【5分で読める『人を育てる』一日一言】8月24日『理念を軸に生きる』
🌸 今日のひとこと
「人生・仕事の結果 = 考え方 × 熱意 × 能力」
—稲盛和夫
📖 27歳で創業した青年の決断
さて、皆様。今日は、京セラの創業者、稲盛和夫(いなもり かずお)氏の、若き日のお話をいたします。
昭和34年、西暦1959年、4月1日。稲盛氏、27歳。この日、京都・中京区の西ノ京原町にある、間口4間(約7メートル)の小さな倉庫で、京都セラミック株式会社(現・京セラ)が創業されました。
社員はわずか28名。資本金は300万円。まさに、町工場のような始まりでありました。
創業から2年目、昭和36年のある日、京セラを揺るがす、大きな事件が起こります。前年に採用した高卒の新入社員たち11名が、集団で稲盛氏のもとに押しかけ、こう詰め寄ったのであります。
「社長、我々は、将来の給料の保証と、ボーナスの保証を、書面でしてほしい。それができないなら、我々は、辞めさせていただく」
まだ稲盛氏自身が、来年、会社が続いているかも分からないほどの零細企業であります。将来の給料など、保証できるはずもありません。稲盛氏は、必死で説得を試みました。しかし、新入社員たちは、頑として譲りません。
3日3晩、稲盛氏は、彼らと徹底的に話し合いました。会社の状況、経営者としての自分の思い、彼らへの願い——ありとあらゆることを、話し合ったのであります。
そして、ある瞬間、稲盛氏は、こう気づいたと言います。
「私は、"稲盛和夫の技術を、世に問う"ために、会社を始めた。しかし、それは、私の私欲であった。会社というものは、そこで働く社員たちの、生活と幸せを守るために、あるものではないのか」
この気づきが、稲盛氏の経営者としての人生を、根本から変えたのであります。
稲盛氏は、以後、京セラの経営理念を、こう定めました。
「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」
「稲盛和夫の技術のため」ではありません。「全従業員の幸福のため」そして「社会の進歩のため」——この2つを、京セラの、絶対に譲れない理念として、掲げたのであります。
以後、稲盛氏は、この理念を、京セラという会社の、絶対の軸として、据え続けました。どんな困難があっても、どんな誘惑があっても、この理念だけは、絶対に動かさなかった。
結果として、京セラは、この理念の下、社員数8万人を超える、世界的企業へと成長したのであります。
稲盛氏は、後にこう語っておられます。
「私が、この60年、迷わずに経営を続けられたのは、この理念が、私の中に、確固として存在したからです。理念がなければ、私は、途中で挫折していたでしょう」
理念とは、単なる標語ではありません。人生の羅針盤であります。人生の嵐の中で、どちらへ進むべきかを示す、絶対の指針なのであります。
📚 古典・歴史からの学び — 陽明学の「一以貫之(いっ いって これ を つらぬく)」
古代中国の孔子は、弟子の曾子(そうし)に、こう語ったと伝わっております。
「参よ、吾が道は、一以て之を貫く」
「曾子よ、私の教えは、たった一つの原理で、貫かれているのだ」という意味です。
弟子たちが「先生の"一つの原理"とは、何でしょうか」と聞いた時、曾子はこう答えました。
「先生の道は、忠恕(ちゅうじょ)のみ」
「忠恕」とは、「真心と、思いやり」という意味です。孔子の教えは、多岐にわたるように見えますが、その根本は、「真心と、思いやり」——たった、この一つに集約されるのだ、というのです。
真に偉大な人物は、皆、「軸となる一つの理念」を持っております。この理念があるから、あらゆる複雑な状況の中でも、迷わずに、判断ができる。あらゆる誘惑の中でも、道を踏み外さない。
日本の江戸時代の思想家・佐藤一斎(さとう いっさい)は、こう申しました。
「一燈(いっとう)を提(さ)げて、暗夜を行く。暗夜を憂うこと勿(なか)れ。ただ一燈を頼め」
「たった一つの灯りを掲げて、暗い夜道を歩む。夜が暗いことを嘆くな。ただ、その一つの灯りを、信じ、頼りにせよ」
これは、まさに「理念を軸に生きる」ことの、詩的な表現ではないでしょうか。
人生には、暗い夜道のような時期が、必ず訪れます。事業が失敗する時期。家族に困難が訪れる時期。健康を失う時期。そういう時に、私たちを支えるのは、外の環境ではありません。私たちの内なる「一燈」——確固たる理念こそが、私たちを支えるのであります。
🏢 現代への橋渡し — パナソニックの「綱領・信条」
松下電器(現・パナソニック)には、昭和4年、西暦1929年に、松下幸之助氏が制定した「綱領・信条」というものがございます。
綱領:「産業人たるの本分に徹し、社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与せんことを期す」
信条:「向上発展は、各員の和親協力を得るに非ずんば、得難し。各員、至誠を旨とし、一致協力、社務に服すること」
これは、松下電器を、単なる金儲けの会社ではなく、「社会に貢献する会社」として定義した、極めて重要な理念であります。
そして松下氏は、生涯にわたって、この理念を、社員に語り続けました。毎朝の朝礼で、社員全員がこの理念を唱和する。会議の冒頭で、必ずこの理念を確認する。新入社員研修では、この理念を、何度も何度も、繰り返し教える。
松下氏は、こう申されました。
「経営理念は、社員全員が、自分の言葉として語れるようにならなければならない。そのためには、10回、100回、1000回、繰り返し伝えなければならない」
そして、驚くべきことに、パナソニックでは、このプラクティスが、今も続いております。国内3万人、世界23万人の社員が、皆、この綱領・信条を、共有しているのです。
昭和のパナソニックの高度成長も、平成の経営危機からの復活も、そして令和の新たな挑戦も——すべては、この理念という「軸」があったからこそ、成し得たのであります。
会社が、10年、50年、100年と続くためには、必ず、「揺るがない軸」が必要であります。人にも、これは、まったく同じことが言えるのです。
🌏 西洋からの学び — ネルソン・マンデラの「27年の獄中生活」
南アフリカ共和国の元大統領、ネルソン・マンデラ。彼は、人種隔離政策(アパルトヘイト)に抵抗し、27年間もの間、獄中で過ごした、伝説的な人物であります。
マンデラが逮捕された時、彼は44歳でありました。獄中生活27年。出所した時、彼は71歳になっておりました。人生の、最も充実したはずの時期を、彼は、狭い独房で過ごしたのであります。
多くの人は、こう考えるでしょう。「27年も獄中にいれば、心が折れて、当然だ」と。しかしマンデラは、獄中で、決して心を折らなかったのです。
なぜか。
彼には、揺るぎない理念があったからであります。
「全ての人間が、肌の色に関わらず、平等に扱われる、南アフリカを作る」
この理念のためなら、27年でも耐えられる。50年でも耐えられる。彼は、そう固く信じていたのであります。
そして、1990年、南アフリカ政府は、ついにマンデラを釈放しました。71歳になったマンデラは、獄中の27年間、一度も憎しみを口にしなかったと言います。
「私は、看守たちを、憎むことは、なかった。もし憎めば、私は、彼らの心の獄中に、閉じ込められることになる。私は、自由でいたかった。だから、私は、憎まなかった」——彼は、後にこう語っております。
そしてマンデラは、1994年、南アフリカ史上初の全人種選挙で、大統領に当選。アパルトヘイトを完全に廃止し、白人と黒人の融和を、実現させたのであります。
理念を、生涯貫き通した男。そして、その理念のために、27年間の獄中生活も、耐え抜いた男。マンデラの人生は、私たちに、こう教えてくれます。
「真に確固たる理念を持った人間には、どんな困難も、屈することはできない」
🎯 中学生にもわかる話 — 「あなたの人生の"軸"は何ですか?」
若い方々に、こんな話をいたします。
私たちの人生には、「これだけは、絶対に譲れない」という、大切なものが、必ずあります。
・自分は、家族を絶対に大切にする
・自分は、嘘は絶対につかない
・自分は、弱い者いじめは絶対にしない
・自分は、諦めない
・自分は、感謝を忘れない
これらは、あなたの人生の「軸」であり、「理念」であります。
そして、この軸を持っている人は、人生の様々な場面で、迷わずに、正しい判断ができます。
友達がいじめをしていた時。「自分は、弱い者いじめは絶対にしない」という軸があれば、いじめに加わらずに、いじめられている子を助けることができる。
テストで、隣の答えが見えた時。「自分は、嘘は絶対につかない」という軸があれば、カンニングの誘惑に、負けずに済む。
苦しいことがあった時。「自分は、諦めない」という軸があれば、辛くても、前を向いて歩き続けることができる。
軸のない人は、その場、その場で、判断がぶれます。友達の顔色を伺い、周りの空気に流され、目先の得に引っ張られる。そして、後から振り返った時、「なんで自分は、あんな選択をしたんだろう」と、後悔することになるのであります。
だから、若い方々には、こうお伝えしたい。
「今のうちに、あなた自身の"軸"を、決めておいてください」
紙とペンを用意して、こう書き出してみてください。
「自分は、こういう人間でありたい」
「自分は、こういうことを、絶対に譲らない」
「自分は、こういう人生を、生きたい」
これが、あなたの「理念」であります。この理念があなたを、必ず、素晴らしい未来へと、導いてくれるのであります。
💼 職場での応用 — 「経営理念を、毎日語る」
朝礼で、経営者・指導者の皆様に、こう問いかけてみてください。
「あなたの会社の"経営理念"は、社員全員が、自分の言葉で語れますか?」
多くの中小企業では、社長は理念を掲げていても、社員はそれを覚えていない、あるいは意味を理解していない、というケースが多々あります。これは、非常にもったいないことであります。
京セラでは、毎朝の朝礼で、「京セラフィロソフィ」の一節を、全社員で唱和いたします。パナソニックでも、毎朝、「綱領・信条」を、全社員で唱和いたします。トヨタでも、毎朝、「トヨタウェイ」を、確認いたします。
これは、単なる形式ではありません。理念を、社員の血肉にするための、極めて重要なプラクティスなのであります。
松下幸之助氏は、こう申されました。
「経営理念は、100回言って、初めて社員の耳に届く。1000回言って、初めて社員の口から自然と出るようになる。1万回言って、初めて社員の判断基準になる」
朝礼で、月に一度でも構いません。「うちの会社の理念は、こうです。なぜこの理念を掲げているか、皆さんに、改めて話します」と、社長自らが、繰り返し語る。
これを続けていくと、必ず、社員の心に、理念が浸透していきます。そして、社員一人ひとりが、この理念を軸に、判断・行動するようになる。そういう組織は、必ず、揺るぎない強さを、身につけていくのであります。
🎯 今日の行動指針
「今日、あなた自身の"人生の軸"を、3つ、紙に書き出す」
大きなことでなくて構いません。あなた自身の言葉で、書いてみてください。
「私は、○○を大切にする」
「私は、○○を絶対にしない」
「私は、○○のために生きる」
そして、書いたら、その紙を、財布に入れて、常に持ち歩いてください。迷った時、疲れた時、その紙を、取り出して、読み返す。
これが、あなたの人生の羅針盤になります。この羅針盤があれば、あなたは、どんな嵐の中でも、道を見失わずに、進んでいけるのであります。
❓ 朝礼で使える3つの問いかけ
1. あなたの人生の"軸"は、何ですか?
2. あなたの会社の"理念"を、自分の言葉で語れますか?
3. 迷った時、あなたを支えてくれる"言葉"は、何ですか?
✨ 今日の一行実践
「今日、自分の"人生の軸"を3つ、
紙に書き出し、財布に入れて持ち歩く」
🔥翌日予告
明日は「基本を徹底する〜イチロー『準備の準備』〜」をお届けします。
