「消耗しない環境」は本当に楽なのか?──お客様とプロダクトに100%向き合うタノムの組織設計
こんにちは。タノムで代表を務めている川野秀哉です。
突然ですが、皆さんは日々、こんなことにエネルギーをすり減らしていないでしょうか。「社内政治や根回しに気を遣う」「声の大きい人の意見が優先される」「状況共有のためだけの会議が続く」──。
本来向き合うべきは、お客様やプロダクトの課題です。しかし、現実にはそれとは関係のない「ノイズ」によって消耗してしまう。お客様に向き合い価値を届けたい人ほど、こうした状況にもどかしさを感じると思います。
タノムが「リモート×フレックス」「徹底したテキスト文化」を中心に組織を運営しているのは、不必要なノイズを排除し、持てる力をお客様やプロダクトに発揮するためでもあります。今回は今の環境に至った背景、私たちが経験した数多くの試行錯誤の軌跡をご紹介します。

私たちが排除したかった「ノイズ」の正体
私たちは、お客様に向き合う時間や集中力を削ぐものを徹底的になくしたいと考えてきました。たとえば、長時間の通勤。状況共有のためだけに会議室へ集まること。関係者の予定を調整するために発生する手間。一つひとつは日常に埋もれがちですが、実務を始める前から確実に心身のメモリを消耗させてしまいます。
また、課題視していたのは、時間や体力の消耗だけではありません。相手の顔色をうかがうコミュニケーション。雰囲気で決まる意思決定。一部の個人間で完結してしまう情報のブラックボックス化。こうした「見えない心理的ストレス」も、組織の生産性を下げる大きなノイズだと考えていました。
これらは誰かの悪意によって生まれるものではありません。対面環境だからこそ起こりやすい、構造的な課題です。組織が大きくなる過程で、こうした消耗をできる限り減らす仕組みが必要だと感じるようになっていきました。
組織の仕組みを書き換えた「痛み」と原体験
創業初期のタノムは、今とは違い出社前提かつ口頭主体の組織でした。当時はオフィスで直接顔を合わせている安心感もあり、「言わなくても雰囲気で分かるでしょ」という空気感があったと思います。
実際に問題が起きていたわけではありません。ただ、組織が拡大していくにつれて、口頭中心のやり取りによって起こり得る「課題の種」が少しずつ見えてきました。
「言った・言わない」の食い違いが起きるリスク: 客観的なログがない口頭のやり取りは、認識のズレを生みやすくなります。後から検証もできないため、不毛なすれ違いにお互いのエネルギーをすり減らしてしまう懸念がありした。
プロセスを無視した「割り込み依頼」が発生する懸念: 目の前に人がいると、手続きを飛び越えて「これ、何とかならない?」と急な依頼が飛び込みやすくなります。その結果、対応するメンバーの集中力を不意に断ち切ってしまう点を危惧していました。
経緯の残らない「意思決定」が形骸化する恐れ:なぜその結論に至ったのか、プロセスが見えなくなるパターンです。将来的に状況が変わったとき、当時の背景を調べるための無駄なコストが現場に跳ね返ってしまうリスクを孕んでいました。
本質的ではない消耗はできれば避けたい──。そう考えていたタイミングで訪れたコロナ禍、そして全国からの採用拡大を機に、私たちはリモート・非同期をベースとした「テキスト文化」へと舵を切ることにしました。会議を最低限まで減らし、口頭含むすべての議論や進捗をテキストに蓄積する体制へのシフトです。とはいえ、移行は決して簡単ではありませんでした。
当初は文章で一から十まで説明することに大きな負担を感じていました。ただ、テキスト化を進める中で見えてきたことがあります。それは、自分の考えをテキストにしてみると、想像以上に伝えたいことが曖昧で、十分に情報を整理できていないという現実でした。対面の空気感や役職に甘え、相手の理解力に頼っていたのです。これまでの自分の甘さを突きつけられた瞬間でした。
この苦い経験を通じて、テキストコミュニケーションは単なる遠隔運用のツールではなく、「発言のブレや声の大きさによって現場を惑わせないための手段」なのだと確信しました。
私たち経営陣も、決して完璧な人間ではありません。状況によって考えが変わることもあれば、意図せず現場を混乱させてしまうリスクを常に抱えています。だからこそ、あえてログの残る世界に身を置き、発言が役職によって必要以上の重みを持たないようにする必要があります。
トップダウンや感情論を排し、「誰が言ったか」ではなく「何を言ったか」というロジックをメンバーと議論する。その姿勢を持つことこそが、消耗せずに本業へ集中するための一歩となりました。
▼経営・現場メンバーそれぞれの目線からテキスト文化について語った記事もご覧ください。
楽な環境ではない。私たちが求める「自走」のリアル
ノイズを排除した「リモート×テキスト文化」は、お客様やプロダクトに向き合いたい人にとっては、魅力的な環境だと思います。しかし、それは決して「楽ができる場所」という意味ではありません。
なぜなら、この環境は周囲の「察し」やその場の「空気感」に頼れない世界でもあるからです。自由度が高いからこそ、自分自身で仕事を進める力が求められます。
誰かの指示を待つことなく、自らをコントロールして成果を出す。私たちが求める「自走」の基本姿勢は具体的に次の3つです。
徹底した「言語化」:曖昧なニュアンスやその場の勢いは通じません。受け手に「察してもらうこと」を期待せず、発信者が丁寧に言葉にする必要があります。
情報への「自発的なアクセス」:意思決定の背景、経緯、マニュアルなどすべての情報はNotionに格納されています。加えて、個人間のちょっとしたハドルのやり取りもすべてテキスト化されているため、その量は膨大です。ただ待つのではなく、自ら必要な情報を探し出さなければいけません。
自主的な「SOSの開示」:画面の向こうで困っていても、周囲が自然に気づくことは困難です。自ら進んで状況を開示する能動性が求められます。
自ら情報収集したり、自身の状況を発信することが苦手な方にとっては、最初は戸惑う環境かもしれません。
ここで誤解してほしくないのは、私たちの言う「自走」とは、「自分で判断し行動すること」です。「一人で孤独に抱え込み、スタンドプレーで突き進むこと」ではありません。
実際、タノムではすべてのタスクを「チームのもの」と捉えています。それを一時的に個人へアサインしているだけであり、困り事があればチーム全体で解決すべき課題だと考えています。
だからこそ、自分で調べ、自分なりの考えを持つことは大切ですが、それでも分からなければ「助けてほしい」とオープンに発信することが求められます。意識的に周囲を頼り、巻き込んでいくこともまた、自走の一部です。
そしてタノムには、困っている仲間がいれば自然と手を差し伸べるカルチャーがあります。自らSOSを発信する姿勢と、それを放っておかない文化。その両方があるからこそ、リモートワーク環境で課題になりやすい「相談しづらさ」を感じにくい環境が実現されているのだと思います。
▼タノムの考える「自走」についてはこちらの記事で詳しく紹介しています。
温存した力はすべてお客様とチームの進化のために
私たちがここまでストイックに組織を設計する理由は一つ。お客様の課題解決に100%向き合うためです。物理的・精神的なノイズを排除しているからこそ、余計な雑務にメモリを割かず、プロダクトの改善に集中できます。
この設計により、タノムではセールス、CS、開発が完全にワンチームとなりました。それを象徴するのが、日常のいたるところから「お客様のための機能アイデア」が生まれるカルチャーが育まれています。
たとえば、営業の商談ログを見たCSが「それならこんな改善ができるかもしれない」と反応することがあります。開発側から「その課題の背景をもう少し教えてほしい」と質問が飛ぶことも珍しくありません。
時には意見の違いから衝突することもあります。しかし、それは不毛な消耗ではなく、本質的な価値を生むための健全な衝突です。私たちが心身のメモリを温存してきたのは、まさにこうした「本当にエネルギーをかけるべき対話」に集中するためでもあります。
そして、生まれたメモリの投資先は、プロダクト開発だけにとどまりません。「もっとこのプロセスを自動化しよう」「ドキュメントを整備して、次のメンバーがより速く動けるようにしよう」といった、社内の業務改善や生産性向上、つまり「チームの進化」の動力にもなっています。
無駄なエネルギーを奪われないからこそ、温存した力はお客様のために、そしてチームの進化のために使われる。だからこそ私たちは、本質的な価値を届けることに、いつでも全力投球できるのです。
仕組みがもたらした「公正さ」
お客様の課題に集中できる仕組みは、結果として、働く時間や場所に制限があるメンバーの前にある「見えない壁」をも取り除くことになりました。
たとえば家族の急な体調不良で誰かが一時的に抜けても、タノムでは「起きる前提」で組織が回ります。すべてのタスクの背景や仕様、進捗がテキストで詳細に記録されているため、メンバー同士がそのログをベースに自然とフォローし合えるからです。
私たちが目指すのは、全員を一律同じルールで縛る「平等」ではなく、それぞれの状況に応じて誰もが同じスタートラインに立てる「公正さ」です。
働く時間の長さや立ち回りのうまさに依存する属人的な世界ではありません。テキストというオープンな舞台で、純粋な成果とプロセスが評価される。だからこそ、育児や介護といったライフステージの変化が、キャリアの妥協につながることはありません。どんな制約があるメンバーも、何のバイアスなしにその実力を100%発揮して、フェアに強くなれる。チーム全員が安心して「コト」に向かい続けられる。これこそが、私たちが消耗をなくしたことによって得た最も大きな恩恵です。
最後に
私たちは、「優しい会社」や「楽な会社」を目指しているわけではありません。目指しているのは、お客様とプロダクトに本質的に向き合える会社です。
今、タノムにはその土台がだいぶでき上がっています。CTOの古跡をはじめ、現場のメンバー一人ひとりが日々泥臭くカルチャーを体現し、浸透させてきてくれたからこそです。
彼らが体現してきた「自ら考え、言葉にし、行動する」という姿勢は、決して楽なものではありません。しかし、本質的な課題に向き合い、プロダクトづくりに集中したい人にとっては、これ以上なく大きなやりがいを感じられるはずです。
お客様の課題解決に本気で向き合い、プロダクトの未来を共につくっていきたい。そんな仲間と出会えることを、私たちは心から楽しみにしています。
▼ 募集中のポジションについては、ぜひ採用ページをご覧ください。

