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【ショートショート】第十七話『出張』

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七月。

海外出張だった。

仕事のことは、
今となってはよく覚えていない。

覚えているのは、
ホテルに戻ったこと。

そして。

エレベーターの前に、
立っていたこと。

7月11日。土曜日。

その日は、
ユダヤ教の安息日、
シャバット。

ホテルには、
シャバットを厳格に守る人のための
特別なエレベーターがあった。

ボタンに触れなくてもいい。

一度乗れば、
自動的に各階へ止まり、
扉が開く。

「便利だな」

そのくらいに思っていた。

まさか。

その日だけ、
エレベーターが
別の世界への入口になるなんて。

7月12日。日曜日。

翌朝。僕は、
エレベーターに乗った。

もうシャバットではない。

だから、
普通のエレベーターだった。

自分で階数を選ぶ。

扉が閉まる。

……そのはずだった。

突然、

エレベーターが動き始めた。

上昇する。

一気に、
最上階まで。

そこで、
一度止まった。

そして今度は、

下降。
一階。

止まる。
扉が開く。

閉まる。

また下降。
一階。

扉が開く。
閉まる。

また下降。

まるで、
誰かが一階ずつ、
確認しているようだった。

僕は、
階数表示を見つめた。

10。

9。

8。

7。

……

B1F。

B2F。

そして──

B3F。

まただ……。

そんな階、
ホテルにはなかった。

それでも、
エレベーターは止まった。

チン。

扉が開く。

そこには、
昨日のロビーがあった。

──時計を見る。

7月11日(土)1:59。

昨日の時間。

いや。

昨日の僕が、
そこにいた。

そういう感じだった。

怖くなった。

僕は、今回も
降りなかった。

扉が閉まる。

エレベーターは、
何事もなかったように
上へ戻っていく。

1階。
扉が開く。

──時計を見る。

7月12日(日)8:01。

いつもの朝。

僕は、
何もなかったことにした。

そして、
そのまま仕事へ向かった。

あの日のこと

シャバットエレベーターを
思い出すたび、

ひとつだけ、
引っかかる。

なぜ、7月11日だったのか。

土曜日。
シャバット。
自動で動くエレベーター。

そして、

翌日。
普通のエレベーターに
再び現れた、

存在しないB3F。

もしかすると、

世界が歪んだのは、
エレベーターが
自動だったからじゃない。

7月11日という日そのものが、
何かの境目だったのかもしれない。


そう思うと、

あの「B3F」は、
地下三階ではなく──

別の時間へ降りるための階

だったのかもしれない。

……。

僕はまだ、
そのことを知らなかった。

《A Drop Remains.💧

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