見出し画像

【第5章-2】(中編)強面(こわもて)には見えないバグ 〜元社長室長が秋葉原の路上で見出した、半グレとオタクの隙間〜

■ まえがき

【第5章-1】(前編)では、大きく膨らんだプライドが邪魔をして、転職した会社をすぐ辞めてしまい、ついには住む家までなくしてしまった所までお話しました。
この【第5章-2】(中編)では、住む家をなくしてしまう直前のエピソードをお話しようと思います。



■ プライドの残骸と、秋葉原の裏通り


だんだんとお金が無くなっていく。
しかし、手元にはサラ金の借金があり、毎月の返済日は容赦なくやってくる。
背に腹は代えられない状況の中、私は昔の知り合いから、とあるアルバイトを紹介された。
向かった先は、最先端のオタク街・秋葉原。
仕事内容は、路上での「エミュレータ」販売の売り子だった。
それまで私は全く知らなかったのだが、エミュレータとは、昔のゲーム機の内容がDVD1本に何百本、千本以上も丸ごと入っているという代物だった。
DVD1枚に、ファミコンゲームが1,000本。
スーパーファミコンゲームが400本。
「昔のゲームの容量ってこんなに小さかったんだな」と技術の進歩に驚きつつも、それを1枚5,000円から、高ければ3万円で路上販売するのが私の任務となった。
この商売を取り仕切っていたのは、郊外の不良グループ。
今でいう「半グレ」のような連中だった。
「元手がほとんどかからず、秋葉原のオタクどもに売りつけるだけの簡単なお仕事」
彼らはそう高を括って、この違法ビジネスを始めたようだった。

■強面(こわもて)たちの致命的なマーケティングバグ


しかし、現実は甘くなかった。
「簡単なお仕事」のはずなのに、やってみると意外と売れない。不良たちの顔は曇っていた。
ちょうどそんな停滞期に、私は売り子としてチームに入ることになった。
初仕事の前、リーダーの不良からいろいろとルール説明を受けた。
「1万円のDVDは5千円まで値引きしていい」
「3万円のものは1万5千円までは値引きしていい」
「夕方に迎えにくるから、その時に販売したお金と商品を返すこと」
日当としての最低保証給に加え、売り上げに応じたボーナス制度もあった。説明の最後には、これまでの1日の最高売上金額も聞かされた。
だが、説明を聞き、彼らの販売風景を見た瞬間に私は確信していた。

「こいつら、自分たちを客観的に見れないのか?(笑)」

実は、このグループのメンバーは全員、はっきり言って絵に描いたような強面(こわもて)ばかりだったのである。
彼らの路上販売のスタイルは、キャンプ用のアウトドアテーブルの上に商品を並べ、実演販売ができるようにノートパソコンを1台置くというものだった。

想像してみてほしい。ここは平成の秋葉原の裏通りだ。
いかにも怖そうな不良の兄ちゃんが立っているテーブルに、ただでさえシャイな秋葉原のオタクたちが近寄るはずがなかった。
実演用のノートパソコンでゲームをプレイするどころか、基本的には遠巻きに警戒され、完全に避けられている状態。
彼らには「客の視点に立って自分たちを客観視する」という、ビジネスの基礎の基礎が完全に欠落していたのだ。

結果から言うと、私は初日で、彼らがこれまで必死に作ってきた最高売上金額の「倍以上」の売り上げをあっさり叩き出した。
まともな物腰の人間がそこに立つだけで、心理的ハードルが下がる。
当然の結果だった。

半グレのリーダーは私の売り上げに驚愕し、激しく喜んだ。
2度目からは完全に私を信用し、「優秀なエース販売員が入った」と歓喜しているようだった。

■パーカーを纏(まと)ったサクラの罠


初日で圧倒的な成果を出した私だったが、同時に「今のやり方では、まだ売り方の効率が悪い」ということにも気づいていた。
基本的に、夕方の迎えが来るまでは一人で任される仕事である。やり方は自由に変えられた。
そこで2日目、私は戦略をガラリと変えることにした。
まず、服装を「秋葉原の若者たちに紛れても、何も違和感を感じないパーカー」に変えた。
そして、アウトドアテーブルの上のノートパソコンを、売り子側ではなく、通り側(顧客側)に向けて設置する。
準備が整うと、私はおもむろに、顧客側のノートパソコンの前に立ってゲームをプレイし始めた。

秋葉原を行き交う人々から見れば、その光景は「売り子が不在の路上販売のゲームを、通行人の若者の一人が無料で楽しそうにプレイしている図」にしか見えない。
この狙いは見事に的中した。
私がしばらくゲームをしていると、周りに数人の若者たちが集まってきて、後ろから見学し始めるようになった。
絶妙なタイミングで、私が「あ、お先にどうぞ」という風にゲームを中断して一歩引く。
すると、待ってましたとばかりに、順番を待っていたと思い込んでいる若者がコントローラーを握り、ゲームを引き継いでプレイし始めるのだ。

■コントローラーを握るオタクは逃げられない


罠はここからだった。
ゲームのプレイに夢中になっている若者の隣に、私はスッと寄り添う。
ゲームプレイ中の若者は、画面に集中しているし、ゲームの途中のため、その場からとっさに逃げることができない。肉体と意識がその場に固定されるのだ。
完璧に逃げられない状況を作った上で、私は初めて、隣から丁寧に声をかける。
「このDVD、スーパーファミコンのソフトが400本も入っていて、価格は3万円なんですよ」
そこから極めて自然に営業を開始していく。

この「サクラ戦略」と「フット・イン・ザ・ドア」を組み合わせた仕組みは、予想通り私の満足のいく成果をあげた。
半グレたちが過去に一生懸命頑張って声を張り上げていた1日の最高売上。
その3倍、4倍という金額を、私は何食わぬ顔で売り上げ続けた。

■領収書なきブラックボックスと、命がけの引き際


半グレのリーダーへの報告は、当日の売り上げと在庫、そして「幾らで販売したか」を書いた手書きのメモを渡すだけだった。
お気づきだろうか。ここに大きなバグ(隙間)があった。
「3万円の商品を1万5千円に値引きして売った」とメモに書きながら、実際のところは2万5千円で販売していても、何の証拠も残らないのだ。
路上販売であり、領収書もへったくれもない。
つまり、1万円をピンハネしても、誰にもバレようがない完璧なブラックボックス環境だった。

当時の私は、仕事が続かない無職で、サラ金に借金もあった。完全にモラルが欠如していた時期である。
そもそもモラルが欠如しているからこそ、半グレの違法ビジネスに手を貸していたのだ。
私はこのシステムの穴を大いに活用した。
提示されていた日当は1万5千円か2万円くらいだったと思うが、それとは別に、毎日2〜3万円は確実にピンハネしていた。
週末だけの稼働だったが、それだけで同世代のサラリーマン以上の月収が、非課税でポケットに転がり込んできた。

しかし、そんな歪な生活は長くは続かない。
「もし何かの拍子で、このピンハネが半グレ連中にバレたら、間違いなく半殺しにされるな……」
ある日、ふと冷徹な現実感が背筋を伝った。
絶対にバレない環境ではあったが、万が一のことがあれば目も当てられない。それに、仕事自体がそもそも違法行為だ。いつ警察に捕まるかもわからない。

引き際だと察した私は、始めてから1ヶ月でこのアルバイトを辞めることにした。
優秀なマネーマシンを失いたくない半グレのリーダーからは、かなりの引き留めにあった。
しかし、私は元社長室長としての、もっともらしい大人の仮面を被ってこう告げた。
「私ももう一度、会社員としてきちんと実社会で仕事がしたいのです」
熱い情熱を装った説得により、なんとか円満に辞めることができた。

その後、すぐに不良グループの連絡先をすべて削除した。幸いにも向こうから連絡がかかってくることもなく、綺麗に縁を切ることができたのである。
マーケティングの穴を突き、一時的にある程度のお金を得ることができた私。
しかし、モラルなき違法行為で得たあぶく銭が、狂い始めた人生の歯車を止めてくれるはずもなかった。

資金は再び底を突き、私はついに、本当の「底」へと足を踏み入れることになる。

【第5章-3】(後編)へと続く


【次回予告】

領収書なき路上販売のブラックボックス。毎日数万円をピンハネするモラルなき生活の裏で背筋を伝った「バレたら半殺しにされる」という本物の恐怖。

命がけの引き際でグループを円満に脱出したものの、あぶく銭が人生の歯車を戻してくれるはずもありませんでした。資金は再び底を突き、私はついに、本当の「どん底」へと足を踏み入れることになります。

東京の板橋にある屋外レンタル倉庫の2階。凍える冬の夜・・・

第5章-3:『(後編)レンタル倉庫の2階で、ブライダルキャンドルを灯した夜』

8月28日(金)朝7:30 公開予定。すべてを失った男の、泥臭い復活のロジックがここから始まります。どうぞお楽しみに。

(※上の【フォロー】ボタンを押していただくと、衝撃の『レンタル倉庫ホームレス生活編』の公開通知が届きます。ぜひよろしくお願いいたします!)


👇【前編:社長室長からの転落】はこちら

👇【後編:コンテナ生活と230万奪取】はこちら




#note #エッセイ #ノンフィクション #実話 #秋葉原 #半グレ #マーケティング #ビジネス #サラリーマン

いいなと思ったら応援しよう!