人を変える前に、自分の接し方を変える――腕はいいのに嫌われていた職人が、「5分黙る」ことで人間関係を変えた話
対人関係の重要性を伝える上で、最も説得が難しいのは、高度な専門技術を持つ「職人肌」の人たちです。自分の仕事に絶対の自信があるため、「技術さえ確かなら、愛想を振りまく必要なんてない」と考えがちだからです。
ボストンのメガネ店でレンズ研磨職人をしていたジョセフ・ダフィーさんも、まさにそんな一人でした。彼の削るレンズは超一流で、細かな仕上げも正確そのもの。技術だけなら申し分のない職人でした。
しかし彼には、人との接し方が極端にキツいという致命的な問題があったのです。
傲慢が招いた決定的な破滅
現場責任者として7人の部下を抱えていたジョセフさんは、部下の仕事が気に入らないと「気に食わない」と怒声を浴びせ、上司に仕事の遅れを指摘されれば「私のやり方に不満なら、別の人間を雇ったらどうです!」と言い返す始末。上司とも喧嘩が絶えませんでした。
そんなある日、不景気の煽りで賃金をカットされたジョセフさんは、誰彼構わず当たり散らすようになります。そして、決定的な事件が起こりました。彼が1日会社を休んだ際、給料からその日分の手当が差し引かれていたのです。
激怒したジョセフさんは、給料袋を握りしめ、ノックもせずに上司の部屋へとズカズカ怒鳴り込みました。
ジョセフ:
「これは一体どういうことですか! 1日休んだだけで給料を引くなんて、他の人にはこんなことしていないでしょう!」
上司:
「その通りだ、ジョセフ。他の者にはそんなことはしないよ。これは君の自業自得というやつだ」
ジョセフ:
「自業自得だって!?」
上司:
「君は今、みんなに嫌われているんだよ。君が原因で部下たちも反目し合っている。私が君の傲慢な態度に12年間も我慢してきた理由はただ一つ、君以上の職人がいなかったからだ。だが、もう限界だ」
ジョセフ:
「私は愛想笑いに給料をもらっているわけじゃない! 最高の仕事に対して払われているはずだ。休んだ日の分も、きちんと支払ってもらいましょうか」
上司:
「休みの日も給料を出せと言うのか? それなら明日から毎日休んでもらおう。いくら最高の職人でも、これ以上は我慢できん。クビだ」
ジョセフ:
「フン、クビだって構うもんか。別の仕事くらい、すぐに見つかるさ!」
現実の壁と「5分間」のルール
ところが、現実は甘くありませんでした。業界内に「腕はいいが、最悪のトラブルメーカー」という悪評が瞬く間に広がり、どこも彼を雇おうとしなかったのです。
3ヶ月間失業し、妻と5人の子供を養うための貯金も底をつきかけた頃、ようやく友人の紹介でニューヨークの職場に落ち延びました。
しかし、まだ目が覚めていなかったジョセフさんは、新しい職場で上司の息子と諍いを起こし、「いい加減にしろ!」とまた問題を起こしてしまいます。
「このままでは、一生職探しに明け暮れるだけの人間で終わってしまう。人を変える前に、自分の態度を変えなければならない」
窮地に追い込まれた彼が必死に実践したのが、ある極めてシンプルなルールでした。
「何かでカッとなったとしても、5分間だけ口を閉じてじっと待つ」
職人気質でかんしゃく持ちの彼にとって、これは血の滲むような努力を要することでした。言い返したい衝動をグッと堪え、時計を見て5分間黙る。すると、不思議なことに5分が過ぎる頃には、感情の爆発を抑え、冷静な言葉を選べるようになっていることに気づいたのです。
変貌した職場と、最高の贈り物
ジョセフさんは部下への接し方も180度変えました。ミスを頭ごなしに叱りつけるのをやめ、まずはうまくいった点をしっかりと褒め、その上で「失敗したところをどう直せばいいか」を上手に教えるようにしたのです。
すると、奇跡のような変化が次々と起こりました。
ジョセフさんの変化を見て、上司は彼を再び店の責任者に抜擢。その見事な運営ぶりからクリスマスには大幅な昇給を勝ち取り、さらにはボストンの元上司からも「見違えるほど変わったらしいな」と激励の手紙が届いたのです。
そして何よりジョセフさんの心を震わせたのは、部下たちが自発的にお金を出し合い、「いつもありがとうございます」と彼に時計をプレゼントしてくれたことでした。かつて全員に嫌われ、恐れられていた男が、心から慕われるリーダーへと生まれ変わった瞬間でした。
その後、ジョセフさんの友人は3倍に増え、地域の社交クラブや協同組合の手伝いにも喜んで顔を出すようになりました。「昔は喧嘩を楽しんでいたけれど、今では人と協力することの方が10倍も楽しく、充実感がある」と、彼は満面の笑みで語ります。
ここから学ぶ教訓
「人生からは、自分で蒔いたものしか収穫することはできない」という古いことわざがあります。
相手に対するこちらの態度こそが、自分に対する相手の態度を決定するのです。こちらが攻撃的に接すれば相手も身構え、こちらが尊重して接すれば相手も心を開いてくれます。人を動かしたい、関係を変えたいと思うなら、まずは自分自身の接し方から変えていくことが、唯一にして最大の近道なのです。
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こちらで投稿した内容は、私が翻訳した
デール・カーネギー『人を動かす: 友人を作り人々に影響を与える方法』をより深く理解して頂くために書いております。
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