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公園のパフィン 10 「おじさんは踊り わたしはひらめく」

これまでのおはなし
1 高原・きゃべつ ともうします
2 カンリキョクはいじわるです
3 さわがしいりすと 美人のハクビシン
4 麦のおかゆはよく効きます
5 ぺコリーナ・ポコリーノ
6 にぎやかな水生園
7 ふかふかの動物園
8 知恵と勇気と滑走路
9 ダム事件

ある日、わたしが駅で出会った小さなうさぎ。
たったひとり、住み家をさがして旅をしていました。
パフィンという名前をもらい、公園での暮らしが始まります。
本当の仲間になるために、西の森と水生園、動物園をめぐりますが
パフィンのせいで小川の水が涸れる、という事件が起きてしまいました。

名前のはじまり、水のはじまり

 池のまわりをぐるりと歩き、西の小川をのぞいてみました。
 なるほど、石が置かれて流れが悪くなっているところがあります。
 東の森のだれかがしたことなら、とても残念です。

 きびすを返し、東の森にむかいます。
 小川をたどると、こちらの方がやはり水流は豊かながら、石や枯れ枝、落ち葉などのごみがずいぶん投げこまれているではありませんか。
 かなしい気持ちになりながら歩いていくと、川の曲がり角にたまったごみを片づけている小さな姿が目に入りました。
 パフィンでした。石をどかし、岸に引っかかった小枝をせっせと取りのけています。
 呼びかけると、気づいて手をふってくれます。
 しずくが日差しにきらきら飛び散りました。
 パフィンはすこし元気になったようです。
「今、ぼくにできること考えたら、すこしでも小川がさらさら流れるようにすることかな、って。正解かどうか、わからないですけど」
 びしょびしょの手足を赤いハンカチでふきながら、そう言いました。
 いいことだね、と賛成して、わたしは持っていた資料の本をパフィンに見せます。
 小川と池のはじまりを調べたことを伝えました。
 話を聞くうちに、パフィンの目に少しずつ光がもどってきます。
「むかしみたいに池の水がいっぱいになれば、西の小川もゆたかになりますね? そうしたら、ケンカもなくなりますね?」
 ハンカチをしぼって、ぱんと広げました。
 半分にたたんで首にきゅっと巻きます。
「ハナビさん、小川の行く手も見に行きましょう!
 公園から流れ出た川はどうなっているんでしょうか?
 水は、たりているんでしょうか? ぼく気になるんです」
 

 公園のはしから流れでた東の森の小川は、町の河川にすがたを変えます。
 つまり、コンクリートの壁にはさまれた、アスファルトの道よりずっと低いところを通る、あまりきれいではない流れになってしまうのです。
 がんじょうな鉄の手すりが両岸を守っています。

 わたしたちは八百屋の店先にいました。
 お店のおじさんが出してくれた木箱にすわって、つめたいスイカを食べているところです。
 軒下は日かげになり、川の上を吹いてくる風が抜けて、いい気持ちです。
 
 パフィンとわたしは川ぞいの道路を歩いてきました。
 森の木陰とちがって、日光が頭をじりじり焦がします。
 帽子をかぶってくればよかったなあ、とわたしは思いました。あるいは丼でも。
 パフィンは気がはやるようで、川の先へ先へと前のめりで歩いていきます。でも、黒い頭と背中はさぞ熱いでしょう。
 心配になったわたしはひと休みすることを提案し、なじみの八百屋に来たのでした。

「おっ。来たねえ来たねえ。うさぎちゃんが一緒だねえ」
 はちまきを巻いた八百屋のおじさんは、大きなおなかをゆすってフラダンスのように踊りました。
「今日も明日葉、買ってくかい。それともメロン、食べてくかい」
 ぱぱんと手をたたいて音頭のように踊ります。
 いつだって陽気なおじさんなのです。

 つめたく冷やした果物を食べながら、わたしたちは川を眺めました。
 正しくは、緑色に塗られた手すりを眺めました。
「囲田川(かこんだがわ)ウォーキングコース・水源から五百メートル」
 という札がぶらさがっています。
 丼の頭池と公園への地図も下げてありました。

「まだ五百メートルしか来ていないんだね」わたしはつぶやきました。
「囲田川って、いったいどれだけ長いんだろう?」
「はいはい、はいはい」
 八百屋のおじさんがフラメンコのように手をたたきながら言いました。「なんと全長二十五キロメートル、たいしたもんだ。澄田川(すんだがわ)に合流して、海まで流れていくよ!」
 へええ、とわたしはおどろきました。
 おじさんって、川のことにとてもくわしいのです!
 さっそくうさぎ語に訳してパフィンに伝えました。
 パフィンは、川の長さにおどろいたようでした。

「そんなに遠くまで流れてるんですか?」
 こまった様子で目を見開きます。
「それじゃあ、今日じゅうに川をぜんぶ見られませんね」
「ぜんぶ見なくても大丈夫じゃないかな」わたしは注意ぶかく言います。
 パフィンは、もしや海まで歩くつもりなのでしょうか?
 「おじさんは川にくわしいから、お話を聞いてみようよ」

 八百屋のおじさんはルンバのようにステップをふみながら、いろいろと教えてくれました。
 おじさんのお父さんが子どもだったころ、川はもっときれいで水もゆたかで、泳ぐこともできました。
 夏にはホタルが飛び、榎の並木からタマムシもやってきたということです。
 東の森と西の森からの流れが青々とした水田をぐるっと取り囲み、それはきれいな景色だったとか。
 ふたつの支流が合わさる場所は滝のようにごうごうと流れ、澄んだ水は飲むこともできたそうです。
 しかし、おじさんが小学生になったころには、田んぼはなくなって家やビルが建ち並ぶようになりました。
 川の水は急に少なくなり、汚れて、まわりもコンクリートで固められてしまったそうです。
「田んぼの中にも水の湧きだすところがあってねえ。真夏でもつめたい水がくめる井戸があったけれども、それも涸れてしまったねえ」
 おじさんは悲しみのワルツを踊ります。

 わたしは思わず言いました。
「えっ、それじゃあ、むかしは本当に囲田川っていう名前のまんまだったんですね!」
 ふしぎそうに聞いているパフィンに、わたしはうさぎ語で説明しました。「つまりね、この字のとおりなんだ」
 お店の前の道を横切り、手すりに下げられた案内札のところにパフィンを連れていきました。囲田川という字を指さします。
「ほらね、まん中に井戸があって、まわりをぐるっと川が囲んでいる。田はお米をつくる土地で、四角く区切られているんだよ。そしてこれは、川が流れているようす。そのまま字になっているんだ」
「すごい!」
 パフィンは目をまるくしました。
「人間の字は、ぜんぶ形からできてるんですか?」
「ちがうものもあるけれど……字を見れば、どんなものかわかることが多いよ」わたしはちょっと考えました。
「たとえば、パフィンが電車に乗ってきた渋谷。そこはむかし、山の間の谷だったんだよ。鉄分の多い、渋い色の川が流れていたんだって」

 パフィンの動きがぱたりと止まりました。
 ゆっくりとふり返り、わたしを見上げるその目の中に、なにか不思議な色がありました。
「場所の名前で、むかし、どんなところだったかわかるんですか?」
 静かだけれどくっきりとした声でした。
 どうしたのでしょう。
「う、うん。そういうの、地名の由来っていうんだよ」
「川にかこまれた、田と井戸……」
 パフィンは案内板の「囲田川」という文字を指します。
「四角の中にあるのが、井戸のマークですよね」
 そうだよ、とわたしは言いました。
 パフィンは腕をのばし、となりにある地図を示しました。
「じゃあ、この字は?」
 パフィンは「」という字を指していました。
 

 いちばん反対したのは、意外なことにテロッテでした。
 きっとパフィンの考えに味方をしてくれる、とわたしは思っていたのです。
「うさぎっ子がとんでもないこと言い出したよ! テロッテテロッテ!」
 つづけざまに十回も宙返りしたので、見ているわたしの目が回りました。
「無理だよ無理!」
 とんぼ返り。
「そりゃ無茶だ! 井戸をぶちぬいて水を出すって? うまくいきゃ大変! うまくいかなくても大変!」
 枝の上で跳びはねるので、葉っぱがざんざんわたしに落ちてきます。

 楢の木の下にかがんで、パフィンはけんめいに説明していました。
 小枝で地面によこ棒を二本書き、重ねてたて棒を二本書きます。
「これが井戸のマークですよね。でも、まん中に点があるのがふしぎなんです」
 テロッテの落とした葉っぱを一枚、井の字の中心に置きました。
「丼の頭、ってどういう意味なんだろうって考えたんです。頭は始まりや、はしっこを表すから、井戸から水の流れが始まっているのならわかるんですけれど……」
 葉っぱを置いたり除けたりします。

「井戸に何かが詰まっているっていうこと?」
 木の根に座ったハクビシンが、あまり気のないようすで言います。
「そうだとしても、どうするつもり?」
 遠巻きに聞いているジネズミたちが草陰でひそひそ話しています。
 小川からはカモやカエルたちのつぶやきも聞こえます。

「もしかして、ベーブさんに工事してもらえないかって……」
 言いかけたパフィンの声をさえぎって、テロッテのキーキー声が降ってきました。
「はんたい、はんたーい!」
 どさん、と本体もわたしの頭の上に降ってきました。
「西の森のためにダムつくるようなビーバーなんて、信用できないッテ! 西の森のために水をふやしてやるのもはんたーい!」
 ひとの頭上に立ち上がって演説しています。

 わめいているテロッテをすこしだけ見つめたパフィンは、小枝を地面にさくっと突きさしました。立ち上がります。
「じゃあ、ぼくが井戸に入ります」
 わたしを見上げます。
「どこかで長いロープとスコップを借りられるでしょうか?」

 これにはテロッテやハクビシンたちもぎょっとしたようです。
 わたしもあわてて止めました。
「ちょっと待った! そんなにあせらないで、もっとよく調べよう。ほら、この本」
 わたしは、ずっと抱えていた書類の束を開きました。
「井戸の中を調査した記録もあるはずだよ」

 木陰に本を開いて、わたしたちは紙面をのぞきこみました。
「二十年前に、何回か井戸の中を調べているようだよ」
 わたしは記事のひとつを指さしました。
「地下水位が……ええと……ううん……」
 難しいことばをどうやってうさぎ語に訳したらいいのか、苦心しながら読みます。
「ええとね、井戸につながっていた水が涸れてしまって、その下の水を出そうとしたけれど、とても深いかたい地面があって、そこを掘るのは大変そうだって、工事をやめたみたいだよ」
 岩盤掘削工事中止、という文字を指します。
「代わりに川から水をひくことにしたけれど、それも年々、水が減ってきているって」

 パフィンはまっすぐこちらを見つめていました。
銀のひげがぴんと張り、先が方位磁針のようにかすかに震えています。
「ハナビさん」
 しっかりとした声でした。
「池のはじまり、井戸に星が飛びこんだっていう昔ばなしでしたよね?」
わたしの足もとに駆け寄ります。
「そのお話、ほんとうだと思いませんか? 昔、なにかが落ちてきて、地面に穴をあけたら水が湧いたのかも……」

「それ、聞いたことあるッテ」テロッテが言います。
「おいらのじいちゃん、言い伝えを教えてくれたよ。昔むかし星のかけらがふって……」
 わたしの頭をジャンプ台にして、勢いよく飛びおりました。
「どーん! こんなふうに」ばばばっと地面を引っかきます。
「かれた井戸をつき抜けたら水が、どばーっと」両手を広げて跳びあがりました。

「えっ、昔も……井戸が涸れていたんですか?」
 パフィンが身を乗り出しました。
 その真剣さにテロッテはたじろぎ、うなずきます。
「同じようなことが起これば、また井戸から水が出るかもしれない」
 見えない何かを持ち上げるように、パフィンは両手を天に差しのべました。
「重い、がんじょうなものを、高いところからこうやって」
 ぱっと手を放すしぐさをします。「落とせば……」

「どーん!」と叫んでテロッテが跳ねました。
 おどろいたネズミたちが跳びあがり、梢からはばさばさと小鳥たちが飛び立ちました。
「どばーっと水! ちぇっ、なんてこった。西の森に水をやるのは悔しいけど、昔ばなしの通りになったらすごい! テロッテテロッテ!」

「でも、重くてがんじょうなものって何なの?」
 ハクビシンも立ち上がり、話の輪に鼻先をつっ込んできます。
 遠くで見守っていた鳥たちも近くの枝に並び、川辺にもカエルやカモが集まってきました。
 どうやら、みんなパフィンの話に興味を持ち始めたようです。
 おたがいに言葉を翻訳し合って、さまざまな声のざわめきが広がります。

 ひゅっと青い光がきらめき、ハクビシンの背にとまってチチチと鳴きました。あのカワセミです。
 その声に導かれるように、アジサイのしげみからサールバドールがしゅるりと姿をあらわしました。

 テロッテがさっと地面にふせ、へびの言葉を聞き取ろうとします。
 なんて言ってるんだい、とわたしはささやきました。
 しばらく、地べたにぺったんこになっていたテロッテは、ふっと息を吸いこんで跳び起き、たちまちわたしの肩に駆け上がりました。

「カワセミからニュースを聞いて来たんだってさ!」宙返り。
「パフィンの考えは悪くないッテ言ってる!」とんぼ返り。
「むかし降った星のかけらは、きっと小さなインセキだろッテ! 」側転。
「でも、インセキ? インセキってなんだ?」逆立ちして首をかしげます。

「インセキ、インセキ……」わたしは考えます。
とつぜん、頭の中で星のかけらがまぶしく輝きました。
わたしはついに、今度こそ、はっきりと、たしかに、まちがいなく、ひらめいたのです。
 

作戦会議

 問題は、どうやってセンゾウさんから隕石をゆずってもらうかということでした。センゾウさんが見つけて運んできた石なのです。
「そいつぁきっと、ほんものの星のかけらだ!」
 わたしの話を聞いたテロッテが興奮して回ります。
「池のほとりに埋まってたんだから!」
 パフィンも、ハクビシンやサールバドールたちも、一心に考えこんでいるようすでした。
公園には本当に隕石があると聞いて、パフィンのアイデアがますます現実味を増したのです。

「管理局のおっさんから取っちまおう!」
 テロッテが叫んでぱーんと跳ねます。
 いつの間にか集まっていたりすの兄弟たちも、歓声を上げて枝を駆けまわっています。
「なっ! おれたちでごろごろ転がしていきゃいいんだ!」「そうだ!」「できるぜ!」「かん!」「たん!」

「ちょっと待ってよ」
 しっぽをふり立てて走り回るテロッテを、わたしは止めました。
「勝手に持っていったらだめだよ。それに、ものすごく重くて動かせないんだ」
「わけを話しても、力を貸してくれそうにないわね」
 ハクビシンが首をふります。「あの人、石みたいにガンコなんだから」

 カワセミがチチッと鳴きました。
 サールバドールがゆらりと首をもたげ、しゅるりと舌を出します。何か話すようです。
 梢を跳ねまわっているテロッテに通訳を頼もうとしたわたしの膝に、パフィンがそっとふれました。
「だいじょうぶ。ぼく、わかります」
 ぺたんと腹ばいになります。
「へびの言葉、練習したんです。お話もできるんですよ」
 地面にお腹をつけて、ふわふわと背をゆすります。

 アジサイのしげみでひそやかに身をくねらせるサールバドールと、楢の木陰に寝そべるパフィンとが、呼応し合ってゆらりと動きます。
 へびとうさぎが話しあっているのです。わたしは目をぱちくりさせて、その光景を見守りました。

 やがて、サールバドールがすうっと首を上げて息を吐きました。
 パフィンがぴょこんと立ち上がります。
 白いお腹が土でよごれていますが、目は朝露みたいにきらりと光っていました。

 サールバドールとパフィンは、良い計画を思いついたようです!

 
 つぎの新月を待って、作戦を実行することになりました。
 パフィンとサールバドールが思いついて、東の森のみんなで考えて、わたしがこねて、テロッテたちがかき回して、できあがった作戦です。
 新月の日は動物園と水生園の休日です。
 池のまわりのライトアップもお休みになるので、訪れる人がぐっと少なくなるのです。

 わたしの任務は、前日にさりげなくセンゾウさんに話しかけることです。
 でも、お昼どきに学校の仕事を抜け出して、暑い中を走って管理局を訪ねたので、全然さりげなくなくなりました。

「なんだ、ハナビ。暑苦しいやつだなあ」
 お昼ごはんを食べていたセンゾウさんは、大汗をぬぐうわたしを見て言いました。
 いつもなら二口で食べてしまうおにぎりを少しずつかじっていて、どうも食欲がないようです。
「センゾウさん、どうしたんですか。なんだか顔色がよくないですよ」
 入口に立ったまま、わたしは練習してきたせりふを言いました。
「そんなことを言うために走ってきたのか。変なやつだ」
 あきれたように、じろりとにらみます。
「えっ、いえ。じつは、その、ええと、センゾウさんがこまっている夢を見たので、心配で来たんです」
 わたしはとっさに言います。いかにも不自然で、汗がまた吹き出しました。
 しかし、センゾウさんは一瞬ぎくっと肩をこわばらせました。
 食べかけのおにぎりを机の上に置き、ふうっとため息をつきます。
「夢か……。わしもな、おかしな夢を見たんだ」
 
 前の晩、センゾウさんはいつものように西の森の小屋で眠っていました。
 ふと目が覚めると、キーンと鋭い音が外からひびいています。
 何者かが公園に侵入したのかもしれない、と思ったセンゾウさんは起き上がり、懐中電灯を持って見まわりに行きました。

 ざわざわとネズミモチの木が風に揺れる中、ひときわ高い奇妙な音は裏庭の向こうから聞こえていました。
 それはまるでUFOから発信されているかのような、金属的で不思議な音だったそうです。
 木立を抜けて、暗がりの空き地にライトを向けました。
 なにかが地面でうごめいているようです。

「わしは勇敢にそれに向かって行ったんだ」とセンゾウさんは言います。

 照らし出されたあやしい影。それを見た瞬間あっと叫びました。
 あの隕石が、まるで苦しむかのように左右に身をゆすっているのです。
 キィン、キィンという音はそこからひびいています。
 センゾウさんは驚いて、思わず懐中電灯を取り落としてしまいました。
 すると……暗やみで信じられないことが起こりました。
 隕石からばさっと翼が生えたのです。

センゾウさんいわく「もちろん、はっきり見えない。でも、そう感じたんだ」。

 そして、ばさり、ばさり、と風をまき起こして、隕石は舞い上がり、空高く浮かび上がって、墨色の夜空に消えてしまった……というのです。

「気がついたらわしは寝床にいて、窓から朝日が差していた。あわてて外を見に行ったが、隕石はいつも通り、そこにあった。だから夢だとは思うんだ」
 センゾウさんはおにぎりを持ち上げて見つめました。
「だがな、懐中電灯がどこにもないんだ」
 首をふって、おにぎりをまた下ろします。
「どういうことだかわからん」

 元気のないセンゾウさんには申し訳ありませんが、わたしにはどういうことだかわかっていました。
 でも、せいいっぱい驚いたふりをして言います。
「センゾウさん、それはきっと、隕石が宇宙に帰りたがっているということですよ」
 正直なことを言えないのは気がとがめます。
 でも、サールバドールはセンゾウさんもきっと喜ぶ結果になると約束してくれました。
「じつは、同じような夢を見たんです。隕石が空に帰っていって、センゾウさんは懐中電灯をなくして困っている夢でした」
 うたがいの目を向けられて、あわててつけ足します。
「でも、懐中電灯はネズミモチの枝の上で見つかるんです。そういう夢でした」
 どん、と両手を机についてセンゾウさんが立ち上がったので、おにぎりがぺったんこにつぶれました。
「どうもあやしいな、ハナビ」
 しかめた眉の下からじろりとにらみます。
「わしをからかっているなら許さんぞ。懐中電灯が本当にあるかどうか、見てみようじゃないか」

つづく

これからのおはなし
11 バールとビー玉
12 がんばれがんばれ、つるかめつるかめ
13 そして、水は


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