[読書日記]破局
今回は少し変な文章になると思う。
というのも分かりそうで分からないような感じで、うまく言葉にするのが難しかった、まとめることが出来なかった。
文章というよりメモ、箇条書きのように感じるものになってしまった。
それを念頭に置いて読んで欲しい。
また考えたことをそのまま文字にしているので口語体と文語体が混じっていることもあると思うが、それも了承して欲しいと思う。
登場人物の対比から話したいと思う。
なによりもまずは陽介だ。主人公であり、そしてこの物語の語り手だ。
誰かが「自律的で他律的」と評していたが、これがすっと腑に落ちた。
周りから見れば善良な青年だが、それは社会規範によってそうさせられているだけであって自分自身の道徳的な観念からそうしているわけではなさそうなところがある。
感情が抑圧されているように見える。
自分が嬉しいかどうかも分からず、悲しい気持ちを悲しいままに受け止めることが出来ない。悲しむ理由が必要なのだと。可哀想な人物に思えてくる。
自然災害のように麻衣子に既成事実だけ作られ彼女の嫉妬心のために灯と破局させられてもなお、自分が社会規範から外れたと分かれば警察官に取り押さえられることに安堵してしまう。だから眠ってしまう。怒りがない。
違和感しかないがそう考えれば理解は出来る。でもそんな人間がいるということ、そんな物語を作ってしまう人間がいることが信じられない。
欲はある。欲だけがある。そのアンバランスさ。
灯については、欲が強く、それによって破滅しかけた女性のように見える。
陽介との行為に耽っている間に、食事を作ることもなくなり、部屋は荷物が散乱しメダカは一匹を残して死んでしまう。
しかし彼女は自分の感情、許せないという怒りから人間的な打算的な行動をとる。
通りにいる筋肉質な男性を見てからその方向に逃げ、彼と陽介が鉢合わせるようにする。警察官をその後に呼び、彼女はどこかへ消えてしまう。
酷いことをしてるとは思うが、陽介よりは人間らしいと思う。
麻衣子はもっと人間的だ。嫉妬心の塊と言っても差し支えないように思う。
というか灯の名前は陽介から聞いたのだろうか、もし陽介からでなかったとしたら、どうにかして灯の名前を知ることから始めた麻衣子の情熱には感心すらする。
知られなければ何もしていないのと同じと言い切る彼女は他の男性とも寝ていたのだろうと思う。陽介の上で腰を振ったときにぎこちなさがないのはその表れだろう。
それでも陽介が他の女と寝たと知れば相手を破滅させてやろうと行動する彼女は、社会規範に囚われず自分の感情に率直に行動している。
それに陽介と別れたあとには陽介よりもハイスペックそうな社会人の彼氏をつくってるあたりもちゃっかりしてるように見える。小悪魔的ではあるがとても人間的だと思う。
最後に膝だ。正直で、馬鹿っぽいところもあるが愛嬌もあり好感が持てる青年のように見える。
エントリーシートを書いてる最中に”誰にだって欠点はあるはずなのに、そういうところには一切触れず、長所ばかり並べ立てないといけないんだよ。そういうの、気持ち悪くないか?”と気持ちを吐露する。
風俗嬢の事をかっこいいと評し、内定を貰えばその会社のためにがんばろうとひたむきに頑張ろうとする。
社会規範ではなく、己の感じるままに生きようとする姿は陽介とは正反対に描かれているように感じる。
これらの登場人物の対比こそがこの物語の主軸なのではないかと思う。
陽介の感情の乏しさ、扱えなさ、異常なほどに自分の感情に向き合わなさすぎる様が浮き彫りになっているように感じる。
そして恐怖すら感じるのは、これらが読みやすすぎる文章で描かれていることだ。書かれている内容には違和感や薄ら怖さを感じるが、それを表現する文章は恐ろしく読みやすい。
どこがどうとは言いづらいが、著者の芥川賞の受賞インタビューを見た時に、これは著者自身の生きづらさ、心の叫びなのではないかと思えてくる。
他の作品も読めばより深く理解できるだろうか。
他いくつか気になった点をぽつぽつと。
道端で出会った少女と男性の話しが2回も出てくる。よく分からない、よく分からないけどこれに意味をつけるなら、陽介はその表面だけを見ている。無感情に、冷静に。
公務員が捕まった話しも同様にしつこいくらいに描写される。
社会規範から外れたものが罰せられている、それだけのことでそこから先の想像は何もない。
陽介にとってはそれで自然なことで、その人が何を考えていたのか、何が起きていたのかは関係ないとでも言うように。
全ての人の願いが叶えばいいのに、と突然祈りを捧げてしまう陽介に神聖さを感じた。太宰治の葉蔵を思い出した。
麻衣子の語った幼少期の話しはなんだったのだろうか。あれだけページを割いてなにも意味がないとは思えない、けど分からない。
ゾンビ、哲学的ゾンビ的な感情を持たない人間、そのことを単に示すために登場させたのだろうか。陽介がそういう人間であると?映画のシーンではゾンビが屈強な男を食い殺していた。灯の決意?ならゾンビは感情的な象徴になるはず。分からない。
灯の部屋のエピソード。山本さんや霊がいるという描写はなんだったのか。やはり陽介にとってはそれを想像することはなく、ただそういう情報でしかないということなのだろうか。
それに長谷部が部屋に来た描写。女と言っていたが本当か?それを気にすることもない陽介の様子のための描写なのだろうか。
何がテーマだったのか、社会規範に囚われ感情を抑圧している人間が増えていると言いたいのか、もしくは著者自身がそういう感じ方をすることがあるのだろうか。
この本のことが頭から離れない。強烈な違和感。
言葉でこの違和感を説明できるのだろうか。
説明し難いものだからこそ物語の形をとっているのではないか、というこの説明も的外れなものではないか。
引っかかり続ける。
そんな物語だった。
ここで筆を置いていいのだろうか、まだこの作品とこの著者を深く理解しようとするべきではないだろうか。
凡人の私はここまでしか書けなかった、後ろ髪を引かれる思いで、次の物語へと足を運ぶことにしよう。
