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内村鑑三の『後世への最大遺物』で再確認した「文章の力」

内村鑑三の『後世への最大遺物』を読んだ。

ざっくり内容を書き留めておくと、彼はキリスト教を信じながらも、「後世に何かを残したい」という思いが強くあった。

周りの信者からそうした思いは「俗物」であると否定されたそうだ。

しかしどうしても「一度きりの人生で偉大な何かを成し遂げたい。」その思いは変わらなかった。

ここでいう「何か」とは「自分はこんなに凄い存在だ」というようなエゴを満たすものではない。

例えば古代エジプトの王は、自分が生きた証としてピラミッドを建設した。それは自分という存在を永遠に人々の記憶に刻みたかったから。

内村鑑三が残したいものは、そうした自分の存在証明ではなく、自分の死後もこの世界を生きる人々のために、彼らの幸せに貢献できるような「何か」だった。

彼が後世に残せるものとして本書で挙げたものは以下だった。

・お金
・事業
・文学

お金は言うまでもないと思う。後世にお金を残すことができれば、世に貢献することも可能だ。

事業については少し補足が必要かもしれない。内村鑑三が考える事業とは「世の中への貢献」のことだ。それは必ずしもお金になる必要はない。

例えば本書に出てくる事例として、土木のための機械が存在しなかった時代に、山に穴を掘り、町へ水を引いた2人の兄弟の話が出てくる。

彼らは日常的な仕事とは別に「後世の役に立ちたい」という思いでこの取り組みを成し遂げた。これはまさしく人のためになることであった。

内村鑑三はこういうものを事業と呼んでいる。もちろん現代では事業が成功すればお金がついてくる。しかし事業とは世の中に役立つことであり、お金が得られるかどうかではないということだ。

そして、内村鑑三が後世に残せるものとして、文学を挙げていたのは、執筆を生業としている自分にとって、とても興味深いものだった。

文章は事業に匹敵する力を持つ。事業も世の中を変えるが、文章も世の中を変える。

例えばイギリスを中心に、ドイツ、フランスなどの国のあり方を変えたジョン・ロック。王権を否定し、個人の権利を確立する立役者になった。

文学は他者の思想に多大な影響を与え、その行動を変える力を持つ。

その上で、内村鑑三は「文章の力」を最大限に引き出すには「誠実さ」が大切だという。

ここでいう誠実さとは、自分の心に向き合い、深く掘り下げ、ありのままの本音を言語化していくことを指す。

正確な文法、気取った言い回し、こういうものは必要ない。

他の誰かの言葉ではなく、自分の本音を率直に書く。そうしてこそ読み手の心を打ち、影響を与える文章になる。

AI時代においてこの考え方はますます大切になってきていると感じた。

AIが書く文章は確かに綺麗だ。読みやすい。しかしそこに本人の本音が出ているか。心の奥底から取り出した正直で素直な気持ちが書かれているか。

もしそうでなければ人の心に刺さる文章にはなり得ない。

AIを使ってもいい。だとしても、自分の本音を素直に100%自分の言葉として表現できているか。そこまで推敲した上で世に出すべきということだ。

効率性を求めてAIでそれっぽい文章を出しても、人の心には届かない。何も響かない。空虚だ。

自分の心と向き合い、自分の本音を全力で絞り出す。

AIを使おうが、使わまいが、このプロセスは決して飛ばしてはならない。

内村鑑三の言葉を受け取り、改めてそう感じた。

しかし、彼はそこまで説明した後で、『後世への最大遺物』はお金でもなく、事業でもなく、文学でもないという。

では何が『後世への最大遺物』なのか。

ここでその答えを書いてしまえば、彼のメッセージを受け取る機会を奪うことになってしまうかもしれない。

だから興味があれば本書を読んでみてほしい。

それこそ、ここで彼が出した結論を説明しても意味はないと思う。その答えは内村鑑三の出したものだから。

『後世への最大遺物』というテーマにおいて「絶対的な正しさ」はない。あるのはそれぞれが出す「答え」だけだ。

だから内村鑑三が出した答えを知りたければ、直接、彼自身の言葉で彼のメッセージを受け取ってみてほしい。「文章の力」を再確認したければなおさらだ。

ちなみに2時間ほどあれば読める分量で、現代訳は読みやすかった。