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【論文紹介4】 非エコープラナー画像によるダイナミック造影 MRI に現れた、動脈入力関数画像信号の位置ずれアーチファクト

この記事では、私が英国での博士研究員時代に、【論文紹介3】に関わる研究のなかで発見した現象と、その解明に関して報告した論文を紹介します。

Misregistration artifacts in image-derived arterial input function in non-echo-planar imaging-based dynamic contrast-enhanced MRI.

Kuribayashi H, Worthington PL, Bradley DP, Checkley DR, Tessier JJ, Waterton JC.
J Magn Reson Imaging. 2007;25:1248-1255 
doi: 10.1002/jmri.20924.

この論文は、論文の英文タイトルに貼ったリンク先で読むことができます。ダウンロードも可能です (PDF マークをクリックしてください)。


どんな内容?

【論文紹介3】で紹介した、ダイナミック造影 MRI (Dynamic Contrast-Enhanced MRI, DCE-MRI) を目的として開発した semikeyhole 法により、ラットの単一スライスの二次元 MRI を 0.5 秒間隔で連続スキャンできるようになりました。
 その、ラット腹部の応用で、腹部大動脈内の血液信号強度の時間変化から、ガドリニウム (Gd) 造影剤の動脈入力関数 (Arterial Input Function, AIF) を抽出するために、血液信号画像を観察していると、Gd 造影剤注入直後の血液信号画像が、位相エンコード方向に 2 ピクセル移動し、3 秒後に元の位置に戻る現象がみられました (Fig. 3)。

Gd 造影剤投与前のラット腹部 MRI (a) と、
Gd 投与直後の腹部大動脈内血液信号画像 (b) の位置ずれ現象 (c, d)

血液信号画像が、Gd 造影剤投与直後から 2 ピクセル位置が下がり、その後、元の位置に戻った。また、戻るタイミングが、スライディングウィンドゥ法により変化した。この画像の縦方向は、パルスシーケンスの位相エンコード方向と対応している。(公開されている国際学会の要旨より)

この DCE-MRI の、各時相の MRI の元となる k-空間の構成には、スライディングウィンドゥ (sliding-window) 法 (Fig. 2a) を導入しましたが、血液信号画像の移動現象が、どのデータから生じたものかを特定するために、1) 血液信号強度が上昇しはじめたタイミングで k-空間データのすべてを更新する方法 (Fig. 2b) と、2) 血液信号強度が最大となったタイミングで k-空間データのすべてを更新する方法 (Fig. 2c) も試しました。その結果、2) の方法では、移動した血液信号画像が 2 秒後に元の位置に戻り、その戻ったタイミングは血液信号強度が最大となったタイミングと一致していました。その結果から、Gd 造影剤の投与後に血液信号強度が上昇した 2 秒の間に取得されたデータが、血液信号画像を位相エンコード方向に移動させたと結論づけました。

スライディングウィンドゥ法
a は一般的な方法で、上の図の c の位置ずれ現象を与えた。b は、血液信号が最大を迎えた後のデータを window 2 として全て更新する方法で、そのタイミングでずれた血液信号画像が元の位置に戻った (上の d の位置ずれ現象)。(公開されている国際学会の要旨より)

Gd 造影剤の MRI スキャンにおける主な作用は、分布した組織中の水の緩和時間の短縮ですが、その組織の常磁性効果による体積磁化率も変化するため、分布した組織中の水信号の共鳴周波数をシフトさせます (Eq. 1)。その水信号は、Gd 血中濃度の上昇とともにシフトし続けます。そのため、位相エンコード傾斜磁場がエコーデータに付加した位相情報に、Gd 血中濃度の上昇による位相情報 (Eq. 2) が加わり (Eq. 3)、それが血液信号画像を位相エンコード方向に移動させたと考察しました。
 そのラット腹部の応用で、位置ずれした血液信号画像は、位相エンコード方向にボケていました (Fig. 3d)。そこで、造影剤注入直後の血液信号強度の時間変化 (Fig. 6c, 簡易モデル) 中に、semikeyhole 法の k-空間軌跡 (Fig. 6a) で取得したデータが血液信号画像に与える影響を、点広がり関数 (Point Spread Function, PSF) による位相エンコード方向の一次元 MRI シミュレーションで調べました。若干の信号の広がりは認められましたが、ゴースト信号は認められませんでした。一方で、semikeyhole 法の k-空間の外側データを centric order で取得する k-空間軌跡 (Fig. 6b) でシミュレーションをしたところ、血液信号強度が低下し、その分、ゴースト信号が強く発生しました (Fig. 6e)。その結果から、ラットの応用に用いた sequential order の k-空間軌跡の妥当性が認められました。
 最後に、造影剤注入直後の DCE-MRI の、血液信号画像に起こり得る位置ずれアーチファクトやゴースト・画像のボケと、その原因・解決法をまとめ (Table 1)、位置ずれした血液画像の信号強度を解析する際には、Fig. 5b に示したような関心領域 (Region of Interest, ROI) の追跡を推奨しました。

もう少し詳しく! 位置ずれアーチファクトの方向

MRI には、スキャン法 (パルスシーケンス) の特徴により、偽像 (アーチファクト) が現れることがあります。その一つが画像の位置ずれで、有名なものは脂肪を含む組織の画像の位置ずれです。金属付近の組織の画像が変形するのも、画像の位置ずれによる結果といえます。MRI は、水の共鳴周波数でラジオ波 (RF) を照射し、その周波数でエコーデータを受信し画像化しますが、脂肪の共鳴周波数は水のそれから少しずれています。金属付近の水の共鳴周波数も、金属の種類や形状で磁場が乱れるためにずれますし、金属からの距離にも依存します。
 画像の位置ずれは、スピンエコーやグラジエントエコーシーケンスなどによる画像では周波数エンコード方向に、エコープラナー画像 (Echo-Planar Imaging, EPI) では位相エンコード方向に現れると、教科書などに書かれています。そのずれの程度は、エコーデータのデータサンプリング速度と k-空間データサンプリングによる周波数のずれの蓄積により決まります。脂肪画像の周波数エンコード方向の位置ずれは、エコーデータのサンプリング速度により決まり、バンド幅 (bandwidth) というスキャン条件で制御できます。EPI シーケンスでの位置ずれは、エコーデータのサンプリング速度が大変速いために、周波数エンコード方向には現れませんが、k-空間を一筆書き的にデータを埋めていくための位相エンコードブリップ傾斜磁場パルスが、周波数のずれの効果を蓄積させるため、その k-空間をフーリエ変換により画像再構成すると、位相エンコード方向に現れます。
 この論文で報告した Gd 造影画像の位置ずれは、脳組織への血液の灌流を計測するダイナミック磁化率コントラスト MRI (Dynamic Susceptibility-Contrast MRI, DSC-MRI) において現れることが、既に報告されていました (引用文献 12-14)。それらの DSC-MRI では、EPI やスパイラル (spiral) パルスシーケンスが用いられていました。造影剤注入直後の Gd 血中濃度の上昇が、常磁性効果により血液中の水信号の共鳴周波数をシフトさせ、それらのパルスシーケンスにより現れるアーチファクトの方向と同じく、位相エンコード方向に血液信号画像が位置ずれしたと、説明しています。元々、DSC-MRI は、Gd が血流によって到達した組織の磁化率の変化を画像化する手法であるために、血液信号画像の位置ずれを血管内体積の磁化率変化による水信号の共鳴周波数のシフトが原因と解明したのも、自然な流れだったのかもしれません。
 この研究では、EPI パルスシーケンスではなく、スポイルドグラジエントエコー (Spoiled gradient-recalled echo, SPGR) パルスシーケンスで DCE-MRI スキャンを行いました。EPI パルスシーケンスでは、周波数のずれ効果をパルスシーケンスが蓄積しますが、この SPGR パルスシーケンスによる DCE-MRI では、造影剤注入直後の Gd 血中濃度の上昇が、k-空間データを埋めている間に血液中の水信号の共鳴周波数を継続的にシフトさせ、付加された位相情報分の位置ずれが、位相エンコード方向に生じたと理解しました。画像の例 (Fig. 3) では体の前後方向へのずれでしたが、もう一例試しており、周波数エンコードと位相エンコードの軸を入れ替えてスキャンしたため、体の左右方向へのずれとなりました。したがって、位置ずれの方向は、共に、位相エンコード方向でした。
 なお、長々と説明しましたが、数学やフーリエ変換に強い方には、フーリエ理論である「周波数領域でのシフトは、時間領域での線形位相シフトに相当する」ことから、この位置ずれ現象を理解いただけるかもしれません。K-空間データサンプリング中の Gd 血中濃度の増大が、血液中の水信号の共鳴周波数 (Eq. 1) および位相 (Eq. 2) を線形的にシフトさせ、フーリエ変換された領域 (MRI では周波数領域を位置情報に変換して示している) でシフト (= 位置ずれ) する訳です。

この現象は、臨床の DCE-MRI でも起き得るのか?

この論文で紹介した、DCE-MRI の血液画像信号の位置ずれ現象が、臨床の MRI でも起きるか否かは、Discussion 中の式5から推測できます。その中のラーモア周波数は、その値に比例する磁場の強さで比較すると、4.7 T (論文) vs 3 T 以下 (臨床)。また、Gd 造影剤濃度は、Gd 投与量で比較すると、0.8 mmol/kg (論文) vs 0.1 mmol/kg (臨床)。その二つの値の積は、3.8 (論文) vs 0.3 (臨床) となりますので、臨床 DCE-MRI で血液信号画像の位置ずれ現象が起きる可能性は一桁低いと推測されます。さらに、血液量と心拍数の違い、臨床での造影剤注入速度を考慮に入れると、その可能性はさらに低くなります。
 DCE-MRI の応用とは異なりますが、「Gd 標識をした細胞をカテーテルを介して投与し、その動態をリアルタイム MRI で観察するような場合には、血液信号画像の位置ずれ現象が起きるかもしれない」と予測し、論文の Discussion 中に示しました。その発想は、MRI の国際学会 (ISMRM) で、細胞治療の手法開発の話を聞く機会があり、「Gd 標識をした細胞を、リアルタイム MRI スキャンをしながらカテーテル投与をする際に、目的の部位への投与を失敗する例が多い」という講演者の体験を聞き、思いつきました。投与体積中の Gd 濃度が高く、高速スキャンをすれば、この論文と同様の位置ずれが起きるのではないかと思いました。その講演者とは、学会後にメールでやりとりをし、「その失敗の原因は他に見つかった」と教えて頂きましたが、「私の発見が何かの役に立てば」と思った出来事でした。

動脈入力関数 (AIF) の DCE-MRI における現状

この研究を行った 2004 年頃は、まだ DCE-MRI の黎明期で、「腫瘍血管に関するパラメータ (例えば、腫瘍組織中の毛細血管体積比) を薬物動態モデルで算出するためには、各被験者の DCE-MRI 画像データから AIF データを抽出することが望ましい」と、複数の DCE-MRI ワークショップにおいて見解が示され、この論文の冒頭でも紹介しました。ですが、血管内という小さな画像領域から抽出する信号強度 - 時間曲線の信頼度を疑問視する意見が増えました。空間分解能の低さに加えて、ダイナミックスキャンの時間分解能の低さにより、血液信号強度の真の最大値の観測を逃しているのではないか、という推察もありました。また、DCE-MRI は、抗がん剤投与前後に実施し、その結果を比較するために、解析結果の高い再現性が必要とされますが、信頼度の低い AIF データが DCE-MRI で算出されるパラメータの定量性および再現性に影響することも懸念されました。その結果、DCE-MRI データを解析する際の AIF データは、各被験者の DCE-MRI 画像データから抽出するのではなく、定量性高く得られた AIF データの集団平均を使用することが一般的となりました
 その後、MRI の技術は進歩し、臨床における 3T MRI の普及と、アレイコイルを用いたパラレルイメージング法や高速パルスシーケンスの開発により、画像感度が向上し、ダイナミックスキャンの時間分解能も向上しました。今後、深層学習が DCE-MRI の空間・時間分解能と画像感度の問題を改善し、血液信号画像の自動選定や、AIF データの信頼度の向上も実現すると、各被験者の DCE-MRI 画像データから AIF を抽出する動きが再び訪れるかもしれません。超高速ダイナミックスキャンと 7T MRI といった超高磁場 MRI とを組み合わせた場合、この論文で紹介した血液信号画像の位置ずれが臨床の DCE-MRI でも見られるかもしれず、その時には、この論文が信頼性の高い AIF 抽出の一助になればと、願う次第です。 

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