LG・サムスンの住宅は本当に新しいのか|無印良品・セキスイハイム・トヨタホームと比較する
2026年、韓国の家電2強が、そろって「家」を売り始めた。
LG電子は「LG Smart Cottage」を、サムスン電子は木造モジュール住宅の専門会社・空間製作所と組んだ「Samsung AI Modular Home」を、それぞれ本格的に展開している。
前回の記事では、この二つの住宅を比較しながら、住宅が「現場でつくるもの」から「工場でつくるもの」へと変わりつつあることを書いた。
LG Smart CottageとSamsung AI Modular Home、それぞれの価格、技術、デザイン、住宅としての違いについては、前回の記事で詳しく比較しています。今回の記事とあわせて読むと、韓国のモジュール住宅が目指している方向が、より明確に見えてくると思います。
しかし日本人である私にとって、この光景はまったく新しいものというより、どこか見覚えのあるものでもあった。日本ではすでに半世紀以上前から、家電メーカー、自動車メーカー、化学メーカーが住宅をつくってきたからだ。さらに無印良品のように、生活用品を扱うブランドが住宅そのものを商品化した例もある。
そう考えると、LGとサムスンが始めたことは、本当に新しいのだろうか。今回は、日本のプレハブ住宅、工業化住宅、モジュール住宅と比較しながら、その違いを考えてみたい。
日本は、戦後から家を工場でつくってきた
日本の工業化住宅の歴史は、戦後の深刻な住宅不足と深く関係している。限られた人材と材料で、一定の品質を保ちながら、できるだけ多くの住宅を供給する。そのためには、現場で一棟ずつ手作業でつくるだけでなく、部材を工場で生産し、現場では短時間で組み立てる仕組みが必要だった。
その象徴的な存在が、大和ハウス工業が1959年に発売した「ミゼットハウス」である。
現在の一般的な戸建住宅とは異なり、子どもの勉強部屋などに使われる小さな建物だった。C型鋼の柱に工場生産したパネルをはめ込み、わずか3時間ほどで建てられることを特徴としていた。小さな一室から始まったこの試みは、後の日本のプレハブ住宅産業へとつながっていく。大和ハウス工業も、ミゼットハウスを「プレハブ住宅の原点」と位置づけている。
日本のプレハブ住宅は、デザイン上の流行から生まれたものではない。住宅不足、職人不足、施工品質のばらつきという社会的な問題に対して、工場生産という方法で答えようとしたものだった。
現在、「プレハブ」と聞くと、仮設建築や簡易的な建物を想像する人もいるかもしれない。しかし日本の大手住宅メーカーの多くは、プレハブ技術を耐震性、耐久性、断熱性、長期保証へと発展させてきた。工場で家をつくることは、すでに日本の住宅産業の中に深く組み込まれている。
家電メーカーは、60年以上前から住宅をつくっていた
LGとサムスンの動きを見て、まず思い浮かぶ日本企業はパナソニックである。
パナソニック ホームズの前身「ナショナル住宅建材株式会社」は1963年に設立された。同時に松下電工の敷地内に生産工場が設けられ、工業化住宅の生産が始まっている。パナソニック ホームズの歩みを見ると、現在のLGやサムスンより60年以上早く、電機・家電を背景とする企業が住宅へ進出していたことが分かる。
照明、配線器具、空調、キッチン、浴室、給湯設備。家の中で使われる製品をつくっていた企業が、やがてそれらを包む住宅そのものをつくり始める。その流れは自然だったともいえる。
この点だけを見れば、LGとサムスンが家電から住宅へ進んだこと自体は、日本から見てまったく新しい動きではない。ただし、両者には違いもある。
パナソニック ホームズは、長い時間をかけて一つの総合住宅メーカーへと成長してきた。工場で生産した大型パネルを現場で組み立て、耐震性や耐久性、施工品質を高めることが事業の中心にある。
一方、LGとサムスンは、住宅会社になることだけを目指しているのではない。家電、AI、エネルギー管理、アプリ、アフターサービスを住宅の内部に組み込み、家全体を一つのシステムとして販売しようとしている。同じ「家電メーカーがつくる家」であっても、目指している場所は少し違う。
自動車のように家をつくるトヨタホーム
企業の生産思想という点では、トヨタホームも重要な比較対象になる。
トヨタ自動車は1975年に社内へ住宅事業部を設置し、1977年から鉄骨ラーメン構造によるユニット住宅を販売している。トヨタホームの沿革を見ると、住宅事業にはすでに約50年の歴史がある。
トヨタホームの特徴は、自動車生産で培った考え方を住宅へ移したことにある。部品を標準化し、工場内で工程を管理し、人と機械の両方で検査する。そして完成度を高めたユニットを現場へ運び、クレーンで組み立てる。
現在、トヨタホームでは住まい全体の約85%を工場で生産している。公式サイトでも「工場で家をつくる」ことを品質の中心に据えている。
トヨタが住宅へ持ち込んだのは、自動車の形ではない。一つひとつの部品と生産工程を管理し、どの住宅でも安定した品質を実現するという、自動車産業の生産思想である。この点は、サムスンのモジュール住宅とも共通している。
ただし、サムスンが木造モジュール専門会社との協業によって住宅を商品化しているのに対し、トヨタホームは自社グループの生産技術を住宅へ移植することで事業を築いてきた。
また、トヨタホームは住宅とEV・PHVをつなぎ、車に蓄えた電力を住宅で利用する仕組みも進めてきた。自動車を単なる移動手段としてではなく、住宅と接続するエネルギー機器として扱う。これは、LGやサムスンが家電と住宅を一体化しようとしている動きにも通じている。
日本の本格的なモジュール住宅、セキスイハイム
純粋に「工場で家をつくる技術」を比較するなら、最も重要なのはセキスイハイムだろう。
セキスイハイムでは、鉄骨フレームで構成された箱型のユニットを工場内で生産する。外壁、窓、断熱材、配線、設備、内装などをできるだけ工場で組み込み、完成度を高めた状態で建築現場へ運ぶ。現場では複数のユニットをクレーンで据え付け、一つの住宅として組み立てる。
現場条件や天候によって異なるものの、ユニットの据え付けそのものは1日で完了する場合もある。セキスイハイムの工場生産は、日本における代表的なボリューム型モジュール住宅といえる。
「工場でつくった箱を運び、現場で積み上げる」という意味では、セキスイハイムはLGやサムスンよりはるか以前から、本格的なモジュール住宅を実用化してきた。
さらにセキスイハイムは、太陽光発電、蓄電池、HEMSを組み合わせたスマート住宅にも早くから取り組んでいる。電力の使用状況を把握し、天気予報や生活パターンに合わせて蓄電池や給湯設備を制御する。対応する機器は、スマートフォンやAIスピーカーから操作することもできる。
建物、エネルギー、設備を統合しているという意味では、LG Smart Cottageに近い部分も多い。それでも、両者の中心には違いがある。
セキスイハイムが強く打ち出しているのは、耐震性、耐久性、施工精度、長期使用である。それに対してLGやサムスンが前面に出しているのは、家電、AI、データ、エネルギー管理である。日本の工業化住宅が「品質の安定した建築」を目指してきたとすれば、韓国の新しいモジュール住宅は「住宅という形をしたスマートシステム」を目指しているように見える。
無印良品は「家」ではなく「暮らし」を売る
LG・サムスンとの比較を考えるとき、無印良品の家も外せない。ただし、通常の「無印良品の家」は、セキスイハイムのような箱型ユニット住宅ではない。
代表的な「木の家」では、長く使える構造体を「スケルトン」、暮らしに合わせて変えられる内部を「インフィル」として考えている。個室を最初から細かく固定するのではなく、大きな一室空間を基本として、家族構成や生活の変化に合わせて間仕切りや家具を加えていく。
子どもが成長して家を出た後、使われなくなった子ども部屋をどうするのか。働き方が変わったとき、住宅の一部を仕事場に変えられるのか。無印良品の家は、その時点で完成された間取りよりも、後から暮らしを編集できる余白を重視している。無印良品の家「木の家」には、その考え方がよく表れている。
無印良品が売っているのは、建物だけではない。家具、収納、キッチン用品、照明、衣服、食品まで含めた生活全体の世界観である。住宅は、それらを包む最も大きな無印良品の商品ともいえる。
この点で、LGやサムスンとの共通点が見えてくる。LGは家電とエネルギーから住宅全体へ進み、無印良品は家具と生活用品から住宅全体へ進んだ。どちらも住宅業界の外側から入り、個別の商品だけでなく、その商品が使われる生活空間全体を提案している。
ただし、LGが技術によって暮らしを統合しようとしているのに対し、無印良品は生活思想とデザインによって暮らしを統合している。一方は「より便利につながる家」であり、もう一方は「余計なものを減らし、自分で編集できる家」である。
LG Smart Cottageに最も近い、無印良品のインフラゼロハウス
無印良品には、LG Smart Cottageにさらに近い取り組みがある。それが「インフラゼロハウス」だ。
インフラゼロハウスは、生活空間となるリビング棟と、キッチンやシャワーなどを備えたユーティリティ棟で構成されている。それぞれ移動可能な小型木造ユニットで、土地の条件や使用目的に合わせて配置できる。
屋根や外壁には太陽光パネルが設置され、発電した電力を蓄電池にためる。水循環式の温水シャワー、水を使わないバイオトイレ、衛星通信によるWi-Fiなども備える。水道や電気が整っていない山林や海辺でも、一定期間生活できることを目指している。無印良品のインフラゼロハウスは、住宅というより、自立した生活ユニットに近い。
外観や規模、太陽光発電と蓄電池を備える点では、LG Smart Cottageとの共通点が多い。しかし両者を詳しく見ると、目指している方向は対照的である。

LGが目指しているのは、家電、エネルギー、スマートフォンがつながる家である。一方、無印良品が目指しているのは、既存の電気や水道につながらなくても暮らせる家である。LGは「つながることで自由になる家」をつくろうとし、無印良品は「つながなくても自由に暮らせる家」をつくろうとしている。似たような小さな住宅でありながら、未来に対する考え方は大きく異なっている。
木造住宅でも工業化は進んでいる
日本の工業化住宅は、鉄骨ユニットだけではない。
ミサワホームは、壁、床、屋根を木質パネルとして工場生産し、サッシや断熱材もあらかじめ組み込んで現場へ運んでいる。完全な箱型ユニットではないが、木造住宅を高精度な工業製品として扱う代表的な例である。
また、一条工務店は、構造躯体、断熱材、窓、住宅設備など、住宅の約80%を自社グループ工場で生産している。一条工務店の工場生産は、箱をつくるというより、住宅を構成する部品と性能を自社で統合する方式だ。
韓国のSamsung AI Modular Homeは、木造モジュール住宅の専門会社と協業している。しかし日本では、木造住宅についても部材の標準化、工場生産、設備の組み込み、現場工期の短縮が長年進められてきた。つまり、日本と韓国の違いは、住宅を工場でつくっているかどうかではない。工場でつくった住宅に、何を付加価値として与えるのか。その違いである。
日本と韓国は、異なる入口から住宅の工業化へ向かっている
日本の工業化住宅は、主として戦後の住宅不足と施工品質の改善から始まった。地震や台風の多い環境の中で、耐震性、耐久性、施工精度を高め、長期間安心して住める住宅を供給することが重要だった。そのため、日本の住宅メーカーが語る工場生産の利点は、品質、強度、短工期、長期保証に集中している。
一方、現在の韓国では、家電・電子企業がAI、IoT、エネルギー管理を入口として住宅へ進んでいる。
韓国で長く暮らしていると、「住宅」という言葉から多くの人が最初に思い浮かべるのは、戸建住宅よりもアパートであることを感じる。すでに規格化された集合住宅の中へ、冷蔵庫、エアコン、テレビ、ロボット掃除機、照明、セキュリティーシステムをどのようにつなぐか。韓国企業は長い間、その技術を蓄積してきた。そして今、そのスマートホーム技術を、アパートの一室ではなく、一棟の住宅としてパッケージ化しようとしている。
日本が構造と生産から住宅を工業化してきたとすれば、韓国は家電とデータから住宅を工業化しようとしている。どちらが進んでいて、どちらが遅れているという単純な話ではない。両国は異なる入口から、住宅を一つの統合された商品へ変えようとしている。
日本と韓国では、住宅のつくられ方だけでなく、住まいに求めるものや自然との関わり方にも違いがあります。日本の庭と韓国の屋上を通して、両国の暮らしの感覚について考えた記事です。
新しいのは「工場で家をつくること」ではない
ここまで比較してみると、LGとサムスンの住宅で、本当に新しいものが見えてくる。
工場で住宅をつくること自体は新しくない。箱型のユニットを現場へ運ぶことも、太陽光発電や蓄電池を住宅に設置することも、HEMSでエネルギーを管理することも、日本ではすでに実用化されている。
新しいのは、それらを家電、AI、データ、アプリ、アフターサービスまで含めて、一つのプラットフォームとして販売しようとしていることだ。
これまでの住宅は、完成して引き渡された時点が一つの到達点だった。しかしこれからの住宅は、引き渡された後もソフトウェアが更新され、新しい家電が接続され、エネルギーの使い方が調整される。家が完成品ではなく、継続的に更新されるシステムへ変わっていく可能性がある。
その一方で、気になることもある。
スマートフォンや家電は数年で買い替えられるが、住宅は数十年にわたって使われる。AIやアプリのサービスが終了したとき、その家はどうなるのか。メーカーを変更しても設備を使い続けられるのか。交換部品やソフトウェアは、住宅の寿命と同じ時間だけ供給されるのか。
そして、規格化されたモジュール住宅が、土地の形、方位、風景、気候、地域性にどこまで応えられるのかという、建築としての問題も残る。住宅は、家電を入れるための大きな箱ではない。その土地に置かれ、周囲の風景と関係を結び、家族の変化を受け止めながら長い時間を過ごすものである。
住宅は、どこまで「製品」になれるのか
LGとサムスンが始めたのは、単なるプレハブ住宅の販売ではない。家電、エネルギー、AI、データ、アフターサービスまで含め、住宅を一つのプラットフォームとして売る試みである。
日本は長い時間をかけて、家を品質の安定した工業製品へと変えてきた。韓国はこれから、家を更新可能なスマートデバイスへ変えようとしている。
ただ、住宅はスマートフォンのように数年で買い替えるものではない。そこには、暮らす人の人生が蓄積されていく。子どもが成長し、家族構成が変わり、周囲の街や風景も変化していく。
住宅が工業製品になり、さらにデジタルプラットフォームになったとしても、その時間まで工場で生産することはできない。家を工場でつくる時代の次に問われるのは、つくり方の新しさだけではない。その家が、どれだけ長く人の暮らしを受け止められるか。そして、技術が古くなった後にも、建築として残り続けられるか。
LGとサムスンの住宅を日本の事例と比較してみると、最後に残るのは、そんな問いなのだと思う。
建築は、その時代の技術や社会を映すと同時に、そこで生きた人間の時間を受け止めてきました。住宅が工業製品やデジタルプラットフォームへ変わろうとしている今、改めて建築と人間の時間について考えたい方は、こちらの記事もあわせてお読みください。
公式ページ・参考資料
本記事で紹介した住宅・工法の詳細については、以下の各社公式ページから確認できます。
韓国のモジュール住宅
LG Smart Cottage|LG電子公式
モデル構成、AI家電、HVAC、太陽光発電、プレファブ方式について紹介。Samsung AI Modular Home|サムスン電子ニュースルーム
空間製作所との協業、SmartThings、AI家電を組み込んだモジュール住宅について紹介。空間製作所|公式サイト
Samsung AI Modular Homeの木造モジュール住宅を製作する韓国企業。
日本の工業化・モジュール住宅
プレハブ住宅の原点「ミゼットハウス」|大和ハウス工業
日本におけるプレハブ住宅と建築工業化の歴史。パナソニック ホームズの歩み|公式サイト
家電・電気設備企業から工業化住宅へ進出した歴史。トヨタホームの工場生産|公式サイト
住宅の約85%を工場で生産する鉄骨ユニット住宅。セキスイハイムの工場生産|公式サイト
箱型ユニットを工場でつくり、現場で組み立てる代表的なモジュール住宅。
無印良品の住宅
無印良品の家|公式サイト
「木の家」「窓の家」「陽の家」など、暮らしの可変性を重視した住宅シリーズ。無印良品の家「木の家」|公式サイト
スケルトン・インフィルと一室空間の考え方を紹介。無印良品「インフラゼロハウス」|公式サイト
太陽光発電、蓄電池、水循環、バイオトイレを備えた移動可能な木造ユニット。
木造住宅の工業化
一条工務店の工場生産|公式サイト
構造、断熱材、窓、住宅設備など、住宅の約80%を自社グループ工場で生産。ミサワホームの木質パネル生産|公式サイト
木質パネル、サッシ、断熱材などを工場で生産する高度工業化住宅。
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