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【小説】建築的恋愛プロムナード(15)光希参戦+【主題歌Ⅻ】恋を止めないで | suno

今回の曲は、ファンクなシティポップ。
今までの雰囲気とは一味違うかも。
恋を止めないで、そしてDon't stop my love……。
是非聴いてみてください。

これまでのお話

前回のハイライト なんと、まどかが慎次郎に……その時、ゆいは……。

扉絵はバウハウスをモチーフに。

15話 恋を止めないで

半年前。

香月光希は就活中だった。

まずは社会を経験してこいと父と母に言われてしまった。

「だからといって、パンジのおじさんのとこはないだろ。」

三上ケンジ社長。
あだ名はパンジ。

アイツは小さな頃から家に出入りしている。
そして、あのまとわりつく性的な視線。
うちの女性スタッフにも後遺症が残った人が複数いるとまことしやかに囁かれていた。
多分、嘘じゃない。

小さな頃に母に聞いてみた。

「お母さんは、あのおじさんと話して、なんで平気なの? そもそも、生物学的にお父さんと同じ生き物なの? 違いすぎない?」

「大丈夫。あれは人間じゃない。人間の世界に迷いこんだ、ちょっとかしこいだけのチンパンジーなんだ。でも近づいちゃダメだぞ。噛まれるからな。」

母の成功哲学と危機管理能力に従い、自分の意志で大手設計事務所の意匠設計職に応募し、順調に内定を勝ち取った。

しかし、そこで父から無慈悲な宣告が下る。

「……三上くんのとこでさ……修行しない?」

我が家では父の言葉は絶対である。

ちなみに母は、父に出会った頃からゾッコンである。
寝室には、アイドルを追いかける中学生なみに父の写真やポスターが所狭しと貼られている。
自作のアクスタ、ぬいまである。
私も小さい頃は、それが普通だと思っていた。
そして私も、できることならそんなふうに。

昔、ウチでアルバイトしていたゆいさんの会社だし。まぁいっか。

一次面接。

「香月さん、本気? 本当にウチの会社でいいんですか。この経歴で? そのルックスで?」

そのまま、即日採用となった。

そして数ヶ月前、突然ウチに、会社から出向社員がきた。
どうやらゆいさんの彼氏候補らしい。
パンジが口を滑らした。

宮崎慎次郎。

「はじめまして、もしかして……お二人の娘さんですか……。」

ダサい。

いや、ダサい。

ゆいさん、マジか。

一周まわるとこうなるのか。

私は部屋の壁に彼のポスターは絶対に貼らない。

でも、あのゆいさんの彼氏だ。

何か秘密があるはずだ。

その日から、彼の観察が始まった。




彼はおかしい。

まず、図面を描くスピードが異常だ。
迷いがない。
もともとは現場監督らしい。
いったいどこで覚えたんだ。

ダサいのに。

半月ぐらいたったある日。

慎次郎さんの図面が明らかに変わった。

うまく説明はできない。

彼は毎日、父のアドバイスを受けて、
何十枚も図面を描き続けていた。

そして、ある日突然、コッテリ極振りで、パンチのある豚骨ラーメンが、アクを丁寧に取り除いてクリアになって、さらに美味しくなった。行列の客層も変わった。そんな感じ。

ただ、ダサい。

でも、なぜか、引き込まれる。
理由を探してしまう。
クセになる。

その理由について、父に相談した。

「……うん。この図面……確かにダサいね。でもとても面白いね。光希にもわかるかい?」

父はその後も、慎次郎さんの更新され続ける図面を楽しそうに見ていた。

私は自分の卒業設計も並行して進めていた。

力が入り過ぎていたかもしれない。

間違いなく迷走していた。

卒業設計の核になるコンセプトデッサンが決まらないままだった。

そんなある日、突然、慎次郎さんの図面が頭の中に降りてきた。

あのスピード、あのダサさ、そして、あのヌメリ感。

そこから二徹。

会心の一枚だった。

卒業設計のコンセプトが決定した。

「春分の光」

母はそれを見て、笑いながら言った。

「勝ったな。」



プレゼンから数日後。

「グヌァァ!!」 

まどかが自室のベッドでのたうちまわる。

「ないないないないないない。グヌァァ!!」

プレゼンでテンションが振り切れていた。

そして、人生で最も踏み込んでしまった。

もう、戻ってこれない。

この先、一歩でも間違えれば完全に黒歴史。

「なぜ、私は早まっちまったんだ。グヌォォ!!」

眠れない。
いっそ、なかったことにならないか。

夜が更けていく。

絶望と後悔の日々に、一通のメールが届く。
 
「熊本のコンペ、勝ちました。満場一致でウチだそうです。」

まどかが自席で突然立ち上がり、声を出した。

オフィスが沸く。

ゆいは頷く。

慎次郎は、みんなの様子を見て、遅れて反応する。

「あれ、でも、もう一度ヒアリングしたいってメールに書いてある。金額が安すぎるって……どういう事?」

笑顔から一転、三上社長の顔が引きつる。

「やり過ぎちゃったかも……大丈夫だよね?」

誰も三上社長と目を合わせなかった。

妹尾課長も青ざめる。

何十回も確認したはずの見積。
間違えていない……はずだ。
ものすごい勢いで見積の再確認が始まった。

「とりあえず、慎次郎。やったな。」

ゆいの笑顔を見て、慎次郎はホッとした表情になる。

「なんだか夢みたいです。これがチームの勝利なんですね。」

慎次郎は、あのプレゼンの日から、まどかに無視され続けていた。

そんな慎次郎の前に、まどかが立つ。

「ちょっといいですか。慎次郎さん。話があります。打ち合わせ室に来てもらってもいいですか。」

慎次郎は久しぶりにまどかに声をかけられ、嬉しすぎて既に涙目になっている。

「わ、わかりました。すぐにいきます。」

オフィスに取り残されたゆい。

徹夜明けのように、目がバッキバッキに決まっていた。

……。

……。

数分で慎次郎とまどかが戻ってきた。

表情はいつも通り。

ゆいは、思わず視線を逸らす。

……。

……。

数分前。
会議室にはまどかと慎次郎の二人だけ。

「慎次郎さん、勝ちましたね。」

「はい。……嬉しいです。でも、主にゆいさんとまどかさんの頑張りかと。」

まどかは深いため息を落とす。

「私は楽しかったです。一つだけ確認です。」

まどかの顔が強張る。

「慎次郎さん。ゆいさんが好きなんですか?」

「えっ……あの、好きか嫌いかというか……。」

……。

「ゆいさんもまどかさんも……私がどうこう考えるレベルをはるかに超える存在です。」

慎次郎の顔はマジだった。

「なんじゃそれ。」



終業時間前。

「まあ、なんだ。飲みに行くか? 祝勝会。」

ゆいが二人に声をかける。

一瞬微妙な空気が流れつつも、三人は居酒屋に入る。

そこにはなぜか、光希もいた。

「こんばんは、皆さん。」

ゆいが笑いながら言う。
「功労者だからな。さ、飲もう。」

「じゃあ、乾杯!」

キンキンのジョッキが合わさる。

「ちなみに、光希は来年から同僚になるぞ。」

「よろしくです。まどかさん、はじめまして……じゃないか。コンペではお世話になりました。」

光希がスマイルするたび、後光のエフェクトがかかる。

「で、ゆいさん。慎次郎さんとはどうなってるんですか? もうそろそろ婚約とか? キャー!」

……。

まどかのジョッキがピキリと氷結する。

慎次郎は鼻からビールを吹き出した。

「光希さん、あの、どういう状況でしょうか……僕には全く意味がわからないんですけど……。」

「あ、ごめーん。内緒だった?」

ゆいは深呼吸する。

「光希、知ってたんだな。でも、まだそんな感じじゃないぞ。」

「え、マジで。ゆいさん、本気で慎次郎さん?」

「ああ、マジかもな。」

「酷い。私の慎次郎さんを奪うなんて。」

慎次郎は、自分の人生で一番眼を見開いている。

突然、ゆいと光希がギャハハと二人で腹を抱えて笑いだす。

「ゆいさん、なかなか男を見る目あるじゃないですか。」

「まて、まさか、おまえ……慎次郎に……。」

まどかがジョッキを机に叩きつける。
衝撃音が店内に響き渡る。

「まて、小娘。おまえに慎次郎さんの何がわかるんだ?」

「え……まどかさん?……マジ?」

ゆいが咄嗟に割って入る。

「落ち着け、まどか、全て冗談だ。」

慎次郎が立ち上がり、両手を広げて待ったをかける。

「喧嘩はやめましょう。」

そのとき、彼女たちのなんらかの感情が、閾値を超えた。

次の瞬間、慎次郎の身体にさまざまな角度から打撃が入る。

脇腹、鳩尾、向こう脛、さらに顎。

慎次郎はその場に崩れ落ちる。

最後にとどめのシンバルキック。

「何だろう。冗談トークのはずが、本気で殴っちゃった。」

光希はスマイルを決める。
そして後光のエフェクト。

「やりすぎだ。冗談が過ぎるぞ。」
ゆいが息切れしている。

「何だかわかりませんが、とどめを刺さずにはいられませんでした。」
まどかも息切れしている。

慎次郎は、薄れゆく意識の中で思った。

「どういうことやねん。」

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