あるOL彼女⑤Take on Me〜彼女はデリケート〜
【Introduction】
「2026 コスプレコンテスト」の大賞の余韻に浸る間もなく、しおりには「広報関係の仕事」が次から次へと舞い込んで、多忙な毎日を送っていた。
「売れっ娘は、違うねぇ…今度は週刊誌のグラビアで水着撮影かなぁ?」嫌味っぽく、夢乃は言う。
「茶化さないでよ!…はぁ〜、コンテストからこっち、定時まで仕事らしい事、できてないし…どうしよう…」
普段の仕事をこなすのにも「まだやっと」なのに「一番苦手とするモデル関係のお仕事」が加わったものだから、本人からすれば、たまったものではなかった。
「すんなり賞金と副賞『温泉旅行』が、いただける」と、思っていたしおりにとっては、想定外の事だった。
一方、夢乃の方は「入賞すれば幾ら、副賞分で幾ら」と完全なマネジメントぶりだった。
「え、と。今日は〇〇社のインタビューが15時からで…」
スマホのカレンダーのスケジュールを目で追うしおり。「幸せな結末」とは対照的な毎日に、戸惑いを隠せない様子だった。
「…早く温泉に行きたいなぁ…」ぼんやりと窓の外を眺めながら、しおりは呟いた。
【思 惑】
そんな様子を別の意味で見ていたのが、「依頼主」こと夢乃だった。
「…温泉かぁ、いいなぁ」羨望の眼差しで見つめながら、夢乃は呟いた。
「焚き付けたほう」が結果的には「美味しい処ところを全部、持っていかれた」のだから仕方がない。それに、審査結果を見て「完敗」を認めたのは、他でもない夢乃の方だった。
「ね?誰と行くの?」考えとはよそに、興味深々の顔で聴いてきた。
「やっぱり、親御さんだよねぇ。すごくびっくりしてたもんね」
コンテスト後、真っ先にしていたのは、しおりの実家宛への電話だった。
ーー「あ、お母さん?私ね、コンテストで大賞とっちゃった!」
まるで、小学校の運動会の徒競走で「一等賞をとったような時」の様に、嬉々として電話するしおり。
夢乃の方は「敗北宣言」をした割に、まだ未練たっぷりな様子だった。
「…なに呑気なこと言ってるの?スケジュールを合わせるの、大変なんだから!」
「あらあら、ぜいたくな悩みですこと」すみませんねぇ、とフェイクのジェスチャーをする夢乃。

大賞の金一封は「賞を取った本人」にすぐ授与された。しかし、副賞の「温泉旅行のペア宿泊券は期限付きのもの」。
行きたくても「それ以外の仕事」が邪魔をして、日付けの段取りも取れない。また「誰といくのか?」それも問題だった。
普通なら「両親のどちら」かだろう。しかし、今回の件に関しては、そうとは言えなかった。
時計とにらめっこしながら、いそいそと支度するしおり。
そんな様子を見ていた夢乃は、
「(ホントは誰と行くんだろう?ひょっとしたら、気になる♂とか?)」とニヤけ顔を隠せない。
ロッカーをパタンと閉じて、出かけようとしたしおりは、振り向きざまに言った。
「今日のインタビューが済んだら、いつもの休憩室で、待ってて」
「ハイハイ、いってらっしゃい。我が社のアイドルよ!」笑顔で手を振る夢乃。
しおりは「もうっ」と言いたげな顔をすると、足早に駅へと向かっていった。
「…ま、元気があるのはいい事だ。さて、私も定時までは頑張ってやりますか!」そう言って、制服の襟元を正しながら鏡越しの床に目をやった。
「あ、また社員証落としてる」
床に残されたそれをロッカーの内扉にかけて、夢乃も仕事場に戻っていった。
【定時後の休憩室にて】
17時ーー
「お疲れさま〜」定時を迎えた社内のあちこちから、そんな声が聞こえてきた。
いつもの風景だった。ただひとつ「外回り中」の札が置かれた机を除けば…。
更衣室に向かう途中で、夢乃は「やっぱり、外回りは定時帰りはムズいよねぇ」そう言いながら、廊下を歩いていた。
そんな折、しおりが息を切らして帰ってきた。
「ゴメン、待った?もう、撮影がしつこいのなんの、やれ『目線下さい』とか『メイクさん、直し入れて』とか…。
すぐに着替えるから、先に(休憩室に)いってて!」いそいそと更衣室へ向かった。
「ヘイヘイ。お茶菓子持って、待ってるよ」一笑しながら夢乃は出ていった。
定時後のベンダーステーションは、昼間とは違い静かだった。
丸いテーブルで二人は紙コップの飲み物を片手に話をしていた。
「あのね、温泉旅行の件なんだけど…」しおりが言いにくそうに切り出した。
「うんうん!(キタキタキタキタ〜!ひょっとして熱愛疑惑発覚か?)」ひょいと、前につんのめって見る夢乃。
「……一緒に来てくれないかなぁ?」モジモジしながらそう、言ってきた。
「はぁ?あたし?」あまりの展開に面食らったのは、夢乃の方だった。
「…うん。でも、急な話だからね…」そう言いながら、右手で紙コップを揺らしながら頷く。
「…あのさ、普通は親御さんか誰かでしょう?それとも、なんかあったの?」
「電話で相談したんだ。そしたら、お母さんはね…」
今回のコンテストで賞を取ったのはすごいことよ。母さん、とっても嬉しい。でもね、最初はあれだけ嫌がってたじゃない?「大勢の前に出るなんて、恥ずかしい。とてもじゃないけど無理」だって。それを克服できたのは、しおり一人の力だけじゃないでしょ?そんなしおりを推してくれた人に感謝なさい。母さんと一緒に旅行するのは、一人前の社会人になってからでもいいから、今回の旅行はその人と行きなさい。
【彼女はデリケート】
「…しおり…」夢乃は、この時、自分の邪なココロが恥ずかしかった。
「…無理かな?…なかなか言い出せなくて遅くなっちゃた。夢乃だってスケジュールあるだろうし…無理強いできないよ…」伏し目がちにしおりが言った。
(何を言い出すのかと思えば…この娘は。こんな事、マジ顔で言わなくたって…)
潤んだ目が、夢乃の本心を物語っていた。そんな目を見られまいと、そっぽを向きながら夢乃は言った。
「……しょうがないなぁ、変な虫がつくのもなんだしね…。それにね『急な話』じゃないでしょ?そういう事は、早く言うの!」わざと強がって言った。
「…じゃぁ、引受けてくれるの?」
「当〜然でしょ!?」夢乃はキッパリと言った。
(当然って…。調子いいのは、あいかわらずだけど…でも、やっぱり夢乃だ)しおりの顔がほころんだ。
「よかったぁ。断られたらどうしようって思ったから」くすりと笑いながらしおりは言った。
「ダンマリで♂のパイセンと行こうとでも思ってたワケ?」ふふんと夢乃。
「ち、違うわよ!」頬を真っ赤にして否定する、しおり。
(この顔なんだよね。ほっとけないんだよなぁ…)目を細めながら、夢乃は思った。
「そうと決まったら、早く準備しなきゃ。おっと、先に有給届けだ。それと、着るものも!」話をはぐらかすかのようにそう言うと、サッサとスケジュール帳一式を出してきた。
「うん、そうだね!」
二人はテーブルにスマホと手帳を置いて、いそいそと「旅のスケジュール」をつくり始めた。
…To Be Continued. NeXT Episode.
※制服は丸十服装株式会社のカタログを参考にしました。
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