遊びが知性を育てる― 子どもは身体を動かしながら世界を学んでいる ―
「子どもは遊んでいるだけです。」
保護者から、そのような言葉を耳にすることがあります。しかし、本当にそうなのでしょうか。
私は五十年以上にわたり子どもたちと向き合ってきましたが、その姿を見続ける中で確信していることがあります。
それは、子どもにとって遊びと運動は別々のものではなく、一つの営みであるということです。
大人は「勉強」と「運動」を分けて考えます。しかし、子どもは遊びながら身体を動かし、身体を動かしながら考え、感じ、学び、そして世界を理解していきます。
近年の研究でも、幼児期の身体活動は、体力の向上だけではなく、認知的能力や社会性の発達にも良い影響を与えることが明らかになっています。
つまり、子どもにとって遊びは、身体を育てる時間であると同時に、知性を育てる時間でもあるのです。
遊びの中では、身体と知性が同時に育つ
子どもは鬼ごっこをしながら、相手の動きを見ています。
ボール遊びでは、距離や速さを予測しています。
積み木では、倒れない積み方を考えています。
ごっこ遊びでは、友だちの気持ちを想像しながら役になりきっています。
その一つ一つの活動の中で、見る、聞く、触る、考える、判断する、記憶する、やり直すという知的活動が自然に繰り返されています。
つまり、遊びとは身体だけを使うものではなく、脳全体を働かせる学びそのものなのです。
一つの遊びには、さまざまな運動が含まれている
遊びを少しだけ専門的に見てみると、そこには大きく四つの運動が含まれています。
まずは粗大運動です。
走る、跳ぶ、登る、くぐる、転がる、ボールを投げるなど、身体全体を使う動きです。姿勢やバランス感覚を育て、空間の中で自分の身体をどう使うかを学びます。
次に微細運動があります。
積み木を積む、シールを貼る、紐を通す、はさみを使う、お箸を持つ、絵を描くなど、手や指先を使う細かな動きです。手先の器用さだけでなく、目と手を協応させる力や、力加減を調整する力を育てます。
さらに弛緩運動があります。
力いっぱい走った後に肩の力を抜く、深呼吸をする、身体をゆったり揺らす。この「力を抜く」という経験は、興奮した心と身体を整え、集中へ切り替えるために欠かせない力です。
そして模倣運動があります。
先生や友だちの動きをまねる、動物になりきる、手遊び歌を一緒に行う。模倣は単なる真似ではありません。相手を観察し、自分の身体に置き換えて再現するという高度な学習です。ここには観察力、記憶力、運動計画、そして他者理解が含まれています。
実は、一つの遊びの中には、これら四つの運動が自然に溶け込んでいます。
例えば砂場遊びでは、しゃがむことは粗大運動、スコップを握ることは微細運動、友だちの遊び方をまねることは模倣運動、夢中になって遊んだ後に力を抜いて砂をならすことは弛緩運動につながります。
子どもは意識することなく、多様な運動を遊びの中で経験しているのです。
運動は知性を育てる
知性というと、文字を読んだり計算したりする力を思い浮かべるかもしれません。
しかし、本来の知性とは、それだけではありません。
注意を向ける力。
覚える力。
順番を考える力。
予測する力。
問題を解決する力。
相手の気持ちを理解する力。
こうした力も、すべて知性です。
鬼ごっこでは相手の動きを予測します。
ボール遊びでは距離や速度を判断します。
リズム遊びでは順序を記憶しながら身体を動かします。
ごっこ遊びでは役割を理解し、言葉を選び、相手との関係を築いていきます。
運動遊びは、このような知性を無理なく育ててくれる最高の教材なのです。
文部科学省の「幼児期運動指針」でも、幼児が毎日身体を動かして遊ぶことは、体力や運動能力だけではなく、認知的能力や社会性の発達にも良い影響を与えることが示されています。
遊びの中で育つ「生きる力」
私は長年、多くの子どもたちを見てきました。
机に向かうことが苦手な子でも、遊びになると驚くほど集中し、友だちの動きを見ながら瞬時に判断し、自分の行動を変えていく姿を何度も見てきました。
そこには、学校では測り切れない「学ぶ力」があります。
遊びの中で子どもたちは、
・ルールを守る
・順番を待つ
・失敗してもやり直す
・仲間と協力する
・相手の気持ちを考える
・自分の身体を思い通りに動かす
ことを自然に学んでいます。
こうした経験は、自己効力感や意欲を育て、学校生活や社会生活を支える大切な土台になります。
年齢とともに遊びは変化する
0〜3歳では、はいはい、歩く、つかむ、入れる、出す、まねるといった感覚と運動が中心になります。
3〜6歳では、走る、跳ぶ、投げる、リズム遊びやごっこ遊びを通して、言葉や社会性が大きく育ちます。
6〜9歳になると、ルールのある遊びや集団遊びが増え、協応性や判断力、集中力、戦略的思考も発達していきます。
遊びの形は変わっても、身体を使って学ぶという本質は変わりません。
おわりに
石川メソッドでは、「ことば」「かず」「ちえ」「わらい」「うんどう」の五つを教育の柱としています。
この五つは、それぞれ独立したものではありません。
身体を動かすことで言葉が育ち、言葉が思考を育てます。
遊びの中で数の感覚が育ち、知恵が生まれます。
仲間と笑い合う経験は、人とのつながりを育みます。
そして、そのすべてを支えているのが「遊び」です。
子どもにとって遊びは、暇つぶしでも、ご褒美でもありません。
身体を使い、心を動かし、人と関わりながら世界を理解していく、最も自然で、最も豊かな学びなのです。
私はこれからも、幼児期の基礎教育において最も大切なのは、「何を教えるか」ではなく、「どのような遊びを経験させるか」であると考えています。
遊びは、子どもが世界を理解する最初の学びであり、身体で語る最初の「ことば」なのです。
―― Ishikawa Method|基礎から未来を育てる教育へ
Ishikawa Education Research Institute
イエリ「石川教育研究所」
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イエリ流学問のすゝめ「ことば学びラボ」
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