見出し画像

【√と彼らの記憶遊戯】第一章_3話(2/4)「魂の脚本」

 能力の発動条件はその対象を「知りたい」と思うこと。俺は彼女に興味を持った。
 そして俺は彼女のことを知らなくちゃいけない。
(知りたい…知りた…)

__しかし、彼女にかざした俺の手はいつの間にか震えていた。

  彼女は不思議そうに俺を見ている。やがて、
「知りたいって気持ちはね、シンプルでいいんだよ!」とおもむろに、彼女は俺の頭に手を伸ばそうとしているようだった。

 しかし、窓から降りた彼女は案外小柄な方で、180㎝以上ある高身長な俺とは30㎝ほど身長差があるようだった。
それでも、ぴょんぴょんと手を挙げて飛び跳ね、小刻みに頭を触ってくる。

「何なんだよそれ。バンドのライブかっての!」俺は彼女の珍妙でいて、真っ直ぐな行動につい笑ってしまう。
 
 すると不思議と過去のトラウマも何も、どうでもいいことのように思えてきたのだった。
(彼女なりに俺を励まそうとしたのか?)

「ボクのためだと思ってその能力を使ってよ。」とさらに楓が言った。

(そうだ。神無楓も知りたがっている。それなら、何を戸惑うことがあるのか。)

「大丈夫だ。ありがとう。」俺は、そうお礼を言うと深呼吸する。そして、

 『魂の脚本 』_(スクリプト・オブ・ザ・ソウル)

俺は、あの日からずっと使えずにいた能力を使ったのだった――――。


*****

耳に着けたピアスが赤く発行すると、周囲に風が巻き起こる。これは、能力を使った際に少しだけ周囲の空気にも干渉する、能力の反響により起こる風だ。
瞬間、彼女の頭上には文字の塊が渦巻いているのが視える。

(____こんなに大きな文字の塊は見たことがない。)
彼女自身の体を覆いつくさんばかりの文字の塊はかつてないほど大きく、俺は驚く。
それでも、宙で指を動かし、絡まった文字の塊を紐解いていく。
一つ一つ、その断片的な単語を読み取っていく。
久しぶりの感覚だ。あれだけ能力を使えずにいたのに、今は自然と恐怖感が無くなっていて。
ただ「知りたい」という純粋な感情だけがここにあった。
(君は誰?どんな気持ち?何が嫌いで何が好き?)そんな初対面の子どものような好奇心が内からこみ上げてくる。

すると彼女の頭上で飽和していた文字の塊はスルスルとほどけて、その形を教えてくれた。
『一部、切る、感情、卵がゆ、楽しい、知りたい、生まれる』

____しばらくして、俺は口を開く。

「卵がゆは君の好物か何か?__君は好奇心の塊だな。知りたいって文字と楽しいって文字は結びついたままほどけなかった。そして君は、本当は能力を持ってる。それは感情を切り分けるような類のもので、そうだとしたら君はその一部として生まれたのかもしれない。」と俺なりの見解を述べていく。

「そう、そうなの!卵がゆは一番最初に食べた味で大好物!知りたいと楽しいは繋がって好奇心になるんだ!うん、ボクらしいね!能力は……何か君のみたいに名前がついてたはず…なんだけど」と楓は嬉しそうに反応し、また思案した。

「兄さんが引き合わせるとしたら俺の能力の欠点と対称的な能力じゃないかと思った」

____仮につけるなら、『人格の切り替え 』_(ペルソナ・シフト)

「うん!それクールでいいね!」と楓はしっくり来たようだ。

「その名前の通りだけど、楓の中には俺が視きれなかった色んな君が居るように思った。」
__これは、能力でほどき切れなかった文字の塊がまだ大きく、彼女の頭上に残っているのが視えたからだ。
___今目の前にいる子は楓の一部として、あと一体どれくらいの人がいるのだろう?

「ほんと!楽しみだなあ!」と楓は、クルリと楽しそうに回ってみせるのだった。青いチェック柄のスカートと、紫色の髪の毛がふわりと揺れる。

 現状彼女のことは、知ったようでまだ知り切れていない感じだ。
 俺は明日の放課後、またこの教室で会う約束を取り付け、教室を出たのだった。

_つづく

◀ 前の記事

▶ 次の記事

📚作品用マガジンはこちら

いいなと思ったら応援しよう!