歯科医院で削られ、日本舞踊で取り戻した心
「最近、笑えてる?」
もし数年前の私にそう聞いたら、きっと答えられなかったと思います。
歯科衛生士の仕事は好きです。
患者さんと話す時間も好きだし、「ありがとう」と言っていただける瞬間は今でも嬉しいです。
でも、仕事が好きだからこそ、私は少しずつ自分を削っていました。
私は断ることが苦手です。
「これお願い。」
「これもやっておいて。」
そう言われると、「はい。」と答える。
自分の仕事が終わっていなくても、「できます」と言ってしまう。
気づけば、人の仕事まで抱えることが当たり前になっていました。
頼られていると思いたかったのかもしれません。
でも本当は、「断ったら嫌われるかもしれない」という気持ちのほうが大きかったんです。
だから毎日、心にも時間にも余裕がありませんでした。
当時勤めていた職場は、院長の機嫌ひとつで空気が変わるような環境でした。
お昼休憩があっても、ゆっくり食べる時間はありません。
お弁当を味わうというより、口に流し込むように食べる毎日。
スタッフの人数と仕事量が全くあっていないため、昼休憩を削って仕事をしていました。
「早く戻らなきゃ。」
そのことばかり考えていました。
食事は体を休める時間ではなく、仕事の合間に済ませる作業になっていたんです。
今思え、「そんな仕事をためず周囲に助けを求めればよかったのに」そんな風に思いますが、
当時は自分がやったほうが早いと思いこんでいたため、とても余裕がなかったです。
仕事が終わって家に帰る頃には、もう電池切れでした。
ソファに座ると、そのまま動けない。
夕飯を作らなきゃ。
洗濯もしなきゃ。
掃除もしたい。
頭では分かっているのに、体が動きません。
そんな自分を見て、また責める、、
「私は何もできていない。」
「家事もちゃんとできない。」
「ダメな人だな。」
本当は、一日中頑張って働いてきたのに。
疲れているだけなのに。
私は、自分を休ませることすら許していませんでした。
自己肯定感は、どんどん低くなっていきました。
そんな毎日の中で、木曜日だけは少し違いました。
仕事を終えて、日本舞踊のお稽古へ向かう日です。
着物に袖を通す。
帯を締める。
鏡の前に立つ。
すると、不思議なくらい背筋がすっと伸びるんです。
「仕事で疲弊した私」ではなく、「日本舞踊を20年間続けてきた私」に戻れる感覚でした。
その時間だけは、肩書きも評価も関係ありません。
先生も、一緒にお稽古をする皆さんも、ありのままの私を受け入れてくださる。
だから安心して笑える。
安心して失敗できる。
安心して話せる。
その場所があったから、私は何とか仕事を続けてこられたんだと思います。
大人になると、「居場所」は自然にできるものではないと感じます。
学生の頃のように、毎日会える友達がいるわけでもありません。
仕事だけになってしまうと、うまくいかない日が、そのまま人生全部うまくいっていないように感じてしまいます。
だから仕事以外にも、自分が自分に戻れる場所を一つだけ持っていていると心が救われます。
ヨガでも。
ピラティスでも。
読書でも。
カフェでも。
「ここに来ると呼吸が深くなる。」
そう思える場所が一つあるだけで、人は思っている以上に救われます。
私は、その場所が日本舞踊でした。
今でも仕事で落ち込む日はあります。
理不尽だなと思う日もあります。
でも、「私は仕事だけの人じゃない。」
そう思えるようになってから、自分を責め続ける時間は少しずつ減っていきました。
仕事で削られた心は、一日では元に戻りません。
それでも、安心できる場所で少しずつ深呼吸を繰り返しているうちに、また前を向ける日がやってきます。
私は、そのことを20年間続けてきた日本舞踊から教えてもらいました。
もし今、仕事で心がすり減っている人がいたら、「仕事以外の居場所」を一つだけ探してみてください。
大きな趣味でなくても構いません。
週に一度、安心して笑える場所。
ありのままの自分でいられる時間。
「おかえり」と言ってくれるような空間。
そんな場所が一つあるだけで、心は少しずつ元気を取り戻していきます。
私にとって、それが日本舞踊でした。
あなたにも、そんな居場所がありますように。
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