北野勇作 ★★★★☆

 会社が潰れアングラビデオのチラシ配りを始めた主人公とその妻、公園で犬を貪るアパートの隣室の老夫婦、彼らの砂を噛むような暮らしから浮かび上がる《真相》……。年金を貰い続けるため死者を《生かし続ける》というのはネクロマンサー的秘術じゃなくても現実世界の至る所に存在しており、そういう生活感のある厭さをSF的要素と地続き的にリンクさせる北野先生の妙味、本作が異形参戦初にして、しっかり染みている。

■黄沙子 / 村田基 ★★★★★

 機能不全家庭で育ったネクロフィリアの主人公は、死後数時間で蘇生した過去を持つ黄沙子と大学で出会い、その死の匂いに惹かれ……。双方同意による《首絞め心肺停止セックス→蘇生》という背徳の極北みたいなプレイに興じるカップルの限界ラブストーリー。こんな尖りきった性癖は現実にも存在するんだけど、これを現実世界で実現できる確率なんてゼロに等しいんだから、真剣にマイノリティに向き合うというのはこういうことなんですよ。遵法精神がコミュニティに維持され続ける限り、こういった作品の存在は、現実における行為の誘発リスクよりはるかに、代償行為という逃げ場の提供としての意義が大きい筈。

■語る石 / 森奈津子 ★★★★☆

 主人公は、父の書斎にある石と会話する少女時代を過ごしていた。ある日祖母が危篤に陥り、彼女は石の正体を知る……。世にも奇妙な物語の感動系エピソードのようなシンプルに泣ける話。主人公に小突かれて怒ったりする石のキャラクター性、令和の現代だとアレクサみたいなAIデバイスで普通に実現できそうで、この辺もテクノロジーが魔術に追いつくところなのかも。

■地獄の釜開き / 友成純一 ★★★★★

 ある日、突然『人間が死ななくなる』事象が全世界で発生。切っても撃っても潰しても誰一人死ななくなったことで世界がヒャッハー化した中、福岡で刹那的に暴走・拷問・殺人を繰り返す男女4人は……。本邦スプラッター小説の第一人者・友成先生による残酷劇場だ!手足を千切ろうと全身が腐敗し蟲が湧こうと生き続ける地獄で、クスリとファックと暇つぶしの拷問を糧に生きる男女の青春短編。死なないと言っても欠損した人体は再生しないし失った正気も戻らないのであれば社会秩序を維持した方が皆幸せな筈なのだが、『死』の定義が崩壊すれば人類は発狂するのである、そこに理屈はないのだ、という友成先生のシミュレーションには、テレビもラジオも宗教番組のみ、という描写も合わさり有無を言わさぬ迫力がある。

■死にマル / 岡本賢一 ★★★★☆

 主人公はある日突然《人口調整処理省》から死の確定が告げられる。11人に《死にマル》を付けられたと言われ、《地獄》と呼ばれる執行場に連れて行かれる……。導入で「えっ、こんな分かりやすく生活維持省を盗んでいいんですか?」と思ったものの、国民相互の×付けによる相互監視と粛清という捻りを加え良作に。しかしこの頃はこの手のディストピアが為政者により生み出されるものと思われていたのだろうけど、令和の現代ではSNSでパンピーによる自発的な相互監視と炎上による人生終了が発生しており、人類はもう終わりです、終わり。

■青頭巾 / 井上雅彦 ★★★☆☆

 何かに追われ森の奥の家に帰還する青頭巾の少女は、家族達へ《屍者の物語》を乞う……。追われるものが実は……、という大枠の建付け+ゾンビもののミニエピソード三作。魔術師による強化型ゾンビvsレスラー仮面によるルチャ・リブレ譚は少年漫画っぽくてよかったです。

■農園 / 竹河聖 ★★★☆☆

 プエルトリコから語り手の下に届いた、バックパッカーの旧友の手記。そこには、中米のある島での恐ろしい体験が記されていた……。死者を使役するブードゥーのゾンビという『原典』をテーマにした、クラシカルで王道のホラーエピソード。本当に怖いのはゾンビそのものではなく支配階級による逃げ場のない搾取構造、というテーマ性から、中米版因習村ものとも言えそう。

■豊国祭の鐘 / 朝松健 ★★★★☆

 関が原合戦直後の大阪、豊臣秀吉供養のため家康が差配した豊国祭の準備役を務める片桐勝元は、謎の老僧に方広寺へと誘い込まれ……。今後の妖怪ハンター・一休宗純シリーズで仇敵として幾度となく登場する邪教・真言立川流が豊臣家に入り込んでいた、という「方広寺の鐘銘は難癖ではなかった!」的な刺激的解釈。呪術の仕掛け人が豊臣方の誰だったか、を想像するのも楽しく、村正絡みで真田じゃね?とかロマンがある。

■ちょっと奇妙な / 菊地秀行 ★★☆☆☆

 競馬狂で無職のダメ男である主人公は、夫が行方不明となった上階の夫人と子供が引っ越すと知り……。人で「なくなった」存在との淡すぎるロマンス。仄かに香り立つエロスが良いものの、薄味さが私向けではない。

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