荘子 雑篇 説剣 — 剣を好む王に、剣ではない剣を説く
荘子 雑篇 説剣 — 剣を好む王に、剣ではない剣を説く
剣を抜けば、
人は倒れる。
剣を説けば、
国の迷いが斬れる。
この篇では、剣を好みすぎた趙文王(ちょうぶんおう)に、
荘子(そうし)が会いに行きます。
王の前では、剣士たちが昼も夜も斬り合い、
死ぬ者、傷つく者が後を絶ちません。
国は弱り、諸侯は趙を狙いはじめます。
そこで太子は、荘子に王を止めてほしいと頼みます。
けれども荘子は、ただ「剣をやめなさい」とは言いません。
王の好きな「剣」の言葉に入りこみ、
剣とは何かを、静かに変えてしまいます。
人を斬る剣。
国を治める剣。
天下を動かす剣。
この篇は、好みに溺れた権力者を、
剣の言葉で目覚めさせる話でもあります。

荘子 雑篇 説剣 一
昔、趙文王は剣を好んだ。
門の左右には、
剣士たちが客として控えていた。
その数は、
三千人を超えていた。
剣士たちは王の前で、
昼も夜も打ち合った。
一年のうちに、
死ぬ者、傷つく者は、
百人を超えた。
それでも王は、
その斬り合いを好んで、
少しも飽きなかった。
このことが三年も続いた。
趙の国は衰え、
諸侯たちは趙を攻めようと、
ひそかに計りはじめた。
太子悝(たいしかい)は、
これを深く憂えた。
そこで左右の者を集めて言った。
「だれか、王の心を動かし、
剣士たちを止めさせることのできる者はいないか。
それができた者には、
千金を与えよう」
左右の者たちは言った。
「荘子なら、
きっとできるでしょう」
そこで太子は人を遣わし、
千金を荘子に贈らせた。
だが荘子は、
それを受け取らなかった。
そして使者とともに行き、
太子に会って言った。
「太子は、周に何をお命じになろうとして、
千金をお与えになるのですか」
太子は言った。
「先生が聡明で聖なる方だと聞きました。
そこで、まず千金をつつしんでお贈りし、
お供の方々への心づけにしていただこうと思ったのです。
しかし先生が受け取られないなら、
悝はもう何も申し上げることができません」
荘子は言った。
「太子が周を用いようとなさるのは、
王の好みを断ち切るためだと聞いております。
もし私が上で大王を説きながら、
王の心に逆らい、
下では太子の望みにもかなわなければ、
私は罰を受けて死ぬことになるでしょう。
その時、周はどうして金を役立てることができましょうか。
もし私が上で大王を説き、
下では太子の望みにかなうなら、
趙の国で求めて得られないものなど、
何がありましょうか」
太子は言った。
「その通りです。
ただし、わが王がお会いになるのは、
剣士だけなのです」
荘子は言った。
「よろしい。
周は剣をよく使います」
太子は言った。
「しかし、わが王が会う剣士は、
みな髪を乱し、
もみあげを突き出し、
冠を低く垂らし、
粗い冠ひもをつけ、
後ろ丈の短い衣を着ています。
目をいからせ、
荒々しい言葉を語ります。
王はそれを喜ばれるのです。
今、先生が儒者の服で王に会えば、
きっと王のお気に召さないでしょう」
荘子は言った。
「では、剣士の服を整えさせてください」
三日かけて、
剣士の服を整えた。
それから荘子は太子に会った。
太子は荘子を連れて、
王に会わせた。
王は抜き身の剣を手にして、
荘子を待っていた。
プチ解説
趙文王
趙の王です。
この章では、剣士同士の斬り合いを好み、
国を衰えさせた君主として出ています。
太子悝
趙文王の太子です。
父である王の剣好きによって、
国が危うくなることを憂えます。
周
荘子の名です。
ここでは荘子自身が、自分を周と呼んでいます。
剣士
剣を扱う者たちです。
この篇では、王の好みに合わせて、
集まった荒々しい客として描かれます。
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