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小説の技巧の最前線を伝える創作講座の新たなスタンダード――津原泰水『小説教室』

2022年に惜しまれつつも逝去された、作家の津原つはら泰水やすみさんによる、2015年開催の創作講座「忘れられない小説を書く―技巧の最前線―」全六回の講義録に、「作家を目指す人たちのための恋愛論」ほか、解説や書評を併録した一冊、『小説教室』をお届けします。

ブックデザイン=岡本洋平(写真オブジェは著者私物)

「技巧の最前線」という講義題の通り、「着想」「文章」「人物造型」「ストーリー」「演出」という、小説を書くに当たって不可欠な要素について、それぞれの項目で具体例を挙げながら語っていく……という、一見、非常にベーシックな構成の「創作講座」です。

しかし――本書の語り手は「S-Fマガジン」オールタイム・ベスト国内部門一位に二回に亘って選出された「五色の舟」、ベストセラーとなった青春音楽小説『ブラバン』、極限まで文体を磨き上げた珠玉の短編集『綺譚集』など、幅広い分野の傑作をものした、あの津原泰水さんです。たんなる技巧の解説に終始するはずもなく……。

津原さんは本書で取り上げる小説の要素について、それぞれ以下のように語っています。

アイデアなんて、いらない。
文章は、伝わればいい。
キャラクターの紹介文は、不要。
ストーリーとは、場面。
演出とは、驚きである。

……じゃあ、原稿用紙にいったい何を書けば良いの? と思われるでしょう。ということで、ネットで立ち読みできるページ(特別増量版)を用意いたしました。“小説の書き手は、どんなことに頭を痛めるべきか”。その答えがずばり記されている部分も読めますので、ぜひ開いてみてください。

* * *

本来であれば、ここでさらに各項目の詳細を紹介するところですが、少しだけ担当者の思い出をお話しさせてください。

津原さんとは2004年、『ルピナス探偵団』の舞台である吉祥寺の喫茶店ではじめてお目にかかりました。ご挨拶して腰をかけてからの第一声は忘れもしない、「僕、お筆先ふでさきだと思われているけど、意外と普通に書いているからね」でした。反射的に「マジで?」と口にしそうになりました。

「お筆先」とは霊感に従って無意識的に文章を書き連ねることですが、いや、こんな凄い文章は頭で考えていたら到底書けないでしょう、という美文が代名詞である津原さんであれば、「内なる神に導かれるまま書いているだけだよ」と言われた方がまだしも納得できるのですが……そんな衝撃的な会話の答えを、『小説教室』の校正刷を読んでいる中で、二十年ぶりにいただいた気持ちになりました。

また、エージェントの方と一緒に津原さんから『小説教室』のコンセプトを伺っていたときに、「お話を聞いていると、小説に興味がなくても、なんだか書いてみたくなる本になりそうですね」とお伝えしたところ、津原さんが「僕の母親でも(読んだら小説を)書こうと思うんじゃないかな」と笑って答えられていたことを思い出し、それをそのまま帯の惹句に使用しています。

余談ですが、本書の中で担当者が一番気に入っている一節がこちらです。

「パパに似てると思って付き合い始めたんですけど、今は死ねとしか思わないです」

さて、これはいかなる文脈で登場した文章でしょうか。答えはぜひ、本書でお確かめください。


■津原泰水(つはら・やすみ)
1964年、広島県生まれ。青山学院大学卒。89年、津原やすみ名義で少女小説作家としてデビュー。97年、現名義で発表した『妖都』以降、様々なジャンルを横断する作品を執筆。2012年、『11 eleven』が第2回Twitter文学賞国内部門1位となる。14年および25年の2回に亘り、短篇「五色の舟」がS-Fマガジン“オールタイム・ベストSF” 国内短篇部門1位に選出される。近藤ようこにより漫画化された同作が、第18回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞する。〈ルピナス探偵団〉〈幽明志怪〉〈たまさか人形堂〉シリーズほか、『少年トレチア』『綺譚集』『ブラバン』『ヒッキーヒッキーシェイク』『夢分けの船』『羅刹国通信』など著作多数。22年逝去。翌23年、第43回日本SF大賞功績賞を受賞した。