あんただけは、こんなことしちゃいけないと思うんだ。
きのう、庭の端っこで偶然みつけた。
たぶん、何年か前に育てたことのあるフローレンス・フェンネル
だと思うんだけど。
こぼれ種であんなに厳しい冬を越えて、手入れの行き届かない草だらけの敷石の間からなんて、芽を出しちゃいけないと思うんだ。
そんな荒っぽい生き方、あんたには似合わない。
あんたの名前はフローレンスで、由緒あるあのフェンネル家の末裔なんだから。
誰もが認めるハーブの女王、それがフローレンスさんだ。
アスファルトを突き破る、ど根性大根の真似なんかしちゃあいけない。
世の中の意識高い系の奥様達が、今の姿を見たらどう思う?
それまでと同じように、アクアパッツァに入れたいと思うかな……。
誰にでも、それぞれ相応の生き方があるべきなんだよ。
私はね、それを間違えちゃいけないと思うんだ。
庶民的なフローレンスさんなんて誰も望んじゃいない。
ひとまずは、玄関横の芍薬ばあさんの隣にそぉっと植え替えて、
秋までずっと大先輩からの薫陶を受けてもらおうかな。
フローレンス・フェンネルはソワソワして、居心地の悪そうな顔をみせるかもしれないね。
芍薬ばあさんの、守るもののある強さと、
フローレンスさんの生まれながらの気高さと。
それは、どんなにかお互いの美しさを引き立てあうことだろう。

