【小説】最終章 カッコウの子を巣に還す時 15【遠い銃声】
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「遠い銃声」シリーズ用語集
カッコウの子を巣に還す時 1~10まとめ
カッコウの子を巣に還す時 11
カッコウの子を巣に還す時 12
カッコウの子を巣に還す時 13
カッコウの子を巣に還す時 14
カッコウの子を巣に還す時 1~14のあらすじ
高村逮捕から5年後
総帥の子供だったとわかった北斗は小野田ホールディングス創業者一族に戻ることもなく あいかわらず、北斗として生活をしていた。
青竜は末期のガンになり、ホスピスに入ることを決意したが、入院の日に現れず逃亡する。
再会はできたものの、彼は総帥に「北斗を殺せ」と命令されて拒否していたことを告白し、再び逃亡する。
青竜は「カッコウの生態」を調べると言いながら、北斗の出生関係の情報を知ると思われる『田園調布レディースクリニック』の元産婦人科医水本を探し出し、問い詰め、過去の北斗(昴)の誘拐に総帥も関わっていたことを知る。
青竜は「北斗が死んだ」と偽情報を流し、総帥に会うために北斗と一緒に小野田ホールディングスの東京本社へ向かう。
壁ひとつ隔てた北斗の目の前で青竜と総帥は対峙し、青竜が持っていた手りゅう弾の暴発により二人は亡くなった。
二人の姿をまのあたりにして、自我が崩壊してしまった北斗は白夜に看病され、自分が昴だと思い込むようになる。
白夜と生活を共にしながら徐々に北斗は自分を取り戻していく。

15 遠い銃声
はたちになった時、北斗は銃の師匠のマックスに言われてわな猟と網猟と猟銃免許を取った。
猟銃免許は第二種で、空気銃を使えるようになった。
猟友会から頼まれて、マックスと一緒に週末奥多摩でイノシシなどの害獣を駆除しに行ったりした。
実は北斗は幼い頃から、小野田ホールディングスの総帥の私兵となるべく育てられていたので、未成年のうちからライフルや短銃を小野田内の射撃場で撃っていた。
だが、いざ実際に撃つとなると激しく緊張した。
『いくら害獣とはいえ、生き物の命を奪う行為だからな』
マックスも害獣駆除で駆り出され、空気銃を提げた北斗に厳しい顔をして言った。
『間違いがないように、心して挑めよ』
元ドイツ軍人の金色の髪と大きな背中を北斗はいつも追っていた。
パーンと何か遠くで三発、銃声の音がしたような気がして北斗は起き上がり、リビングに行った。
朝、白夜が朝食用のパンを焼いていた。
「何、銃声?」
「ああ、三段雷のこと?今夜うちの近くの神社がお祭りなんだよ」
「さんだんらい?」
北斗が首をかしげると、白夜は椅子を引いて、北斗に座るよう促した。
「音だけの花火のことだよ、『今日お祭りをやるよ』っていう合図…あっ………」
北斗の心を病ませた原因があの爆発事故だったことを思い出して白夜は小さくごめんと言った。
「怖かった?」
北斗はリビングの窓から外を見て、また白夜を見て首を横に振る。
「怖くない」
「都内であまり有名じゃない神社だけど、境内に露店がたくさん出て楽しいよ。あ、リアムさん連れていくのもいいかもね、アメリカにはああいうものがないから」
北斗は頷いた。
何かが弾ける音、いままで恐怖でしかなかったその音が、今日の三段雷には感じられなかった。
(昔……弾ける音はよく聞いていたような気がする)
北斗は自分の手のひらを見た。
あの冷たい重さ…鉄と火薬の匂い……。
「昴兄さん?パン焼けたよ…」
「あ、ありがとう……」
(戻ってきているのか……俺……)
北斗はパンをもらって、バターを塗りつけた。
昼近くになって、リアムが小野田家を訪れた。
白夜が先に応じた。北斗はリビングで待っていた。
純日本人のDNAを持ちながら、生まれて間もなくアメリカに渡ったリアムは外見は日本人だったが、中身はまったくの外国人だった。しぐさや言葉が外国人のそれだった。
「おひさしぶり、白夜、ねえ、聞いたよ。あの時、白夜と一緒に俺の家に来てくれた青樹さんと、俺の父親が亡くなったんだって」
「うん、事故だった……」
「そうか…」
遺伝子上は自分の父親にあたり、白夜の父親でもある元社長の仏壇で、ぎこちなく、リアムは線香をあげ、手を合わせた。
「何がおこるかわからないね、事故は怖い……」
仏壇に背を向け立ち上がったリアムに白夜が言った。
「あのね、北斗さんが、うちに戻ってきているんだ」
リアムはへ?と不思議そうな顔をした。
「俺の双子の兄弟だよね、ま、どっちが兄か弟かわからないけど」
白夜は頷いた。
「今は、昴の名前に戻って一緒に暮らしている」
「それは驚き、もう、彼は北斗の名前でいた時間がほとんだったし、戻って
くることはあっても、昴は名乗らないと思ってた」
二人は廊下を歩いた。
「今、俺は昴兄さんって呼んでる、北斗さんも、そう呼ぶと、『うん』って答える。じつは、昴兄さんもその事故にまきこまれたんだ」
リアムは驚いた。
「怪我したんだ、今どうなったんだ…」
「体には怪我はなかったんだ。ただ…記憶が混乱しちゃってて……」
リアムは俯いた。
「そう…白夜…大変だったな…」
白夜は少し微笑んだ。
「でも、事故直後は病院に入院して大変だったけど、今は家に入って落ち着
いているよ。リアムさんに会うのも楽しみにしているみたいだ……だけど、あのZoom会議の時の冷静な北斗さんの面影はないよ…だから、リアムさんも…北斗さんじゃなくて、昴って呼んでほしいんだ…」
「ああ、わかったよ」
リアムは頷いた。
「大変だったね、白夜……」
白夜はうっすらと瞳に涙をうるませた。
リビングには北斗が待っていた。リアムが入ってくると、何かあいまいな微笑みをして、ぎこちなく手をだした。
「初めまして、リアムさん」
リアムはぐっと瞳を開いて北斗を見た。
やや生気を欠いた眠そうな瞳、ぎこちない微笑み。
そして若いのに変わり果てた白髪…。
(あ……)
リアムは驚いた。

(昔よく夢に出てきた俺そっくりの白髪の男……)
自分がそうなってしまうのではないかと思って恐怖した。
夢の中に幾度か出てきた、白い髪の自分と同じ顔の男、昴を押し付けられたと言っていた……。
(予知夢だった…のか…?偶然にも…)
リアムは近寄るとぐっと北斗を抱きしめた。
「やだなあ、忘れちゃったのかい…昴…俺たち、ママのお腹の中で一緒だったんだよ」
北斗は無反応だった。リアムは寂しそうな顔をして離れた。
「………双子のテレパシーみたいな話があってさ、双子は一つの卵から別れたから、引き離されてくらしても、通じてる、だから同じこと考えてて、お互いがわかる……みたいに思われているんだよ、あれって嘘だね……」
白夜は顔をくもらせた。
「実際俺も、2年前まで、自分は一人っ子だと思っていたよ。ママは代理母を幾度かしていて、ママから生まれた人はいても兄弟ではなかったからね。
だから、君がどこでどうなってるか、なんて考えることすらなかったよ。
でも……」
北斗はリアムを見た。
リアムは辛そうな顔をした。
「こんな姿になった兄弟を見るのは同じ兄弟としてつらいなあ。本当に辛い目にあったんだな、髪が白くなるくらい…自分が壊れるくらい……」
「ごめん……」
北斗は謝る。
「謝る必要はない、昴…俺たち…もっと早く再会しておけばよかったな…2年前のZoom会議で昴を見た時、俺よりずっとしっかりした姿に見えた。
とても冷静だった。一度…じかに会いたいと思ってたけど、俺もなかなか日本に行けなくて…」
白夜はリアムの北斗への問いかけが怖くなって二人の間に入る。
「ねえ、三人でどこかへ食べに行こうよ……。車…俺、運転下手だけど、出すから…」
白夜が運転する車に乗って三人は外出した。
リアムが行きたいと言っていた、渋谷や皇居、東京スカイツリーをまわった。
北斗は英語を話せたが、積極的にリアムには話さなかった、彼と話していたのはむしろ弟の白夜の方だった。
「すごいね、アメージング!」
リアムは驚いていた。
「俺、日本がルーツだってことは知っていたけど、そんなに積極的に日本のこと知ろうとは思わなかったけど、楽しくて、歴史のある国なんだね」
リアムは少し日本語を話した。あのZoom会議以降、日本に行くために少しずつ覚えていったという。
「でも漢字難しくて、読み書きはダメだね、あの看板とか読めないよ」
中華料理の店の看板を指さして楽しそうに言う。
リアムは振り向いた、北斗と目があう。
北斗はびくっとした。
「なんだい、昴…気にしなくていいよ、話す気になったら話してくれたらいいさ…それともまだ外って刺激が強くて苦手?」
リアムを連れて白夜と北斗が家に戻ると、空に花火が開いた。
しばらくしてドーンと鳴った音に北斗は少し震えた。
「兄さん、大丈夫?」
白夜が車のキーをポケットにしまいながら言うと、北斗は小さく大丈夫と言って頷いた。
「祭り…行きたいな…白夜、リアムさんを案内したいよ」
北斗が珍しく積極的に話したのを二人は喜んで受け入れた。
三人は歩いて祭りをしている神社に行った。
鳥居をくぐり、拝殿までのまっすぐの参道に露店がびっしりと並んでいた。
リアムは大声で叫ぶ。
「何、これ、何、これ、アメージング!」
露店が珍しいらしい。
子供のようにリアムははしゃぎ、露店に詰め寄った。
何かを買おうとして、クレジットカードを出したので、あわてて白夜はリアムに耳打ちする。
「ここは現金決済が基本だよ」
「ごめん」
白夜がかわりに現金で払った。
「すごい!楽しい」
リアムは楽しそうに露店を見てまわり、射的屋の前で止まった。
「これやりたい」
「いいよ」
白夜は射的屋の店主にかわりに金を払う。
小さな銃を渡された。
「見てろよ、昴。あのピコチュウを獲るからなっ!」
黄色のネズミのフィギュアを指して叫んだ。
「がんばれー。リアム兄さん」
白夜は応援した。
リアムはふふんと笑った後、銃をかまえて赤い布が敷かれた棚に置かれている黄色のネズミのフィギュアに向けて銃口を向けた。
「Goーーーー!」
北斗は一瞬 ぴくっと動いた。
「Gehen」
と聞こえた。
Gehenドイツ語で英語では「Go」という意味だった。
「え…」
「Ah!!!!!」
弾はピコチュウの腹に当たったが、少し揺れただけだった。
リアムは悔しがった。
「Shit!、昴、今度は『ちょいかわ』狙うからな!!」
リアムは隣にあった白いネズミのようなキャラクターのアクリルスタンドに狙いをさだめた。
「Ah!!!!!」
弾は当たったものの、棚からは落ちてはこなかった。
リアムはまた悔しがった。
北斗の視界が歪んだ。
脳内に金髪の男性の背が見えたからだ。
「なに」
「ちょいかわのアクスタ欲しいのに…」
リアムは撃ったが棚から落ちることはなかった。

北斗は言った。
「リアムさん。俺、これやってみたい」
リアムはにやりと笑った。
「昴、そうこなくちゃ」
北斗は店主に金を払い、銃をもらって構えた。
「こういうのって、足元を狙うんだ」
「そうか、足元狙えばよかったのかー」
ぱん
白いネズミのアクスタが棚から落ちた。
「Good job!」
リアムは叫んだ。
「ねえ、次はピコチュウのフィギュアが欲しいよ、昴、隣の黄色のやつ」
ぱん
すぐさまピコチュウのフィギュアが赤い棚から落ちてきた。
「Good job」
リアムはフィギュアを店主からもらい嬉しそうに叫んだ。
その言葉は北斗に
「Gut gemacht!(よくやった) 」
とドイツ語に聞こえた。
「あ………」
北斗は銃を握ったままつぶやいた。
(この感覚覚えてる…)
「ピコチュウの次は何が欲しいんだリアムさん」
「そっちの、『ツーピース』のソンジのフィギュアが欲しい」
北斗は銃を構えて撃ち、落とした。
「Excellent!!」
リアムは叫んだ。
「すげえ、昴はスナイパーか!」
レジ袋に景品が入れられて、リアムに渡された。
金色の髪をした大柄の男性の後ろ姿。背中で揺れているライフルの入った銃ケース。彼の背を追って道のない山の中を歩く。
同じ猟友会のハンターに存在を知らせるために着ている鮮やかなオレンジのヤッケの背中…北斗は親鳥を追うひなのように追っていた。
「俺……」
リアムと白夜は、射的屋の店主に銃を返したまま止まる北斗を心配そうに見た。
「昴兄さん」
「昴……」
北斗は右てのひらを顔にあてた。
「違う…俺の名前は…星の名前だけど、星の名前じゃない……」
北斗の頭の中に山の中にたたずむ寺の本堂がうかんだ。
そこで50代の僧侶が読経をしている。
「親がわりの和尚がつけてくれた…星の名前に聞こえるけど…本当は少年マンガのタイトル……」
「昴兄さん、大丈夫?」
「な、昴」
白夜とリアムは北斗の左右を支えてゆっくり歩き出した。
「どうしたのかな、射的でたくさん景品とれて興奮しちゃったのかな?昴兄さん」
「少し、静かなとこいこうか、昴」
(ああ……違う…俺…俺…)
北斗は頭の中にばらばらに現れる不思議な記憶をたどっていく。
『北斗君、やっぱり北斗君だわ』
比較的新しい記憶、この前家に来た美しい女性が言っていた。
(そうだ…おれ、そうだ)
「北斗だ、俺、北斗だ、昴じゃない」
両腕に力をこめて、北斗はリアムと白夜の腕をはがし、走り出した。
「ああ」
北斗は駆けていく。
白夜とリアムは追いかけようとした。
その時、白夜の背後から声が聞こえてきた。
『手放すのよ…放すの…白夜……』
白夜は振り向いた。

そこには…若かった頃の母親のひすいが立っていた、彼女を守るように、また同じように20歳前後と思われる青竜の姿があった。
生きていない二人が心配しているかのように見つめ、そして手を伸ばした。
『放すのよ、もう、あなたは十分彼を守ってきた。彼はもう大丈夫だから』
走り去る北斗をリアムが追っていた。白夜は立ち止まって涙を流した。
「かあさん、青、俺…兄さんを守ってなんかいない……一人でいるのが…寂しくて……北斗さんを……昴兄さんにして………閉じ込めていたんだ…」
『いいのよ……』
実体のないひすいが白夜を抱きしめた。
リアムは北斗に追いついた。
「どこ行くんだ、昴」
「俺、北斗だ」
リアムは頷いた。
「知ってるよ、知ってた。お前、昴って言われて『うん』て頷いてたけど、本心違うって顔してたもんな」
北斗はえっ…と不思議そうな顔をした。
「だって、俺、お前と双子の兄弟なんだもの、昔、一つの細胞だったんだぜ、一緒だったんだ」
リアムは北斗の手を引いた。
「だから一緒に行く。遠くだったらタクシー頼もうよ」
「家に帰るんだ…家に……」
二人はタクシーを拾い乗り込んだ。
「記憶を失う前に住んでいたアパートに戻るんだ」
リアムは北斗に聞いた。
「それ何月前…?」
北斗は指を追って数えた。
「あ…何か月かすぎてる…」
「家賃払ってなかったら解約されてない?」
「あ……」
北斗は一瞬だけ落胆したような顔をしたが、すぐに冷静な表情になった。
「されてるかもしれない、一応どうなってるか見にいく」
何分か走り、住宅街でタクシーを降りて二人は北斗が住んでいたアパートの前に来た。
「……俺の部屋に電気がついてる…」
北斗は見上げた。
懐かしさがこみあげてきた。
あの事故にあう日の前に、今北斗が佇んでいた所に青竜が立って手を振っていたのだ。
(ほんの数か月前なのに、何年も前に思える)
電気を消し忘れてでかけてはいない記憶があるから、あれは誰かがいて、電気をつけているのかもしれない。
大家か…それとも新しい住人か……。
「もう誰か住んでる?」
「わかんない、行ってみる」
二人は階段をかけあがり、北斗の部屋の前まで来た。
北斗はインターホンを押す。
中の人間がモニターを見ている雰囲気があった。
「俺が誰か確かめている…」
どたどたと激しい足音が近づいて扉が開いた。
「あ…………」
ドアが開く、大柄な金髪の白人の男がリアムと北斗を見下ろしていた。

「同じ顔がふたつ……」
白人の男が日本語で言うと、その瞬間、白髪の北斗を抱きしめた。
「Willkommen zurück おかえり、北斗…お前…一体どこへ行っていたんだ、こんな姿になってしまって……」
「師匠…マックス師匠……ただいま……」
北斗も涙をこぼしてマックスを抱きしめた。
「ごめん師匠……迷惑をかけてしまって………」
「そうか…戻ってこれたんだな…」
リアムは嬉しそうに二人の姿を見つめていた。
カッコウの子を巣に還す時16(最終回)に続きます

皆さま、いつも私の拙い小説を読んでいただきありがとうございます。
「遠い銃声」シリーズ物語が最終に近づいてきました。
連載終了後に短編小説スピンオフを一作公開する予定です。
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回答期限(最終章 最終話が公開されてから1日後予定)


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