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【論文紹介3】 ダイナミック造影 MRI のための、前飽和パルスと EXORCYCLE 位相回しを導入した積算キーホールパルスシーケンス

この記事では、私が英国での博士研究員時代に、【論文紹介2】の次に関わった研究の技術的論文を紹介します。

Averaging keyhole pulse sequence with presaturation pulses and EXORCYCLE phase cycling for dynamic contrast-enhanced MRI.

Kuribayashi H, Bradley DP, Checkley DR, Worthington PL, Tessier JJ.
Magn Reson Med Sci. 2004;3:207-210.
doi: 10.2463/mrms.3.207.

この論文は、論文の英文タイトルに貼ったリンク先から、ダウンロード可能です (ページ右の赤ボタンをクリックしてください)。


どんな内容?

抗がん剤の一つである血管新生阻害剤の研究を、がんを移植したラットを対象とし、T1 強調画像の連続スキャン中にガドリニウム (Gd) 造影剤を短時間で一度に静脈内に注入し、時間経過とともに投与5分後位までスキャンを続けるダイナミック造影 MRI (Dynamic Contrast-Enhanced MRI, DCE-MRI) の手法で行うための、高速スキャン法 (パルスシーケンス) が必要でした。
 キーホール (keyhole) イメージングは、ダイナミックスキャンにおいて、空間分解能を落とすことなく、時間分解能を高める技術です。画像コントラストに大きく寄与する k-空間の中心部分のデータのみを連続収集し、それ以外の k-空間の外側データは、連続スキャン中に一度だけ収集します。それらを組み合わせて各時相の k-空間を構成し、MRI 画像を再構成します。但し、それらのデータを組み合わせた際に、信号強度や被写体の位置の変化などによるデータの差異が大きいと、画像が歪んだり、ゴーストなどの不要な信号 (アーチファクト) が現れます。それらを防ぐための、k-空間の外側データも時々取得して更新する方法が発表されており、この研究においてもそれを導入し (Fig. 2)、セミキーホール (semikeyhole) 法と名付けました。その結果、単一スライスの二次元 MRI を、0.5 秒間隔で連続スキャンできるようになりました。

セミキーホール (semikeyhole) 法の K-空間軌跡
縦軸が K-空間の位相エンコード数で、横軸が時間。K-空間の中心データ (赤) と外側データ (灰色) を交互に取得し、画像再構成により赤色データ取得の間隔を時間分解能とするダイナミック MRI を出力可能とする。(公開されている国際学会の要旨より)

DCE-MRI では、Gd 造影剤濃度を画像強度に反映させるために、T1 強調画像の連続スキャンで行われ、スポイルドグラジエントエコー (SPoiled Gradient-Recalled echo, SPGR) パルスシーケンスが広く用いられています。このラットを用いた研究では、高速スキャンを目的としたため、単一スライスの二次元 SPGR パルスシーケンスを使用しましたが、血液信号に、スライス体積の外からの血液の流入 (Time-of-Flight, TOF) 効果が加わるために、T1 強調画像の信号強度と Gd 造影剤濃度との線形性が崩れます。また、造影剤の静脈内投与直後には、特に血液信号において T1 短縮効果に T2* 短縮効果が加わり、その線形性をさらに崩します。そこで、この研究では、その二つの影響を低減させる、飽和回復 (saturation recovery) SPGR パルスシーケンスを用いました。

ガドリニウム (Gd) 濃度と T1 強調画像の信号強度 (SI) との関係
SPGR パルスシーケンス (ピンク) では、Gd 濃度が 1 mM を超えると T2* により効果が勝り、信号強度が低下する。そのパルスシーケンスの冒頭に飽和パルスを導入して飽和回復 SPGR パルスシーケンス (黒) とすると、信号強度は低下するが、造影剤濃度と信号強度の線形性は保たれる。P792 は、当時開発されていた血液滞留性 Gd 造影剤。(公開されている国際学会の要旨より)

その飽和回復 SPGR パルスシーケンスは、前置き飽和パルス (presaturation pulses) として、フリップ角 90 度の RF パルスと、その後のクラッシャー傾斜磁場パルスにより磁化を消し、その後に T1 回復した磁化を SPGR パルスシーケンスで画像化します。但し、前置き飽和パルスで磁化を完全に消去することは難しく、消え残った磁化が画像にアーチファクトを載せます (Fig. 3b)。そこで、飽和回復 SPGR パルスシーケンスに、RF パルスの位相回し法である EXORCYCLE を導入し (Fig. 1)、データの積算によりアーチファクトを除去しました (Fig. 3c)。
 このパルスシーケンスと画像再構成により、ラットの腹部大動脈中の信号から、Gd 造影剤の動脈入力関数 (Arterial Input Function, AIF) を 0.5 s の時間分解能で得ることができ、投与直後の Gd 造影剤の血中濃度の上昇も観察することができました (Fig. 5)。

もう少し詳しく! ダイナミックスキャン法

現在では、パラレルイメージングや圧縮センシング、深層学習 (ディープラーニング) 技術などを活用した、k-空間データの間引きによる高速ダイナミックスキャン法が実用化されています。この研究を進めていた 2003 年頃は、MRI で体の組織の動き (心臓や関節など) をリアルタイム連続表示するための MR フルオロスコピーや keyhole、Gd 造影剤を用いた三次元血管造影のための TRICKS などが開発されていました。この論文で semikeyhole を、k-空間の外側データも更新していく keyhole 法の発展型として発表しましたが、実は、TRICKS の論文を大いに参考にし、二次元 MRI 向けに k-空間軌跡を簡素化させました (Fig. 2)。semikeyhole の k-空間の分割は、「内と外」の二分割ですが、 TRICKS は三次元 MRI が目的で、位相エンコード軸も二つあるために、その分割はもっと細かいです。
 所属していたアストラゼネカのイメージングセンターは、オフライン画像再構成ができる環境であったために、k-空間軌跡を自由にデザインすることができました。【文献紹介2】で紹介したウサギの血管壁イメージングでの、ファストスピンエコーシーケンス向け k-空間軌跡は、エコートレインによるデータサンプリングにより、プロトン密度強調画像と T2 強調画像を再構成する目的があったため、centric order (内から外へのサンプリング) を基礎としました。一方で、この研究での SPGR シーケンスでは、エコートレインによるデータサンプリングではないことに加えて、データサンプリング中に造影剤濃度の変化によって信号強度が大きく変化していくこともあるために、「シンプルな方法でいこう」と、sequential order (端から端へのサンプリング) を基礎としました。
 k-空間軌跡を Fig. 2 に示していますが、k-空間の外側データを sequential order で一画像分取る間に、中心データを 0.5 秒間隔で七回取ります。この論文のための画像再構成プログラミングでは、この k-空間軌跡から MRI を七時相分再構成し、次の七時相分の MRI の元となる k-空間の外側データは、まるごと更新していました。AIF の横軸を拡大したデータ (Fig. 5b) を良く見ると、曲線が不連続で、七点の信号強度のかたまりを形成していますが、その画像再構成プログラミングが原因と思われます。言い換えると、「画像再構成プログラミングが、AIF にアーチファクト (不要な不連続) を載せた」とも言えます。論文の Discussion に「k-空間の外側データの更新に、(徐々に更新していく) sliding-window 法を用いれば、その AIF の不連続は解消されてなめらかになる」と述べていますが、後にその手法により、ある発見をすることになります (【論文紹介4】として紹介しています)。

ラット腹部ダイナミック造影 MRI (0.5 秒時間分解能) の
腹部大動脈内血液信号変化より得られた動脈入力関数 (AIF)

セミキーホール法を使用し、腹部大動脈は前置き飽和パルスの照射による飽和回復 SPGR パルスシーケンスとしてスキャン。造影剤投与前後を拡大したデータ (横軸が秒) は直線が不連続で、七点の信号のかたまりを形成している。(公開されている国際学会の要旨より) 

もう少し詳しく! ラットを対象とした DCE-MRI

DCE-MRI は、抗がん剤治療の効果判定や、新規血管新生阻害剤の臨床試験を目的に、臨床応用されていますが、そこでは三次元 MRI としてスキャンされます。
 ラットを用いたこの研究では、MRI の国際学会 (ISMRM 2003) での Zhou R らによる発表 (後に論文化) を大いに参考にしました。彼女らは、マウスを対象とした DCE-MRI において、腫瘍組織の造影曲線と心室内血液信号からの AIF を同時に得るために、腫瘍細胞を腋下に移植し、腫瘍と心臓を単一スライスの二次元 MRI に収めました。
 また、彼女らは、SPGR ではなく、飽和回復グラジエントエコーパルスシーケンスを使用していました。この研究においても、心室内信号からの定量的な AIF 信号の取得を目標としていたため、飽和回復シーケンスの使用に共感しましたが、飽和回復シーケンスは SPGR よりも感度が低く、腫瘍組織の Gd 造影剤による造影効果は血液に比べて低いために、ダイナミックスキャン中の腫瘍組織の画像が暗いままでは本末転倒です。そこで、飽和パルスを送信 RF コイル内の全体積に掛けるのではなく、スライス面に直行し、腫瘍組織を外した帯状体積中の水信号を飽和 (saturation band) させることとしました。この論文の Figs. 4b-4c は、ラットの腹部 MRI でそのパルスシーケンスをテストした結果で、左の Fig. 4a と比べて暗い部分が saturation band を照射した部分です。Fig. 4c は、造影剤が投与された直後の画像で、矢印の先の点状の高信号が腹部大動脈内の血液信号で、この信号強度の時間変化が Fig. 5 です。
 そのパルスシーケンスにより、二次元スライス面内への流入血液による TOF 効果と、高濃度 Gd 造影剤による血液信号の T2* 短縮効果を共に低減でき、saturation band 内の血液信号は、飽和回復 SPGR パルスシーケンスの信号強度式で解析が可能となります。一方で、腫瘍組織は saturation band による感度の低下の影響なしに、SPGR パルスシーケンスの信号強度式で解析されます。

前飽和パルスを導入した SPGR パルスシーケンスのラット DCE-MRI への応用例
がん (SW620) をラットの腋下に移植すると、心臓と共に単一スライスの二次元 MRI に収めることができます。上の画像は、中央が帯状に暗いですが、スライス面に直行する帯状体積の水信号を飽和したものです。心臓が消えていますが、腫瘍は見えています。このパルスシーケンスによる画像信号強度は、腫瘍では SPGR、心臓では飽和回復 SPGR パルスシーケンスの強度式により解析されます。(公開されている国際学会の要旨より) 

もう少し詳しく! RF 位相回し (EXORCYCLE)

MRI のスキャン条件の中でフリップ角は重要で、巨視的磁化ベクトルが RF パルスの印加により、パルス印加前の方向から回転する角度です。実は、その角度に加えて、回転させる (= 倒す) 方向も重要なのですが、MRI を操作する方がその条件を指定する機会が少ないために、なじみの薄いスキャン条件と思います。
 RF パルスが磁化ベクトルを倒す方向は、MRI 装置の中の送信 RF 系が決めています。静磁場の方向 (Z) から倒す場合、X, Y, -X, -Y への四方向が基本となるスピンの倒し方です。この倒し方は、送信 RF 波の初期位相で制御します。

四つの基本となる巨視的磁化ベクトルの倒し方 (実験室座標系)
この図では、5 周期で 90 度倒していますが、本来はもっとぐるぐる回っています。

 パルスシーケンスのプログラミングでは、RF パルスを印加する際、RF 波形とその長さ (パルス幅)、フリップ角と共に、磁化ベクトルを倒す方向も指定します。例えば、スピンエコーパルスシーケンスでは、90 度パルスで Y 方向に倒し、その次の 180 度パルスで X (もしくは -X) 方向に倒すと、その後のエコー信号は、初めの 90 度パルスで倒した磁化の向き (Y) に発生します (180 度パルスも続けて Y 方向に倒すと、一度に Y 方向に向けて 270 度倒したことと同じになり、その後のエコー信号は、初めの 90 度パルスで倒した磁化の反対 (-Y) を向きます)。
 この研究で使用した飽和回復 SPGR パルスシーケンスでは、前飽和パルスで巨視的磁化を消去したいのですが、完全に消去することは難しく、残留磁化が画像にアーチファクトを載せます (Fig. 3b)。その原因が、飽和パルスが磁化ベクトルを 90 度倒すことの不正確さによるならば、磁化を倒した方向に関係する残留磁化の「向き」があると考えます。飽和パルスを反対方向に倒せば (例えば X に対して -X)、そのときの残留磁化の「向き」も反転し、それらのデータを足せば、残留磁化からの信号を相殺できます。
 この研究のために開発したパルスシーケンスを下に示しています (論文中では Fig. 1)。RF の下の段の phase は、磁化ベクトルを倒す軸方向 (X, -X) の代わりに、X-Y 平面上の角度 (0, 180) で示していますが、ここでは、飽和パルスが磁化ベクトルを倒す軸方向は変えずに (0 -> 0)、その後の SPGR パルスシーケンスで、磁化ベクトルの倒す軸方向を変えました (0 -> 180)。

EXORCYCLE 位相回しを導入した積算パルスシーケンス
エコー信号は、必要である画像信号と、不要な飽和パルスの不完全さにより発生する残留磁化の両方を含みます。飽和パルスとその後の SPGR パルスシーケンスの向きを逆向きとするパルスシーケンスのエコー信号 (Echo 2) も取り、二つのエコーデータを積算することにより、不要な残留磁化を相殺します。(公開されている国際学会の要旨より)

このようなパルスシーケンスによる不要信号の除去は、MRI の原理である核磁気共鳴 (NMR) においても重要で、古くから EXORCYCLE 法として用いられてきました (EXORCYCLE は、私が発明したものではありません)。前置きパルスで磁化ベクトルの倒す方向を変えて得られた二つ (以上) のデータを積算 (averaging) することにより、前置きパルスにより発生する不要な信号を相殺しますが、磁化ベクトルを回転させる方向を、送信 RF 波の初期位相で制御することから、このような手法を位相回し (phase cycling) といいます。もし、MRI で、積算することによりアーチファクトやゴーストが消える現象が見られたら、それはパルスシーケンスの位相回しが解決したといえます。
 EXORCYCLE の発明者 (Ray Freeman 博士) が執筆した本 (NMR ハンドブック) によると、EXORCYCLE の EXOR は、exorcise (お祓い) から来ているようです。お祓いするように磁化を左右に振って、ゴースト (おばけ) やアーチファクトを消すのですね。

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