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【食の歴史】インド式カリー 伝来秘話

「いらっしゃい! 注文、ありがとうね。

 ……おっ、気付いた? ウチのカレー、ちょっとスパイスの香りが本格的だろう? 実はね、日本のカレーには『イギリスから来たとろみ系』のほかに、もうひとつ大きな歴史のドラマがあるんだよ。

 ある食堂の夫婦がインドの独立運動家を匿ったお礼に教えてもらったっていう、映画みたいな本当の話なんだけど、興味あるかい?

 ……話は大正時代、1915年のことさ。

 当時、イギリスからの独立を目指して戦っていたインドの革命家で、ラシュ・ビハリ・ボースっていう人がいたんだ。 追手から逃れて日本に亡命してきたんだけど、当時の日本政府はイギリスからの強い圧力で『ボースを出国させろ』と命令を出した。見つかれば即、本国へ送還されて処刑……絶体絶命さ。

 そんな彼を命がけで救おうとしたのが、東京の新宿でパン屋や食堂を営んでいた『中村屋』の相馬愛蔵黒光(本名:良)ご夫妻だったんだよ。

 夫婦は自らの危険も顧みず、自分たちの店の裏にある工房にボースを密かに匿った。 追っ手の目を盗み、命がけで守り抜いたんだね。約4か月間の潜伏生活の末、ボースはなんとか逃げ切ることができたのさ。

 その後、ボースは相馬家の長女と恋に落ちて結婚してね。正式に家族になったんだ。

 そして昭和2年(1927年)、ボースは自分を命がけで守り、温かく迎え入れてくれた相馬夫妻、そして日本への恩返しとして、こう提案したんだよ。 『本当のインドのカレーを、日本のみなさんに味わってほしい』ってね。

 当時の日本のカレーは小麦粉でとろみをつけた黄色いカレーが当たり前だったんだけど、ボースが作ったのは全然違った。 骨付きの鶏肉を使って、小麦粉は一切使わない。何種類ものスパイスを調合して、ヨーグルトや果物でコクを出す……まさに本場の味さ。

 ボース自ら厨房に立って指導して作り上げたその『純印度式カリー』は、当時の普通のカレーの10倍近くの値がする超高級メニューだったんだけど、一口食べた人々はその美味さに腰を抜かしたそうだよ。

 命を救われたインドの革命家が、愛する家族と日本への感謝を込めて伝えたカレー……それが、今の日本の本格インドカレーのルーツなんだねぇ。

 ……はは、熱く語りすぎちゃったな。 さあ、ウチのカレーも出来上がりだ! スパイスの効いた熱々のうちに、存分に召し上がれ!」


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