【論文紹介5】可変フリップ角法を用いたスライス選択二次元 SPGR パルスシーケンスによる熱平衡縦磁化マップの精度
この記事では、【論文紹介3】と【紹介論文4】で紹介したダイナミック造影 MRI の、解析に必要な技術に関して基礎的な検証をした、技術的論文を紹介します。
J Magn Reson Imaging. 2013;38:1245-1250.
doi: 10.1002/jmri.24023.
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どんな内容?
【論文紹介3】と【紹介論文4】で紹介したダイナミック造影 MRI (Dynamic Contrast-Enhanced MRI, DCE-MRI) では、MRI の連続スキャン中にガドリニウム (Gd) 造影剤の投与を行い、その後、解析のために、投与前後の画像強度の差から、各時相の MRI 画像を造影剤濃度マップに変換します。それにより、腫瘍組織中や MRI ピクセルごとの Gd 造影剤濃度の時間変化データを用いた薬物動態解析が可能となり、腫瘍組織中の毛細血管の透過性 (Ktrans) や容積比といったバイオマーカーを推定します。
その、Gd 造影剤投与後 MRI の造影剤濃度マップへの変換には、Gd 造影剤固有の緩和能と、造影剤投与前の水の T1 マップが必要です。DCE-MRI では、T1 強調画像のスキャン法の一つであるスポイルドグラジエントエコー (Spoiled gradient-recalled echo, SPGR) パルスシーケンスを用いて連続スキャンをしますが、造影剤投与前の水の T1 マップも、SPGR パルスシーケンスでスキャンします。その方法は、RF パルスのフリップ角 (FA) を変えた (例えば、FA = 2, 5, 10 度) 複数の画像をスキャンするために、可変フリップ角 (variable flip angle, VFA) 法と呼ばれます。SPGR パルスシーケンスの画像信号強度式に、スキャン条件 (繰り返し時間 (TR) と FA (式5では alpha)) と画像信号強度 (Si) を入力し、FA の異なる複数データポイントをフィッティングし、T1 を推定します (式5)。但し、先行研究において、この T1 値が低く見積もられることが指摘されており、その原因は FA の精度の低さと、RF 照射の空間的な不均一でした。
そのフィッティングでは、水の T1 に加えて、水スピンの熱平衡縦磁化 (equilibrium magnetization, Mo) も式から共に推定され、その値は、Gd 造影剤投与後 MRI の造影剤濃度マップの算出の際に使用されます。そのため、Mo 推定値の精度も、T1 推定値同様に議論されるべきですが、そのような報告がそれまでに無かったため、検討してみました。
四本の NMR 試験管中に、Gd-DTPA 濃度の異なるゲルファントム (疑似試料) を作製し、それぞれの水の T1 を、溶液高分解能 NMR 用反転回復 (inversion recovery, IR) パルスシーケンスにより個別に計測しました (論文中の「Native T1」)。MRI 法では、それらのファントムを並べて、同時にスキャンしました。VFA 法を用いた二次元単一スライス SPGR (SPGR-VFA) パルスシーケンスで、二種類のスライス選択 RF 照射パルス (Gaussian と sinc) と四種類の TR の計八種類のデータを取得し、それぞれの結果を式5に代入し、各ファントム中の水の T1 値と Mo 値を推定しました。比較として、MRI 用 IR パルスシーケンスによる T1 値と Mo 値の推定も行いました。また、完全緩和条件 (TR = 15 s) による二次元単一スライス SPGR パルスシーケンスで、Mo 値を直接的に得ました。
その結果、SPGR パルスシーケンスによる T1 値は、先行研究のとおり、短い TR と、スライスプロファイルの悪い Gaussian RF パルスを用いた MRI データにおいて、著しい過小評価が見られました (Figure 2)。一方で、Mo 値は、パルスシーケンスやスキャン条件に関わらず推定されたと、結論づけました (Figure 1)。

スキャン条件 (TR) により影響されない熱平衡縦磁化値 (Mo, 右)
T1 のグラフ (左と中) の六本の棒の束の一番右 (濃い赤) が NMR 用反転回復法で計測した T1 (Native T1)。MRI 用反転回復パルスシーケンスで計測した T1 (その左の赤棒) は、Native T1 に近い値として得られたが、SPGR-VFA 法で計測した T1 (黄色から濃い青) は過小評価が見られた (TR が短いと、より過小評価)。(公開されている国際学会の要旨より)
もう少し詳しく! T1 計測と、可変フリップ角法
T1 の計測は、反転回復 (IR) 法や飽和回復法のように、縦磁化の熱平衡状態を乱した後に、その磁化がどれくらいの速さで熱平衡状態に回復するかの時間 (時定数) を計測するのが基本です。回復途中の磁化を計測し、乱した時から計測開始までの時間を横軸、その時の磁化強度を縦軸にプロットし、パルスシーケンス固有の強度式でフィッティングし、T1 値を求めます。
この研究のために作製した各ファントムの水の T1 は、溶液高分解能 NMR のように MRI 磁石にファントムを一つづつ挿入し、パルスシーケンスも溶液 NMR 用の IR 法を使用しました。反転パルスから計測開始までの時間 (反転時間, inversion time, TI) を 7-8 点設定し、指数関数的な信号強度の回復データを式1でフィッティングし、T1 を求めました。なお、SPGR-VFA パルスシーケンスとの比較のために作成した MRI 用 IR パルスシーケンスは、TI のあとで、二次元 MRI を SPGR のワンショット (k-空間軌跡は centric-order) でスキャンしました。臨床 MRI に親しみのある方には「MPRAGE の二次元 MRI 版」という説明が判りやすいかもしれません。
両 IR シーケンスの繰り返しは、基礎研究的な側面から、完全緩和状態 (15 s) としましたが、臨床の MRI では、スキャン時間の長さから、受け入れられない条件です。一方で、SPGR-VFA パルスシーケンスは、TI のような長い待ち時間が不要であるため、三次元 MRI スキャンを基本とする臨床 DCE-MRI においても T1 マップを短時間でスキャンできる、大きな利点があります。そのパルスシーケンスの強度式は、スキャン対象体積中の核スピンが正しい FA で倒されることが前提であることと、FA を変えてスキャンした MRI の信号強度の変化から T1 を推定するために、FA の精度が低いと、T1 の推定値に影響を与えます。FA は、RF パルスの印加により生成される高周波磁場 (B1) が巨視的磁化ベクトルを倒す角度であり、その精度の悪さは「B1 不均一」と言い換えられますが、B1 不均一は、主に、送信 RF と被写体との関係や、スライス (スラブ) 選択が原因で起こります。送信 RF コイル内の B1 不均一に関しては、その先行研究でも報告されており、その後に普及した 3T MRI では、RF 周波数が上がったことにより、被写体中の B1 不均一が目立つようになりました。スライス選択により生じる B1 不均一に関しては、次の章で説明します。なお、臨床 DCE-MRI では、FA の精度を B1 マップの取得により調査し、SPGR-VFA パルスシーケンスによる T1 マップを補正します。
そもそも、T1 は「時間」を単位とする物理量なので、時間計測器で計測されるべきと、筆者は思っています。そのため、スキャン時間の制約が無ければ、IR 法を基本とするパルスシーケンスが望ましいと考え、共同研究として関わった小動物 DCE-MRI では、この論文で使用した MRI 用 IR パルスシーケンスで T1 マップを得ました。筆者は全く経験がありませんが、T1 マップのためのパルスシーケンスとして、心臓 MRI で使用されている MOLLI や、脳神経 MRI で使用されはじめている 3D-QALAS が、IR 法を基本とするパルスシーケンスであるということにうなづけます。
もう少し詳しく! スライスプロファイル
臨床の DCE-MRI は、三次元 MRI が基本ですが、この研究に関わる小動物 MRI は、高い時間分解能が必要であったため、二次元単一スライス SPGR パルスシーケンスでスキャンをしました。そのため、DCE-MRI の画像解析に必要な T1 マップと Mo マップのスキャンにも、二次元パルスシーケンスが選択されますが、先行研究でも指摘されているように、SPGR-VFA パルスシーケンスによる T1 マップでは、スライスプロファイルの悪さにより T1 値が過小評価される、大きな問題があります。スライスプロファイルとは、スライス方向の高周波磁場 (B1) の分布です。このような用語が存在する理由は、スライス方向の B1 が均一でないという事実があるからです。

Gaussian や sinc 波形で成形された RF パルスでは、RF フリップ角と RF 高周波磁場 (B1) が比例します。また、一定の傾斜磁場 (Gz) を発生中にそれらの成形パルスを印加してスライス選択を行った場合、周波数 (f) と長さ (z) は比例します。
MRI のスライス選択は、スライスをしたい面と垂直な方向に傾斜磁場を発生しながら、RF パルスを印加することにより行います (上の図の左)。その RF パルスは、この論文でも使用したような Gaussian や sinc 関数などで成形されたものが用いられ (shaped pulse と呼ばれます)、その印加時間は数ミリ秒です。その成形 RF パルスは、ある周波数帯域の NMR 信号を励起できます (上の図の右)。傾斜磁場 (上の図の Gz) が水信号をつぶして周波数分布を持たせ、その中の目的の周波数を中心とする帯域の水信号を励起することにより、目的のスライス位置と厚さを持つスライス面内の水信号を源とする二次元 MRI が得られます。
水信号が、スライス面内に限って、しかも目的の B1 により均一に励起されることが理想ですが、RF パルスの波形により、スライス方向に B1 の分布ができてしまいます。それが、スライスプロファイルです。そのスライスプロファイルは、厳密には、Bloch の方程式を解いて予測しますが、SPGR-VFA パルスシーケンスに用いる RF フリップ角は小さいため、その場合の成形 RF パルスによる励起周波数分布は、成形 RF パルスのフーリエ変換 (上の図の FT) によって予測できます。
RF パルスを Gaussian とした場合、励起周波数分布もスライスプロファイルも Gaussian となり、それを実測した結果が論文の Fig. 3a です。その効果は、二次元 MRI の見た目では判断できませんが、スライス厚の中心の信号が強調された画像であると言えます。
RF パルスを sinc 波形にした場合、スライスプロファイルは矩形関数と予測され、スライス面内においては均一な B1、スライス面外においては 0 となって欲しいところです。ですが、RF パルスは、照射時間の限られた波形としなければならず、sinc 関数の前後をカットした波形 (上の図の Truncated sinc) が使われます。そのようにカットした sinc 波形をフーリエ変換すると、矩形部分の両端に「とげ」のようなものと (根元にも注目)、その付近の細かい波の重なりがみられ、スライス面内における B1 の不均一と、スライス面外での無視できない信号の励起が起きます。それを実測した結果が論文の Fig. 3b です。
この論文では、スライスプロファイルを実測しました (MRI には 9.4 T を使用)。知りたい情報は、スライス方向の信号強度分布のため、その情報をエンコードするために、通常の MRI パルスシーケンスの周波数エンコード方向に印加する傾斜磁場をスライス方向に移し、位相エンコード傾斜磁場を印加しない一次元 MRI としてデータを取得しました。そのため、ファントムは、個別にテストしました。また、この論文では、そのパルスシーケンスで可変フリップ角によるデータを取ることで、Mo と T1 のスライスプロファイルを求めました。その結果は、T1 スライスプロファイルも、成形 RF パルスをフーリエ変換した形に似ており、特に短い TR や Gaussian パルスを使用した際には、結果としてスライス面内の T1 値が過小評価されることを証明しました。
水の T1
この論文の元となる実験で使用したゲルファントムの作製は、共同研究として関わった小動物 DCE-MRI を行っていた、星薬科大学の修士課程の学生にお願いしました。SPGR シーケンスでは、ゲルファントム中に気泡があると、磁化率の効果で暗く強調されて映るため、気泡除去にも注意をしてもらいました。そのゲルを、10 cm 程度の長さにカットした 5 mm 径 NMR 用試験管に入れ、Gd-DTPA 濃度の異なる計四種類、作製しました。
そのゲルファントムは、マウスの MRI 用ベッド (テフロン板をカットしたもの) の裏に並べて、MRI が安定して撮れているかの指標としていました。特に DCE-MRI は、抗がん剤投与前後の日を変えてスキャンした MRI を比較するために、スキャンの再現性が求められます。その研究の際には、詳細な再現性試験はしませんでしたが、マウスと共にスキャンされたファントム画像の目視により、スキャンの続行 (特に、抗がん剤投与後 DCE-MRI の実施の判断) を決定していました。
ウラ話的になりますが、ちょうどその頃、私が会社で担当していた研究用 MRI のユーザーで、所属事務所 (東京都港区) から近い施設が数件あり、しかも、装置を比較的自由に使わせていただいておりました。そこで、星薬科大学で作製したファントムと、その研究用に作成したパルスシーケンスを各施設に持参し、実験をさせてもらいました。この研究は、あえて主磁場の異なる MRI で実施しましたが、近年、T1 マップなどの定量的 MRI の有効性を示すために重要とされる、ファントムやパルスシーケンスも含めた同一条件での多施設研究を、2008 年頃に実施していたことになります。
そこでは、MRI より作成した T1 マップにより、各ゲルファントムの水の T1 を求めましたが、ファントムを一本づつ MRI にセットし、溶液高分解能 NMR の T1 計測と同じ手法で T1 を求め、論文の中ではその値を「Native T1」(本当の T1) として示しました。その Native T1 と、T1 マップによる T1 の大きな違いは、計測体積とパルスシーケンスですが、パルスシーケンスの中での大きな違いは、Native T1 のためのパルスシーケンスにはエコータイム (TE) が存在しないため、TE = 0 ms で計測できていることです。一方で、MRI は、TE = 3 ms でスキャンをしているため、その結果には、水の T2* 減衰の効果が含まれています。なお、この研究では、MRI データを、別撮りした T2* マップで補正し、T2* 減衰の効果を除去した MRI データから T1 (および Mo) マップを計算し、Native T1 と比較しました。
この研究により、同一ファントムの Native T1 を、異なる磁場強度 (4.7, 7, 9.4 T) で比較することができましたが、Gd-DTPA を含まないゲルファントムの水の T1 は、いずれも 2.7-2.8 s でした。筆者は、この仕事以外にも、水の T1 を計測したことがありますが、計測された水の T1 は、常に 3 s より短い値でした。一方で、ヒト脳脊髄の T1 マップにより得られる T1 は、4 s より長いという報告があり、その話を聞くと、いつも違和感を覚えていました。ただ、その T1 の違いは、磁場強度やパルスシーケンス・温度の違いよりも、溶存酸素濃度の違いにあるようです。古くは、ヒト脳脊髄液の pH・酸素分圧・二酸化炭素分圧に加えて水の T1 の、ヒトから採取した直後から4時間後までの変化を試験管的に計測し、酸素分圧の上昇にともない T1 が短縮したとの報告があります。この論文を読み、in vivo 脳脊髄液の 4 s より長い水の T1 を、受け入れることができました。最近では、7T MRI 検査中に被験者への吸入ガスの組成を変化させ、呼気終末酸素濃度を上げると、脳脊髄液の水の T1 が低下したとの報告があります (パルスシーケンスは、反転回復 EPI)。
なぜ、熱平衡縦磁化 (Mo) マップに着目したのか
この NOTE の記事では、SPGR-VFA パルスシーケンスによる T1 マップの過小評価や、スライスプロファイルの効果に関して説明してきましたが、論文のタイトルにもなっている熱平衡縦磁化マップ (equilibrium magnetization mapping) の説明はあまりしていません。確かに、SPGR-VFA 法を用いた DCE-MRI の解析には Mo マップも必要であり、共同研究として関わった小動物 DCE-MRI を解析するにあたり、Mo マップの定量性にも興味を持ちました。その Mo マップの定量性を、論文として公表しようと思ったきっかけは、「ウラ話」篇をお読みいただけたらと思います。
