結論から話す人は冷たいのか
会社員だった頃、メールや資料を書くときは、だいたい決まった型に沿って書いていました。
最初に目的や結論を一文で書き、続いてその背景や理由、根拠を書きます。そして、提案であれば、実行することで期待される効果を3つ挙げて、必要なアクションやどの部署からいつのタイミングでどのような協力がほしいかを具体的に書きます。
これは、勤めていた外資系企業で推奨されていたコミュニケーションの型です。長い間この会社にいたので、自然とこの型が身についていました。皆、結論から始めて、その後に根拠を説明する型で説明するので、自分が話を聞く側にいるときも、すんなり頭に入りやすく、理解するのに負担がかからないのです。
そして、このような共通の型があることは生産性向上にもつながります。ムダをそぎ落としてシンプルにすることがお互いの時間のロスを防ぎ、結果的に評価にもつながります。仮に、何かの事象や相談の細部から話し始める人がいれば、「その話の目的は何?」「何を求めているの?」などと問われます。
そういった環境に長くいたため、このような情緒的なノイズを排した伝え方は、誰にとってもわかりやすいはずだと信じていました。
経営陣から受けた指摘
ところが、前職のJTC(伝統的な日本企業)に移ってしばらくして、私は自分のコミュニケーションスタイルが好ましく思われていなかったことを知りました。
経営陣を含めた5、6人で飲んでいたときのことです。軽く酔っぱらいながら雑談をしているときに、経営陣の一人から「あなたのメールは冷たい、他でもそういう声が出ている」と言われました。また、他の経営メンバーからも「あなたは論理的思考力は高いが、人は正論では動かない」と指摘されました。
正式なフィードバックの場ではなかったのですが、今後もっと上のポジションに上がっていってほしいから、コミュニケーション力を改善してほしいという激励の文脈でした。メールでのやり取りで済ませずに、とにかく出張に出かけて現場の人たちに会い、一緒に飲んで来い、とのアドバイスをもらいました。ありがたいような、釈然としないような、微妙な感覚に陥りました。
何が冷たいのか、わからなかった
ポジティブなフィードバックであるとは受け止めたものの、私が鈍感なせいか、自分の伝え方のどこに問題があるのか、よくわかりませんでした。外資系では推奨されていたはずのコミュニケーションの型が、JTCでなぜこれほど批判されるのか理解できなかったのです。
具体的に私のどのメールのどの部分が冷たいと受け取られたのか、いま考えてみても思い当たりません。おそらく、読む人に負担を与えないように、なるべく少ない文字数で要件を端的に伝えようとして配慮していたつもりが逆に冷たいと受け止められたのだと思います。
彼らが言いたかったのはおそらく、メールで事足りると考えること自体が違う、電話か、直接会って人間関係をつくれ、ということだったのでしょう。ですが、電話では記録が残らないし、現場の人に会いに行こうとすれば、移動も含めて2〜3日潰れてしまいます。メール一通送れば伝わることに、これだけの時間をかけるのか…と腑に落ちない気持ちでした。
それでも、言われたとおり出張には行きました。現場の人たちと打ち合わせをして、工場を案内してもらい、そのあと一緒に飲みました。おかげで、現場が実際にどう動いているのかがわかったし、工場の人たちが、コスト削減という命題に対して真摯に取り組んでいるのも伝わってきました。それを知ってからは、提案を考えるときの視座も上がったと思います。人間関係を作るべきだという指摘には、確かに一理あります。一度関係を作れば、その後も長期的に効いてくるからです。
演繹型と帰納型は話す順序が違う
考え方や伝え方の型に、演繹型と帰納型という分け方があります。
ざっくりと言えば、概念や結論から入るのが演繹型、体験や事例を挙げてから結論を導くのが帰納型です。ここで言う演繹型と帰納型は、厳密な定義ではなく、ふんわりと伝え方の傾向くらいの意味で捉えてもらえればと思います。
皆さんはどちらでしょうか。
私は職場でいくつかのパーソナリティ診断を受けたことがありますが、いつも演繹的・体系的に物事を捉える傾向があるという結果が出ていました。
帰納型の人は、分かりやすい話で相手を引きつけて、相手の表情を見ながら調整して話す人が多い気がします。
私のような演繹型は、結論はこうだとか私はこう思うと言い切ってからディテールの説明をするので、相手に自信過剰な印象を与えたり、冷たく感じられたりするのかもしれません。私は感情を表すことも苦手なので、余計に冷たく見えていたのでしょう。
演繹型・帰納型は、個人の特性による部分も多少はあるのかもしれませんが、どのようなコミュニケーションスタイルが社内風土として推奨されているかによって訓練されるのではないかと思います。私は結論ファーストがビジネス上好ましい型とされているものと考えていたのですが、それは環境によるということがわかりました。
型の違いは、意思決定の進め方にも反映される
外資系とJTCには、伝え方にはとどまらず、もっと根本的な違いがありました。ここでいう外資系とJTCは、あくまでも私が経験した各1社の比較です。
外資系では、提案をする際、このようなステップで行っていました。
まず、目的を定義する。
→ それを遂行するための戦略を立てる
→ その戦略を実行するために、どの部署にどんな役割を担ってもらうかを設計する
→ ここまでを経営陣に示して承認を得る
→ 承認された計画に沿って、各部署に協力を依頼する
すべてにおいて目的ファーストであり、それが提案のキモでした。
ところがJTCでは、経営陣に持っていく前に、我々に話すのが筋だと考える人が多いのです。経営陣に先に持っていくと、動くのは自分たちなのに、知らないところで勝手に話を進められたと憤る他部門の責任者たちがいました。でも、もし彼らが望むようにすれば、先に他部門の都合を聞く形で調整することになり、立案していた戦略に歪みが生じてしまいます。
また、外資系には、役割分担の明確な線引きがありました。誰が決めて、誰が実行し、誰に相談し、誰に報告するのかが、あらかじめ役割として定義されているのです。RACIと呼ばれるような考え方です。
JTCには、一応業務分掌はあるものの、どの部署がやるべき仕事なのかわからないことがよくありました。明確な役割の定義がないため、部署や役職の権限を越えて、経営陣と合意済みの計画に口を出す人もいました。権限や役割が定義されていない中では、合意を個別に取りに行く必要が生じるので、とても時間と労力がかかります。
会議の進め方にも大きな違いがあります。
JTCでは、議題を決めず、とりあえず会って話しましょうと、会議が招集されます。終了時間も決めずに、3〜4時間雑談が続く会議もよくありました。夕方に始まった会議が、勤務時間を過ぎても終わりません。やっと会議が終わっても、結局何が決まったのか不明でしたが、話すことに意義があるとされているようでした。相手とともに時間を過ごし、よい関係がつくれたこと自体が成果だと考えられていたのだろうと思います。
JTCはボトムアップを大事にする文化です。関係者に個別に根回しをする必要が生じるので、決定に時間がかかり、実行に移されるまでに半年かかることもザラにありました。JTCでは、外資系のようなトップダウンのやり方は受け入れられず、自分たちが意思決定プロセスに参加しているという納得感が重要なのです。
なぜ直さなかったのか
それでも、私は自分の伝え方の型は変えませんでした。ビジネス上のコミュニケーションは、やはり結論ファーストで、ムダを省く方が有効だと信じていたからです。その考えはいまでも変わりません。
でも、退職後の人間関係構築のためのコミュニケーションとなれば、話は変わってきます。
結論ファーストのコミュニケーションスタイルが有効なのはビジネス上の話で、人と親しくなるという場面では、JTC流のほうが理にかなっているように思います。
FIRE生活を充実させるためには、価値観の合う友だちをつくり、よい関係を維持していく必要があります。そのためには、温もりのあるコミュニケーションができなければなりません。こうして書いているnoteの文章も、読んでくださっている方に冷たい印象を与えていないだろうかと気になります。
noteを書くときに気をつけていること
このような経験から、私はnoteを書くときに、書きたい素材をどのような順序で並べるのがいいのだろうと、よく考えています。
記事を開いてくださった方に読み進めてもらうには、結論ファーストではなく、具体的な体験を先に書くのがいいのだろうなと思います。温度感のない抽象的な文章よりも、書き手の人がらが伝わるような共感を呼ぶストーリーが好まれます。
私は自分の体験を枠組みに当てはめて理解しようとするクセがあり、つい構造の話をしてしまいそうになりますが、そういう話はつまらないと感じる人もいるかもしれません。
なので、書くときは、概念の話をするよりも先に、こういうことがあった、という具体的な体験からなるべく書くようにしています。
これは、会社員の頃にメールが冷たいと言われたことの反省でもあります。自分の思考のクセをそのまま外に出すのではなく、相手に伝わりやすい形に翻訳してアウトプットする必要があると、JTCでの経験が教えてくれました。
おわりに
このように、組織で求められるコミュニケーションスタイルは、それぞれの文化により全く違うことを実感しましたが、JTCの文化は、私の性質にあまりフィットしませんでした。
退職して自由になったいまは、なじめない文化に合わせる必要がなくなり、ホッとしています。
とはいえ、自分のコミュニケーションスタイルを冷たいと感じる人がいることを知れたのはよかったと思います。
結論を言い切ることで相手に自信過剰な印象を与えていないか、人が話しているときに結論を急かしていないか、相手の課題に求められていないアドバイスを押しつけていないか。これからはもう少し、自分の思考の地図が相手のそれとは違うことを意識して、丁寧に言葉にしていきたいと思います。
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