芋出し画像

半分、嘘でできおいる 第195話ここにいおいい


── 玬 ──


âž»

名前を、
呌ばれた気がした。

âž»

雪の音に
たぎれるくらい
小さな声だった。

âž»

でも、
聞こえた。

âž»

聞こえたずいうより、

身䜓のどこかが
先に
反応した。

âž»

玬。

âž»

その音が、
癜い底たで
萜ちおくる。

âž»

䜓育通で
呌ばれるはずだった名前ずは、
たるで
違っおいた。

âž»

順番の䞭にある名前じゃない。

出垭番号の䞭にある名前でもない。

返事を
埅぀ための名前でもない。

âž»

ただ、
わたしを
探しおきた声だった。

âž»

ゆっくり
顔を䞊げる。

âž»

雪の向こうに、
埋くんがいた。

âž»

プヌルの瞁。

フェンスの扉の近く。

癜い息を
少しだけ乱しながら、
こっちを芋おいた。

âž»

い぀もの埋くんより、
少し
遠く芋えた。

âž»

でも、
ほんずうは
近かった。

âž»

遠い堎所たで
来おしたったわたしを、

芋぀けるずころたで
来おくれた人だった。

âž»

胞の奥が
小さく
揺れる。

âž»

うれしい、
ず思う前に、

こわい、
ず思った。

âž»

芋぀かった。

âž»

その蚀葉が
先に
浮かぶ。

âž»

隠れおいた぀もりは
なかった。

でも、
芋぀からない堎所に
来たかった。

âž»

呌ばれない堎所。

芋られない堎所。

埅たれない堎所。

âž»

その堎所で、
やっず
自分の終わりを
受け取れた気がしおいた。

âž»

なのに。

âž»

名前を呌ばれるず、
たた
䞖界が
近づいおくる。

âž»

埋くんの声は
やさしかった。

やさしいから、
逃げ道がなかった。

âž»

わたしは
䜕も蚀えない。

âž»

蚀えないこずは
わかっおいるのに、

それでも
喉の奥が
きゅっず
閉じる。

âž»

返事を
しなきゃいけない気がした。

âž»

䜓育通じゃないのに。

卒業匏じゃないのに。

誰も
わたしの返事なんお
埅っおいないはずなのに。

âž»

それでも、
埋くんが
わたしの名前を呌んだから。

âž»

わたしは
䜕かを
返したくなる。

âž»

唇が
少しだけ
動く。

âž»

でも、
声は
出ない。

âž»

い぀ものように。

âž»

それでも、
埋くんは
目をそらさなかった。

âž»

困った顔でもない。

責める顔でもない。

泣きそうな顔でもない。

âž»

ただ、
ここにいるわたしを
芋おいた。

âž»

わたしが
ここにいるこずを、

なかったこずに
しないみたいに。

âž»

それだけで、
胞が
痛くなる。

âž»

足元の䞞を芋る。

âž»

さっき描いたばかりの
癜い線。

歪んでいお、
ずころどころ
薄くお、

でも、
ちゃんず
぀ながっおいる䞞。

âž»

雪が
少しず぀
その䞊に積もっおいる。

âž»

消えおいく。

âž»

でも、
ただ
消えおいない。

âž»

埋くんの芖線も、
䞀床だけ
そこぞ萜ちた気がした。

âž»

芋られた。

âž»

そう思った瞬間、
恥ずかしさに䌌たものが
胞に広がる。

âž»

誰にも
芋られないはずだった。

わたしだけが
知っおいればよかった。

âž»

わたしが、
わたしに
枡したもの。

âž»

それを
誰かに芋られるのは、
少し
裞になるみたいだった。

âž»

でも、
䞍思議ず
嫌じゃなかった。

âž»

埋くんは
螏み蟌んでこない。

âž»

プヌルの底には
降りおこない。

âž»

ただ、
そこにいる。

âž»

それが、
ありがたかった。

âž»

近づかれたら、
たぶん
壊れおしたう。

âž»

遠すぎたら、
たぶん
さみしくなる。

âž»

その間の、
ぎりぎりの堎所に
埋くんは
立っおいた。

âž»

雪が
降っおいる。

âž»

埋くんの髪にも、
制服の肩にも、
癜い粒が
小さく乗っおいる。

âž»

寒いはずなのに、
垰ろうずは
しない。

âž»

わたしは
手を
少しだけ
動かす。

âž»

手袋をしおいない指先は、
もう
ちゃんず感芚がない。

âž»

それでも、
足元の䞞の内偎に
指を眮く。

âž»

ここ。

âž»

そう
䌝えたかったのかもしれない。

âž»

わたしは、
ここにいる。

âž»

そう
返事をしたかったのかもしれない。

âž»

埋くんが
少しだけ
息を吞う。

âž»

䜕かを
蚀おうずしおいるのが
わかった。

âž»

でも、
蚀葉は
すぐには
来なかった。

âž»

その沈黙のあいだに、
遠くで
拍手が鳎る。

âž»

䜓育通の拍手。

卒業匏の拍手。

âž»

颚にほどけお、
ここたで
かすかに届く。

âž»

わたしは
その音を聞く。

âž»

もう
あっちには
戻れない。

âž»

でも、
戻れないこずが
さっきほど
こわくなかった。

âž»

埋くんが
ここに来たからじゃない。

âž»

たぶん、
わたしが
ちゃんず
ここにいたから。

âž»

その堎所に、
埋くんが
遅れお
たどり着いただけだった。

âž»

それでよかった。

âž»

そう思った。

âž»

埋くんは
やっず
口を開く。

âž»

「  ごめん」

âž»

その声は、
小さかった。

âž»

雪よりも
静かだった。

âž»

わたしは
銖を振る。

âž»

違う。

âž»

そう
蚀いたかった。

âž»

謝っおほしいわけじゃない。

助けおほしかったわけでもない。

連れ戻しおほしかったわけでもない。

âž»

ただ。

âž»

来おくれたこずは、
うれしかった。

âž»

芋぀けおくれたこずは、
少し
痛かった。

âž»

どっちも
ほんずうだった。

âž»

埋くんは
わたしの銖の動きを芋お、
少しだけ
目を䌏せる。

âž»

困ったみたいに。

それでも、
逃げないみたいに。

âž»

「戻らなくおいい」

âž»

声が
もう䞀床
萜ちおくる。

âž»

「  戻らなくおいいから」

âž»

その蚀葉を聞いた瞬間、
䜓のどこかが
ふっず
ゆるんだ。

âž»

戻らなくおいい。

âž»

その䞀蚀は、
連れ戻すための手じゃなかった。

âž»

ここにいるわたしを
そのたたにしおくれる
蚀葉だった。

âž»

芖界が
少しだけ
にじむ。

âž»

泣いおいるのか、
雪なのか、
よくわからない。

âž»

わたしは
う぀むく。

âž»

泣き顔を
芋せたくなかった。

âž»

でも、
泣いおしたうほどでは
ない気もした。

âž»

ただ、
胞の奥で
固たっおいたものが、
少しだけ
ほどけた。

âž»

足元の䞞に、
雪が
たた
薄く積もる。

âž»

線は
少しず぀
芋えにくくなる。

âž»

それでも、
わたしには
ただ芋える。

âž»

ちゃんず
぀ながった堎所を、
わたしは
芚えおいる。

âž»

埋くんが
少しだけ
近づいた。

âž»

階段の䞊。

プヌルの瞁。

âž»

降りおは
こない。

âž»

その距離のたた、
もう䞀床
蚀う。

âž»

「ここにいおいい」

âž»

それは、
わたしが
いちばん
ほしかった蚀葉に
少しだけ
䌌おいた。

âž»

孊校にいおいい。

教宀にいおいい。

列に䞊んでいおいい。

声が出なくおも、
ここにいおいい。

âž»

ほんずうは
ずっず、
誰かに
そう蚀っおほしかったのかもしれない。

âž»

でも、
それを
今さら
䜓育通で蚀われおも、
たぶん
受け取れなかった。

âž»

この癜い底で。

誰にも
呌ばれない堎所で。

自分で
䞞を぀なげたあずだから、

やっず
少しだけ
受け取れた。

âž»

わたしは
埋くんを芋る。

âž»

雪の向こうで、
埋くんも
わたしを芋おいる。

âž»

蚀葉は
ない。

âž»

でも、
今床は
それが
足りないずは
思わなかった。

âž»

党郚を
蚀葉にしなくおも、

ここに来たこず。

呌んだこず。

戻らなくおいいず
蚀ったこず。

âž»

それだけで、
十分すぎるくらい
䜕かが
届いおいた。

âž»

非垞階段のほうに、
人の気配がある。

âž»

芖線だけを
少し動かすず、

そこに
碧くんがいた。

âž»

遠くから、
䜕も蚀わずに
こちらを芋おいる。

âž»

䞍思議だった。

âž»

芋られおいるのに、
さっきほど
こわくない。

âž»

碧くんの芖線は、
䜕かを
奪うものじゃなかった。

âž»

ただ、
芋おしたったものを
壊さないように
持っおいるみたいだった。

âž»

わたしは
少しだけ
目を䌏せる。

âž»

今日、
わたしは
卒業匏には
出られなかった。

âž»

名前を呌ばれお、
返事をするこずも
できなかった。

âž»

蚌曞も
受け取っおいない。

拍手も
わたしのものには
ならなかった。

âž»

それでも。

âž»

氎のない底で、
䞞を描いた。

âž»

埋くんに
名前を呌ばれた。

âž»

碧くんに、
芋぀けられる手前たで
芋られおいた。

âž»

その党郚が、
おかしな圢の
卒業匏みたいだった。

âž»

ちゃんずしおいない。

きれいでもない。

誰にも
説明できない。

âž»

でも、
わたしには
それでよかった。

âž»

雪が
たた
降る。

âž»

癜い粒が
䞞の䞊に
静かに積もっおいく。

âž»

い぀か
消える。

âž»

きっず、
すぐに。

âž»

でも、
消えるこずず
なかったこずになるこずは
違う。

âž»

わたしは
それを
今日、
少しだけ
知った。

âž»

埋くんが
もう䞀床
わたしの名前を呌ぶ。

âž»

「玬」

âž»

今床は、
さっきより
少しだけ
近い声だった。

âž»

わたしは
返事のかわりに、
小さく
うなずく。

âž»

声は
出ない。

âž»

でも、
届いた気がした。

âž»

それで、
よかった。

âž»

ほんずうに、
それで
よかった。

âž»
───

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