あるOL彼女④〜What's Contest?〜君は天然色 【後編】
夕食を済ませ、ベッドに入った彼女は「いよいよ、明後日かぁ…」と呟いていた。
断固として反対していた最初の時とは違い、どこかコンテストを心待ちしているようにも見えた。
いよいよコンテスト当日がやってきた。
エントリーした社員は「それぞれの個性を活かしたコスプレ」をしていた。
ここにきてはじめて、彼女は「自分がいかに没個性」なのかを思い知らされることになった。
「(うわっ、みんな凄い!)」
コンテストに賞金と副賞の温泉旅行がかかっているのだから、ガチ勢がいてもおかしくはなかった。
「(完全に浮いている…)」
彼女が「特別視していたセーラー服」など、ここでは「ごく普通の服装」に見えたのも可笑しくはなかった。
「はぁい!どうですか?」背後から、悪魔のような微笑みを浮かべた『依頼主』が現れた。
「(またしても図られた…やっぱりこの人、ただモノではない…)」
ーーーしかし時すでに遅し、すでにサイは投げられたのだった。
あれほど鏡の前でいろんなポーズを取っては、確認をしていた彼女だったが、すっかり影を潜めてしまっていた。
「おやぁ?また、落ち込んでるんですかぁ?昨日まで、あれほど得意げだったのに?」
さらに追い打ちをかけるかのように、依頼主は囁きかけた。
「気にすることないよ。このコンテストは一発芸狙いのグランプリとかじゃないから。あぁもう、暗いなぁ。スマイルはどこ行ったのかなぁ?」
一眼レフを手にした依頼主は「カメラマン」の腕章を彼女にちらつかせた。
「普段通りでいいんだよ『あなたらしく』ね。恥ずかしかったらそうカメラに言えばいい。無理に笑顔を作る必要なんて、ないんだから」
(…私らしく?…そう言えば、私らしくって何だっけ…?)
その時、ある光景が彼女の脳裏をよぎった。
入学したての真新しい制服に身を包み、桜の樹のもと、嬉しくて満面の自分。これから次々と、新しい道を歩んでいくんだ…。卒業、新入学、そして新社会人…。そのたびに不安になり、笑顔になった「希望に溢れた自分」。
その時から「初めましての彼女」は別人のように、依頼主の期待を超えた人物になっていった。
セーラー服に戸惑いながらも、どこかしら不安げで、しかし凛とした瞳をした彼女…。そんな姿を次々と写す依頼主。
「華やかさとは無縁の、ただそこに佇む、一人の彼女…」
自分が着ていたら、こうにはならなかっただろう「幻想の彼女」が、そこにいた。
コンテストも中盤から終盤にさしかかっていた。
「彼女と依頼主の迷コンビ」も順調に審査をこなしていった。
「ん〜、あとひと押しなんだけどなぁ」
休憩時間にお茶をしながら、そう呟いた。彼女の方はといえば、前半に上がったデジタル画像のスライドショーを見ながら、ふんふんと呑気にお茶を飲んでいた。
今のままでも十分、入賞は狙える。が、完全入賞を目論む依頼主は、欠けている「その何か」を探す事に夢中だった。
(インパクトだ!それさえクリアすれば、入賞は間違いない!)と依頼主は確信した。
そんな気持ちをよそに、彼女は言った。
「ところでさぁ、これ(スカートを指さしながら)って、ココまで短くする必要があったの?」
座っている足元をカーディガンで覆いながら、問いかけた。
「え?あぁ、それのこと?だって、せっかくの美脚が台無しになるじゃん。『セーラー服』って、体型がモロ反映されるから、どうしても好きになれなかったのよねぇ。だから思うわけ、その辺りを気にしなくてすむ人は良いなぁって」画面をいじりながらカメラマンは言った。
無意識に発したその言葉に、彼女は敏感に反応した。
彼女の動きが、ピタリと止まった。
「…それって、軽〜くディスってない?」少しキツめの口調で彼女は言った。
(しまった!私としたことが…!)慌てて画面から目を離し、作り笑顔で答えた。
「いや…、それは逆に『制服映え』するって事で、そんな意味で言ったんじゃ……」否定する言葉がすべてを肯定していた。
結果、事態は悪化してしまい、穏やかな彼女もとうとう怒ってしまった。
「幼児体型で悪うございましたね!
私だって、こんな(丈の短い)セーラー服で人前に出たくなかったよ!! どれだけ恥ずかしかったか…!」
どうみても『テッペンにきてる』という表情の彼女が言い放った。
「さ、帰りましょ!もう審査結果を待つまでも、ないんじゃない?」怒り冷めやらぬ彼女は、すっくとその場から去ろうとした。
「…待って!コンテストとさっきの事とは、別…」とっさに言おうとしたが、すぐに言うのを止めた。失言とはいえども、『言ってしまったこと』には変わりはなかったからだ。
(終わった…金一封も…温泉旅行も…。落胆しかけた依頼人。…あぁ、私の作戦が…心の中でガラガラと音を立てて崩れていく…『コスプレコンテスト大儲け作戦』…GAME OVER…)
落胆する依頼主。その時、一枚の写真が目に止まった。
そよ風が、彼女の髪とスカートを軽やかになびかせている、ごく自然なワンシーン。だがしかし…。
セーラー服にカーディガン姿の背を、追いかけるように言った。
「まさかSNOOPYじゃ、ないよね?」わざと大きな声で、彼女に聞こえるように言った。
「(また、いつもの陽動作戦ね。発表会の時は焦ってたから引っかかったけど…こん…どは?)」
スタスタと歩いていた彼女の足が止まる。待て…。
「な…?なに、大声で言ってるの!?」振り向きざまに切り返した。
こっちコッチと、手招きする依頼人。どうも様子が違っている様子だった。
半信半疑で踵を返し、彼女は招かれた方へ行ってみた。
「(もう、いい加減なこと言わないでよ!着替えてるとこでも、見たっていうの?)」顔を赤らめながら言う。
「(スパッツとかインナー、つけてなかったの?)」近くに来た彼女にそう囁いた。
「…勿論、履いてるわよ!アンスコ…。高校の時の下がりもんだけど」
「…アンスコって、まさか白じゃないよね…」バツが悪そうに彼女にそう言った。
「……白。だけど、それが何か…?」怪訝そうな表情で彼女は言った。
カメラマンの彼女は、ガクッと落胆し、チョイチョイと画面を指さした。
「…この写真、見てみ…。アンスコからきれいにヒップのSNOOPYがコンニチワって…」
「…!あ…こ、これは…」みるみるうちに赤面する彼女。一気に耳たぶまで真っ赤になった。
「こんな時ってさ、フツー『黒』だよね。いわゆる『見せパン』ってやつ。白って透けるんだよ。これじゃ審査委員を煽ってるようなもんじゃない?意図的にしたなら『規定違反』になるけど…、どうする?」
「…どうするって、フィ…フィルムは?削除とか、できないの?」
慌てる彼女をよそ目に、「もう、現像に回ってるよ。最終審査だもん」と、やっちまった感みたいな依頼主。
ただ、形勢は一気に逆転した。(逃しかけてた金一封が、温泉旅行が……。神さま、ありがとう!)と心のなかで呟いた。口では擁護していたが、本心は逆だったからだ。
「こればっかは、しょうがないよね。もう、私がどうこうできる問題じゃないし」突き放すかのように彼女に言った。
彼女にも弁明(リクエスト)の余地は、もちろんあった。
「そもそもこんな短い丈のスカートのセーラー服は規定違反にならないのか?」だった。しかし、審査では何も抵触していなかったようで、諦めるしかなかった。
「(こんな写真が審査員の、中年オジサンに閲覧されるなんて…最悪だ…)」
今度は逆の意味で、この場から逃げ出したくなった。
審査終了まで、あと数十分…。
彼女には永遠に続く長い時間のように思えた…。
はたしてコンテストは終わりを告げるチャイムが鳴らされ、会場のメイン会場は、各賞の発表の場へ変わった。
「(結果なんてもう、どうでもいい。早くこの場から退散したい!)」彼女は終始、俯き加減で、そう願った。
一方、ドキドキの結果を待っているのは他でもない、依頼人の方だった。一度は逃した鳥を今度は離さないぞと、意気揚々だった。
「(写真は…後でどうなるの?まさか、掲示なんてしないよね?)」耳元で囁く彼女。
「どうだろう?入賞だったら載るだろうねぇ。社内報とかにも…あ、広告用のポスターに使うとか」ワザと知らん顔で、天を向きながら話すその依頼主は、悪魔そのものに見えるのだった。
「(他人事だと思って、…あぁ、どうしよう…)」持っていきようのない不安感で、彼女は泣きそうになっていた。
続々と発表される表彰式は続いた。
「(名前が呼ばれませんように…)」祈る彼女。
「(名前が呼ばれますように…)」祈る依頼人。
「では、入賞作の発表です。『2026 コスプレコンテスト』、栄えある大賞は…、『エントリーナンバー7の、〇〇しおりさん』に決定いたしました!」
どよめく会場、視線は一気に彼女に向けられた。
「へっ?…わたし?…うそ…だって…」キョトンとした顔の彼女を見て、ハイタッチを求める依頼人!
「やった〜!金一封・温泉旅行いただき〜!」気分はもうハイだった。
「〇〇しおりさん、どうぞ中央のステージへ!」
温かい拍手の中、彼女(しおり)は、ステージへと、向かった。
感想を聞こうと、マイクを向ける司会者。狐につままれたような表情のしおり。
「今の率直な気持ちをどうぞ」ニコニコしながらマイクを向ける司会者。
「いや、あの…。どの写真ですか?…やっぱりSNOOPYですか?」司会者を伺うように答えるしおり。まだ状況を把握してない様子だった。
「?…SNOOPY…?面白い事を、大賞を取ったのはあなた自身ですよ」司会者は、笑いながらも真顔で答えた。
「え?…でも何がなんだか、サッパリ……」
ブッているわけでも、混乱しているわけでもない。普段通りの『しおり』がそう言っていた。
「これが大賞の写真です!」ステージ奥のスクリーンに拡大投影され、横にパネリングされたその写真とは…?
⋯ベンダーステーションで仕方なさそうに、レンズを見つめるセーラー服姿の自分だった…!

着飾らない、はにかむような素直な顔のしおり。決定打になったのは、その「素直さと制服とのギャップの大きさ」だった。
「(よかった〜、チラリの写真じゃなかったんだ…)」しおりの顔が安堵感から本当の笑顔になった瞬間でもあった。
拍手や指笛に冷やかされながらも、はにかみ笑顔で答えるしおり。
「(そっか…エントリーした時からもう、決まってたんだ…。こりゃ完敗だよ。これは、『あんた自身の賞』だったんだ)」拍手を送りながらその光景を見ていた依頼人・夢乃はそう思った。
ステージ上から、無邪気にピースサインを送るしおり、ファインダー越しの夢乃に向かって、映し出されたその笑顔は、色褪せることなく、ひときわ輝いていた…。
To be Continued. NeXT Episode.
いいなと思ったら応援しよう!
創作物には、有料にしたいのもやまやまなんですが、有料記事まで行きません。どうか、「応援したい」「続けて連載して」という方がいらっしゃいましたら、どうぞチップをくだちい。創作の活動費用に全額使わせていただきます。