パイプの素材
ヌートリアスとしての初ライヴが終わった。PAサイドのトラブル等、もどかしい面はあったものの、大筋では満足している。ミキコアラマータとの共演は、自らの資質を確認するうえでも貴重なイヴェントとなりつつある。楽屋でビアンコ君が「ギターの音が似てますね。頭の中にある音が近いのかも」と云う。確かに、どちらがどちらのフレーズを弾いているのか、わからなくなる一瞬がある。ミキコちゃんと小山も、ハモると時々区別がつかなくなる。後者は小山の器用さの結果かもしれないが、ともあれ世代も背景も違う者同士が同じような音を出してしまうという現象は面白い。僕とビアンコ君は共に、ブライアン・ウィルスン的とでも云うのかな、音の理想郷を希求して俯き加減に演奏する傾向があるように思う。
細かい分析と反省はさておき、今夜はパイプの話でもしよう。澁澤龍彦がらみのエッセーにも書いたが、四十を過ぎて人前でも平然とパイプ喫煙するようになった。金子國義画伯が「偉そうに」と笑う。その時ばかりは「すみません」と陰で喫う。
実は二十代からパイプ喫煙者である。こちらに慣れると紙巻き――普通のたばこは、巻紙の味ばかりが気になる、パイプ用のたばこを切らすと普通のたばこをほぐして、パイプに詰めて喫う。ちゃんとパイプ喫煙の味がする。人がたばこの味と思っているものの半分は、巻紙の味なのだ。
ある雑誌から愛用品を紹介してほしいと云われ、机上のパイプをざっと持参した。喫わない人の目には区別がつかないらしく、とんだ安物ばかり撮影されてしまった。記事を御覧の愛煙家は失笑なさった事だろう。実際数千円の「とんだ安物」をくわえている時間は長いので、文句も云えない。ギターと同じ。値段が高いからといって喫い心地が良いとは限らない。
所持しているうち最も高価だったパイプは、半ば資料として買った1930年代のDUNHILLだが、これについては「流石ダンヒル」との感嘆と「古いから仕方がない」との諦めが半々かな。まあ製造から七十年を経て常用に支障が無いのだから、やはり素晴しいのだろう。最近はアクリル樹脂のチェック模様の吸口が付いたSAVINELLIをよく持ち歩いている。二万円もしなかったが喫い易いうえ見た目の評判もいい。ダンヒルは云うまでもなく英国、サヴィネリは伊太利の老舖である。
アクリルといえば、その、透明なボディのベースを太朗が持っている。厳密には僕が知人から借り、更に太朗に貸し出している。Ampeg製。たぶん'70年代の物だろう。スケールは短いのに、ごん、という凄い音がする。あれは削出しに手間がかかるらしいね。パイプでもアクリルの吸口は少数だ。大概はエボナイト。古い万年筆の軸等に使われている素材で、これは実はゴムなのだ。生ゴムに硫黄を混ぜて過熱すると硬化する。いったん硬化したのちも、八十度まで過熱するとまた簡単に変形できる。極めて便利な素材だ。木管楽器のマウスピースにも使われる。安価なクラリネットは全体がこれだったりする。
エボナイトの語源はエボニィ(黒檀)だ。黒く、磨けば美しい光沢を放つ。残念な事にこの黒さは長持ちしない場合が多く、コーティングが取れると次第に茶色っぽく変色してしまう。それを味わいと見る向きもあるので、必ずしも欠点とは云えないが。アイルランド(漢字では愛蘭です。愛らしい)のPeterson'sのパイプは全般に変色し易い。茶色どころか砂色になってしまった物もある。エボナイトが変色して何が悪い、という思想なのだろう。
先日、珍しく国産のパイプを買った。決して僕が舶来好みなのではなく、国産品自体が少ないのだ。柘製作所のTokyo 551というモデル。シャンク(吸口との繋ぎ)に根竹が使われている。ハンドメイドにたまに見られる手法で、ずっと魅力に感じていたが、若僧がくわえても様にならないと思い遠慮してきた。国産品らしい細やかさに感心している。でも何故か吸口が曲がっていた。湯に入れて過熱し、自分で修正した。エボナイト万歳。
たばこの葉を詰めて火を点ける部分(火皿と呼ぶ)は、まず大抵はブライヤ(ブライアー)で出来ている。地中海沿岸に育つエリカという植物の根こぶだそうだ。密度が高い。よく「パイプまで燃えてしまわないの」と問われるが、ブライヤが燃えにくいうえ喫っているうち炭素の層が形成されるので、余程頑張って強く吸っても火が移るものではない。玉蜀黍の芯で出来たコーンコブ・パイプ(マッカーサーがくわえていたあれ)は、だんだん燃えて減っていく。消耗品だ。
高密度で木目も美しい、また大きいと直径一メートルにも達するブライヤだが、それで出来た楽器はさすがに見た事がない。しかし話に聞いた事はある。Free、Facesに在籍したかの山内テツ氏のZEMAITISベースが、なんとブライヤ製だったと昔組んでいたベーシストから聞いた。山内氏自身が「パイプにする木」と仰有ったそうだし、ベーシストも僕のパイプを手にして「この木目」と断言していた。恐ろしく重い楽器だったそうだ。
ふだんコメント欄を見ないので、さっきまで気付かなかった。 (tsuhara)
2010-01-02 16:32:02
元気なの? メールくれよ。
