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【√と彼らの記憶遊戯】第一章_3話(1/4)「ある少女について」

 気づくと、もう昼休みの時間だった。俺は購買でメロンパンを買うと、教室へ急いだ。教室に戻ると、もう仲良くなったのか、教室の片隅で男女グループを作って昼ご飯を食べていた八坂に、
 「ちょっと、ほんとにどこ行ってたの!」と声を掛けられる。
 「悪い。」本当のことは言えず、ただ謝るしかなかった。そんな俺に八坂は、
 「もー、言い訳大変だったんだからね!すぐ戻ると思ってトイレって言ったのに、戻らないから下痢ってことにして、最後は様子見てきます!からの調子悪そうなので保健室連れて行きました!だよ?」
 「社会科教師の顔ドンドン険しくなってたよね。」とクラスメートの女子が言う。
 「八坂が必死すぎて俺、笑い堪えるのに必死だったもん。」とクラスメートの男子がまた笑いを堪えるように言った。
 すると、八坂の懸命な言い訳を思い出してか、周囲にドッと笑いが起こった。

(__ちょっとだけ、コイツの明るさに救われた気がする。)
「いや、ほんと助かったわ。ありがと。」と俺は、素直に八坂にお礼を言ったのだが、
「__え、ほんとに熱ある?」と八坂は怪訝そうな顔で見て来た。
( 心外だ。)

 俺は1限のホームルームに参加せず、自己紹介のタイミングも逃してしまったので、そのまま軽く自己紹介すると八坂を中心とした7人の男女グループに混ぜてもらった。輪に混ざって食べると、適当に選んだメロンパンもそれなりに美味しく感じたのだった。

(____篠崎先生が抜けて担任はどうなったのだろう。)
 それとなく話題を振ると、俺の知らない新人の女教師をまるで始めから担任だったかのように、受け入れているようだった。
 ____つまり、代わりをどこからか持ってきたと。新米の先生には悪いが、俺だけはそう思ってしまう。

*****

「さて、これからどうしようか__。」

 俺の能力には、欠点があった。それは、強すぎる感情を視ると、まるで自分ごとかのように内に取り込んでしまって眩暈を起こし、酷いと意識を失うという身体的欠点だ。
 それは中学の事件をきっかけに自覚するとトラウマとなり、それからは周囲にあまり関心を持たないように過ごしてきたのだが____。

 今はそうも言ってられない状況になった。

  俺の能力の発動条件は「知りたい」と対象に興味を持つことだった。
そして、俺が今気になっているのは、紫髪ボブヘアの女子生徒__神無楓かんなかえでだ。

『____お前と同じ学年、そして立場も同じ。厳重観察対象の生徒だ。しかし、髪の色から性格まで、入学前の情報と全く変わっている____。』
 校長室でのやり取りから兄さんは、神無楓と俺を会わせたがっていた。そこには何か理由があるはずだ。

 午後の授業を終えて、放課後のホームルームを終えると、帰りの挨拶もそこそこに俺は廊下を急いだ。彼女に会うためだ。____八坂に聞くと、クラスはたしか5組と言っていた。

 あいにく、5組の方が俺のクラスよりも早くホームルームが終わったようだ。帰り支度を済ませて教室から出てくる生徒が多く、廊下の道が塞がれた。その集団の中を見るが彼女は見当たらない。

 人混みを抜けて5組の教室を覗くと、ほとんどの生徒はいなくなっていた。

_____それでも、教室の後ろ、窓の空いた所からカーテンが揺れる隙間に、あの紫色の髪が見えた。
(あの生徒だ____。)

  俺はゆっくりとその窓際に歩いていく。そして、
「はじめまして。俺は、暖野簾李と言います」と、俺は声をかけたのだった___。

  どうやら窓を開けて腰かけていたらしい彼女は、ひょいと教室の床に降りると
「はじめまして!!」と気さくに返してきた。声色は女子にしては中性的な印象を受ける。
「神無楓さんであってますか?」と俺が尋ねると、
「あってるよー」と緩い返事が返ってきた。
「ちょっと君のこと知りたいんだけど」と俺が尋ねると、
「え、なに?いきなり一目ぼれからの告白!?」と思いもしない返事が返ってくる。
「そうじゃなくて…」と俺が訂正する間もなく、
「ボク男だけど。あ、でもかわいいもの好きだから男の娘っていうのかな!」と予想外の言葉が返ってきた。
見た目は完全に女子なのに。中身は男で、かわいい物好きで、これは多様性…?いや、そうじゃなくて。
 俺は、その独特なペースに呑まれつつも、本筋を見失わないように気をつける。

『__問題は、能力者を持たない者として一般で入学したのにも関わらず、能力持ちになったこと。おまけに、さっき同い年といったが、昏睡状態から起きると記憶がさっぱりと抜け落ちたそうだ。』
 また兄さんとの会話が思い出される。

 俺は首の後ろに手をあてつつ
「えーっと…俺の異能力で君のこと視てもいいかって聞いたんだけど……」と訂正する。

(普通に、初対面の人にこんなこと言われても困るだけじゃないか?)
しかし彼女は、
「そーいうことなら!どうぞ宜しくお願いします。」とかしこまってお辞儀して来たのだった。
「いやー、ボク自身ね。自分のことよく分かってないのよ。だから知りたいって君の気持ちを尊重する!」
「初対面でそんな簡単にオッケーして大丈夫なのかよ?」と面食らった俺は、思わずくだけた口調になって聞くのだが、

「大丈夫!その代わり視えたものを教えて!」と楓はあっけらかんとしている。

それなら遠慮はいらないか____。

この会話だけでも、兄さんが彼女に会わせようとした理由が何となく分かってきた気がした。

_つづく

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