【ショートショート】第十八話『昨日』
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その日の夜。
2026年7月12日(日)19:00。
ホテルへ戻った。
朝のことは、
できるだけ考えないようにしていた。
あのエレベーター。
存在しないはずの、
B3F。
そして、
昨日のロビー。
でも。
今度乗るのは、
海外者用の通常エレベーターだ。
そして、
シャバットとも関係ない。
自分で階を選べる。
ボタンを押す。
エレベーターが動く。
何も起こらない。
……やっぱり、
朝のことは気のせいだった。
そう思った。
2026年7月14日(火)19:00。
それから二日。
仕事を終え、
ホテルへ戻った。
いつものように、
通常エレベーターに乗る。
扉が閉まる。
さて、
階数を選ぼうとした。
その前に。
エレベーターが、
動き始めた。
上昇。
一気に、
最上階まで。
そこで、
止まった。
そして、
今度は下降した。
一階ずつ。
10。
9。
8。
7。
6。
……。
B1F。
B2F。
そして──
B3F。
僕は、
息を止めた。
エレベーターは
静かに止まった。
チン。
扉が開く。
──そこには、
あった。
あのロビー。
薄暗い照明。
古びた電話。
そして、
時計。
7月11日(土)1:59。
……。
僕が見た、
あの時間。
また、
ここに戻ってきた。
電話が鳴った。
一度目。
僕は、
出なかった。
ただ、
見つめていた。
しばらくして、
もう一度。
電話が鳴る。
今度は、
受話器を取った。
「もしもし。」
ザーッ。
ノイズ。
ノイズの向こうに
誰かいる。
そして、僕は、
その誰かを知っている。
……そんな気がした。
なぜか、
口から言葉が出た。
「今回は、間に合った。」
何に間に合ったのか。
誰に向かって言ったのか。
分からない。
見覚えのある光景
ただ、
その言葉を口にした瞬間。
妙な既視感があった。
この光景を、
どこかで見たことがある。
いや。
違う。
これから見るのではなく、
もう見ていた。
そんな感覚だった。
──そして。
エレベーターの扉が、
ゆっくり閉まり始めた。
チン。
最後の隙間から、
ロビーの向こうを見る。
一瞬。
そこに、
別の景色が重なった。
駅。
コンビニ。
花屋。
赤い薔薇。
そして、
公園。
その風景の中に、
僕がいた。
ひとり。
……いや。
もうひとり。
そして、
さらに遠くにも、
僕がいた。
カメラを構えている。
僕は、
その光景を見ていた。
ただ見ていた。
シャッターを押した記憶はない。
スマホも、
持っていない。
それなのに。
その瞬間に見えたものが、
まるで、
一枚の写真になって、
僕の中に残った。
扉が閉じた。
チン。
真っ暗になった。
僕は、
ひとりでロビーに立っていた。
僕は、
しばらく動けなかった。
さっき見えたものが、
頭から離れない。
駅。
コンビニ。
花屋。
赤い花束。
そして、
公園。
そこにいた、
何人もの僕。
あれは、
いったい何だったんだ。
夢だったのか。
それとも──
僕がまだ知らない、
どこかの時間なのか。
考えても、
答えは出なかった。
ただ。
最後に見えた、
公園の前の僕だけが、
こちらを向いていた。
まるで、
僕がここに来ることを、
知っていたみたいに。
僕は、
その意味を知らないまま、
エレベーターを降りた。
《A Drop Remains.💧》
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