秘密結社velvet編|エピソード朧(Oboro)Vol.4 ~共通する影~
爆発事故の災害救助から一週間後――
朧は、velvet・制圧局の蕚、そして榊とともに事故現場を再訪していた。
前日——
電脳局の槲から受けた報告は、朧にとって俄かには信じ難いものだった。
「朧さん、先日の爆発事故の件ですが、防犯映像の一部を修復できました。解析したところ、二件の現場に共通する存在が確認されています」
「共通する存在?」
「はい。これです」
槲がモニターに映像を映し出す。
「…え?…鳥?」
「ええ。二件とも、この鳥が映っています」
「二件とも……同じ鳥が?」
「少なくとも、映像上の特徴は一致しています。同一個体かと…」
朧はしばらくモニターを見つめた。
「偶然にしては妙ね…分かったわ、頭には入れておく」

一週間が経った今も、事故現場には焦げた匂いと重い空気が残っていた。
前日の槲の報告を思い返しながら、朧は損壊した施設内をゆっくりと見渡した。
蕚は周囲を警戒するように視線を巡らせ、榊は少し離れた場所で崩れた壁際を確認している。

「…これは酷いな」
榊が焼け落ちた設備や散乱する瓦礫を見渡す。
「ええ。改めて見ると、本当によく死者が出ずに済んだと思うわ」
朧は事故当日の光景を思い返していた。
あの日、施設内にはまだ多くの負傷者が取り残されていた。
「朧たちがすぐに動いてくれたのが大きかったな」
蕚の言葉に、朧は小さく首を横に振る。
「みんなが動いてくれたからよ。私一人じゃ何もできなかったわ」
朧は足元の瓦礫を避けながら、さらに奥へと視線を向けた。
「それにしても…その前の関連施設での事故に続いて、これで二件目か…」蕚の表情がわずかに険しくなる。
「偶然にしては出来すぎている。誰かが意図的に起こしたと考える方が自然かもしれないな」
「まだ、そうとも言い切れないわ」
朧が答える。
「原因も完全には特定されていないし、誰かが侵入したという記録も残っていないもの」
「だからこそ妙なんだろう」
蕚は焼け焦げた天井を見上げた。
「これだけのことが起きているのに、肝心なところだけ何も残っていない」
しばらく三人の間に沈黙が落ちる。
榊が朧へ視線を向けた。
「このことは、楔さんにも報告してるんですか?」
「ええ。報告したわ」
朧は少し間を置いた。
「でも今回は、私と蕚に任せるって…」
「…楔さんが、そう言ったんですか?」
榊も一瞬だけ間を置いた。
「珍しいな」
蕚も小さく息を吐いた。
普段の楔なら、組織の関連施設で立て続けに起きた事故を、もう少し詳しく把握しようとするはずだった。
しかし今回は、それ以上の指示はなかった。
「別の任務で忙しいんじゃない?」
朧はそう言って、それ以上深く考える様子もなく歩き出した。
蕚と榊も、それ以上その話題を追うことはなかった。
三人には知る由もない。
今、楔の意識が別の場所へ向けられていることを――。
「ところで…」
蕚が再び周囲を見渡す。
「電脳局の解析はどうだった?」
「…まだ決定的なものは何も」
朧はそう答えたあと、ふと思い出したように言葉を続けた。「ただ…少し妙なものは見つかったみたい」
「妙なもの?」
榊が振り返る。
「…鳥よ」
「…鳥?」
蕚の声に僅かな戸惑いが混じった。
「ええ。槲が修復した防犯映像に映っていたの」
朧は前日のモニター映像を思い出す。
事故現場の上空を飛ぶ、黒い大型の鳥。
そして別の事故の施設では、鉄骨の上に静かに停まっていた。
「それがどうした?」
「二件とも、よく似た鳥が映っていたそうよ」
「…同じ鳥が?」
「槲は、特徴が一致しているって言っていたわ。でも、映像自体がかなり荒れているから断定まではできないみたい」
蕚は少し考えるように黙り込む。
「…その鳥が爆発に関係していると?」
「そこまでは分からないわ」
朧は直ぐに否定した。
「槲も鳥が犯人だなんて言ってない。ただ二件の映像に共通して映っていた。それだけよ…」
「まあ、鳥なんてどこにでもいるしな」
榊が周囲を見渡す。
「そういうこと」
朧も小さく頷いた。
「偶然かもしれない。でも今は情報が少ないから。頭の片隅には置いておこうと思ってる」
三人は再び歩き始めた。
砕けたガラスを踏む音が、静まり返った施設内に響く。
そのまま三人は、崩れた通路の奥へと姿を消していった。
彼女たちは気づいていなかった。
遥か頭上。
爆発で半ば崩れ落ちた鉄骨のさらに上。
そこに、ひとりの女が立っていた。

白い衣服が僅かな風に揺れている。
女は身動ぎひとつせず、遠ざかっていく朧たち三人を見下ろしていた。
その顔には、何の感情も浮かんでいない。
そして女の横には――
一羽の大型の猛禽が静かに停まっていた。
鋭い瞳だけが、三人の背中を追っている。
女も、鳥も。
ただ静かに――
彼女たちを見つめていた。
つづく—
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