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事例・症例(テーマ)は、どうやって決めていますか?

ケーススタディ(事例検討、事例報告、症例報告)を書くことになったとき、多くの方が最初にぶつかる壁があります。

それは「どの事例を取り上げればいいのか」「テーマをどう決めればいいのか」という壁です。

「特別なことなんてしていない」「すごい成果が出た事例じゃないとダメなんじゃないか」「もっと経験を積んでからじゃないと書けない気がする」。

こうした思いが頭をよぎって、書き始める前の、いちばん最初の一歩で手が止まってしまう。実はこれ、初めて事例報告に取り組む人のほとんどが通る道です。

今回は、この「テーマ(症例)の決め方」について、少しだけお話ししたいと思います。


「印象に残っている」が出発点

事例やテーマを選ぶときの出発点は、実はとてもシンプルです。

「最近関わった方のなかで、印象に残っている方はいますか。」

この問いに一人でも思い浮かぶ方がいれば、それがすでに候補になります。

印象に残っているということは、その関わりのなかで、あなたの中に何かが生まれたということです。新しい気づきだったかもしれませんし、戸惑いや迷いだったかもしれません。嬉しさや手応え、あるいは悔しさや無力感だったかもしれない。

どんな感情であれ、心に残っているという事実そのものが、その事例に振り返る価値があることを示しています。

このあたりの考え方は、心理学の分野で古くから使われてきた「クリティカル・インシデント・テクニック」という手法とも重なります。

Through the use of the critical incident technique one may collect specific and significant behavioral facts, providing "a sound basis for making inferences as to requirements" for measures of typical performance, training, and related purposes.
(訳:クリティカル・インシデント・テクニックを用いることで、具体的かつ意味のある行動上の事実を収集することができ、それは典型的な行動水準の測定や、教育・訓練などの目的のための、「要件を推論するための確かな基盤」を提供する。)

Flanagan, 1954

これは、印象に残った具体的な出来事を手がかりに、人の行動や判断を検討していく技法で、看護や医療専門職の教育・研究の場でも長く応用されてきました。

「なんとなく気になっている場面」には、実は振り返る価値のある材料が眠っている、というのは、専門職の勘だけでなく、こうした研究の積み重ねからも裏づけられている考え方なのです。

「うまくやれた話」を探そうとすると、かえって事例が見つからなくなります。むしろ「今でもふと思い出す、あの場面」を思い浮かべるところから始めると、驚くほど候補が見えてきます。

テーマ(症例)を決めるときの、小さなコツ

症例(事例)の候補が見えてきたら、次にやることは、その事例を通じて「何を伝えたいのか」を一文にしてみることです。

小さなコツ1

一つ目は、テーマになりやすい場面のパターンを知っておくことです。

たとえば、「どう関わればいいのかわからなかった」場面、
「明確に困ったとまでは言えないけれど、どこか引っかかっている」場面、
逆に「この関わり方がよかったかもしれない」と手応えを感じた場面。
あるいは、うまくいかなかったと感じた場面や、あまり出会わない状況だった場面。
どれもテーマの種になり得ます。

なかでも見落とされがちなのが、「いつもどおりの関わりしかしていない」と思っている場合です。

毎日繰り返している業務のなかにも、あなたは必ず何かを判断しています。対象者の表情を見て声のかけ方を変えたり、ご家族の言葉の奥にある気持ちを汲み取って対応を調整したり——。

その「あなたがした判断」を言葉にして整理してみると、そこには専門的な工夫がしっかりと存在しているはずです。

それが、テーマの手がかりになります。

小さなコツ2

二つ目は、テーマを「一文」で言い切れるかどうかを試してみることです。

「この事例報告で一番伝えたいことは何ですか」と聞かれたとき、一文で答えられるかどうか。たとえば「サービスの利用に消極的だった方が、生活歴に寄り添った声かけを続けることで、少しずつ受け入れてくれるようになった過程を伝えたい」というようにです。

完璧な文章である必要はありません。「要するにこういうことを伝えたい」と自分の言葉で言えれば十分です。

この一文は、事例報告全体の背骨になります。書いている途中で「あれもこれも書きたい」と迷ったとき、この一文に立ち返ることで、本当に必要な情報とそうでない情報を判断できるようになります。

逆に、一文にまとめるのが難しいと感じたら、それは伝えたいことが複数あるサインです。その場合は、いちばん伝えたいことに絞りましょう。

事例報告のメッセージは、原則として一つ。欲張ると、結局どれも中途半端になってしまいます。

なお、思い出すのがつらすぎる事例や、テーマを一つに絞れないほど課題が絡み合っている事例は、初めての事例報告には向きません。
心の整理がついていないと感じたら、その感覚を大切にして、別の事例を選ぶのも一つの判断です。

ふぅゆ. 「事例報告の書き方」より

最後に

この記事では、事例報告のテーマ(症例)をどう決めるか、その入り口だけをお話ししました。

ケーススタディに関連する過去の記事をご紹介いたします。

ここまでお読みいただきありがとうございました。
ただ、実際には、「テーマは決まったけれど、どこまで情報を書けばいいのかわからない」「結果と考察の分け方が曖昧になる」「考察を深める文献の探し方がわからない」といった、もう一段具体的な悩みが、この先に控えているはずです。

そこで、看護・介護・福祉の現場で働く方が、肩の力を抜いて読める本を書きました。テーマの決め方から、骨組みのつくり方、結果と考察の分け方、考察の深め方、倫理的配慮の実務まで、事例選びの次に必要になることを一冊にまとめています。

難しい専門用語や、いかめしい理論はできるだけ使わず、「なるほど、それなら書けそう」と思える言葉だけを選びました。

記事を読んで「もう少し深く知りたい」と思ったときに、手に取ってみてください。

【事例報告の書き方】 書き出せない、タイトルが決まらない、何を書けばいいか分からない——事例報告(事例検討、症例報告、ケーススタディ、事例研究)に向き合うすべての支援職へ。

引用文献

Flanagan, J. C. (1954). The critical incident technique. Psychological Bulletin, 51(4), 327–358.

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