JAL「どこかにマイル」で行く【札幌ひとりだけど一人じゃない旅】/❸Y斗に会いに来たんだぜ
確率25%の「札幌」を気合いで引き当てた、【札幌ひとりだけど一人じゃない旅】シリーズの第3話。
S村を驚かせる朝のカフェ待ち伏せ作戦は失敗に終わったものの、今夜の「全員集合!」の飲み会ではS村にも会えるのだ。気を取り直して次の待ち合わせに向かう。
ホテルの車寄せにのっそりと滑り込んできた白のクラウン。江東ナンバーは間違いなくY斗だ。おはようの挨拶もそこそこに車に乗り込み、札幌の北の端、北区篠路に向かう。篠路には両親の眠る寺がある。地下鉄駅から寺に向かう1時間に1本のバスは、やがて2時間に1本に間引きされ、ついには路線そのものが廃止されてしまった。そのため、去年はタクシーで往復したのだ。
「ドライブするなら、その前にお寺にも寄ってあげるよ」とY斗が言うので、ありがたく寺まで連れていってもらうことにした。
花を添え、手を合わせ、両親に近況を伝える。いつも決まって「お父さん、お母さん、元気でやってる?」から始めてしまうのだが、あちらの世界に「元気」という概念はあるのだろうか。そもそも亡くなった人たちに「元気?」と問いかけるのは道理に合わないのでは……と毎回同じことを思い、毎回ひとりで小さく笑う。
昔は、ドラマや映画の主人公が墓前で故人に語りかけるシーンを見るたびに、「あんな風に声を出して話しかけるなんて変だ。作り話はどこか嘘くさいんだよな」とひとり毒づいたものだが、まいったことに、本当に話しかけてしまうのである。墓を前に、まるでそこに父や母がいるかのように、「それでね、わたしったらね」などと普通に話しかけている自分がいた。ドラマや映画は、真実であった。
墓参りを済ませ、ふたたびY斗の車に乗り込む。ようやく、本日のメインイベントであるニセコを目指すドライブの始まりだ。
では説明しよう。わかりやすいように、地図を貼ってみた。

どうしてもここに行きたい! という野望を抱いて行くわけではなく、走るからには目的地があったほうがいいよね、程度のとりあえずのゴールだ。札幌中心街から片道およそ100キロ強。休憩しつつランチを食べても、夜の飲み会にはゆっくり間に合うくらいのドライブである。
北区から札幌の街を抜け、国道230号線を走り、南区に入ると藻岩山とともに「わたしたちの町」が見えてくる。小・中・高校時代を過ごした町だ。S本とM山は今も当時と同じ場所に住んで実家を継いでいるし、Y斗が帰省中の実家も昔のままだ。国道沿いにある高校の前を通る。ちなみに、杉村太蔵や大泉洋もこの高校の出身で、わたしの後輩になる。
定山渓(じょうざんけい)温泉街を抜け、山深い峠道に差し掛かると、山肌にはまだ雪が残っていた。

高いところに出ると、遠くにぐるりと白い雪化粧の山々が見え、元道民であるわたしでもその景色の素晴らしさに見惚れた。さすが北海道、なんという雄大さ。しかし、一枚もその景色を撮っていないのはどういうことだろう。

中山峠で途中休憩。若い頃、付き合いだした当初のドライブの定番スポットだった中山峠。空は雲が多く、残念ながら羊蹄山(ようていざん)は望めず。
さて、ふたたびここで地図の出番だ。

中山峠を越え、さらに230号線を進むと見えてくるのが羊蹄山だ。標高1,898m、別名を蝦夷富士(えぞふじ)。現在は地図の右側、「喜茂別(きもべつ)町」と書かれたあたりを走行中。 喜茂別町から276号線を北上し、京極町の「ふきだし公園」、倶知安(くっちゃん)町を経て、左折して5号線へ。ニセコ町を通って目的地のレストラン「PRATIVO」へ向かう。
帰りは真狩(まっかり)村、留寿都(るすつ)を経由して喜茂別町、中山峠へと戻る、羊蹄山をぐるりと一周するルートだ。

別名、蝦夷富士。曇りのせいで、お姿は拝めず。

く〜、天気が良かったら圧巻の光景なのだろう。夏にまた来ようか。いや、その時期には羊蹄山に雪はない。
喜茂別町を過ぎたら京極町方面の276号に入り、羊蹄山に降った雪や雨が地下に浸透して湧き出ている「ふきだし公園」へ。





湧き出る水と緑の苔。心身ともに浄化されるような、気持ちのよい場所である。
今回、JAL「どこかにマイル」で確率25%の「札幌」を気合いで引き当てたのは、Y斗に会うためでもあった。ちゃんと顔を見て、話を聞いておかねばならぬという(わたしにとっての)緊急事態が生じたからである。
中学同級生のなかでも、なにかと話しやすいのはY斗だ。東京在住でもあったので、たびたび都内で会ってランチや飲み会をする仲である。飲み会と言っても、それぞれの健康状態や配偶者の体調、仕事の状況、実家の親族の様子、困っていることはないか……など、お互いの生活をざっと確認し合う「生存確認」のような会合めいたものである。
事の起こりは先々週だ。いつものように「ランチでもしようか」とLINEを送ると、「仕事は辞めたから、いつでも会えるよ。ただし、札幌だけど」という返信がきた。毎年、冬には必ず帰省するのは知っていた。高齢のご両親が住む実家の除雪作業に人手が足りないからだ。特に、昨年はお父さんが亡くなったので、除雪以外にもいろいろ支援が必要だとは聞いていた。
しかし、今はもう4月末。あと数日で5月になろうというのに、まだ札幌にいるとはどういうことか。仕事は、奥さんは、豊洲の家は。聞きたいことが溢れてくる。「毎日が家事手伝いだ、まあ単身赴任したと思ってくれ」。そんな風に言われて、あらそうなの、とわたしがやすやすと納得すると思ったのか。何よりもショックだったのは、「近況報告をし合う仲」のはずなのに、こんな重大事件を何ヶ月も話さずに札幌に滞在していたという事実だった。これには傷ついた。なぜ話さないのか。
おそらくは、話せば根掘り葉掘り、隅々までわたしに問い詰められるのがわかっていたからだろう。たしかに、それは厄介である。面倒なこと、この上ない。気持ちはわかる。

なので、できるだけソフトに現状を尋ねた。なぜ札幌にいるのか、お母さんや家族をどう支援していくのか、札幌の家はどうするのか、東京の家はどうするのか、奥さんは納得しているのか。
羊蹄山と、遠くに見えるニセコの美しい山々を眺めながら、Y斗の運転する車に揺られ、根掘り葉掘り、あれやこれや、隅々まで……問い詰めた。問い詰める気などもちろんないのだが、状況を心配するあまり、口調はついついきつくなってしまうものなのだ。

目的地のニセコ高橋牧場レストラン「PRATIVO」に着いたのは午後2時を過ぎていた。出発したころよりは、ずいぶんと青空がのぞくように。

階段状に設計されたテーブル席の、全席から羊蹄山を眺められるフレンチレストラン。わたしたちは一番前の席に案内された。



(ドリンク付き 2,100円)
わたしは「留寿都羊蹄ポークのロティ・マスタードソース」、Y斗は「ニセコ産有島牛100%ハンバーグ」、いずれもとても美味しく、落ち着いた雰囲気のレストランでゆっくり味わえたのも良かった。ドリンクバーには、自家製飲むヨーグルトもあり、これがびっくりするくらい美味しくて、二杯もいただいた。
午後2時過ぎという時間のせいもあり、わたしたちの他には2組しかいなかったが、冬のスキーシーズンには想像もできないほどの人気で、インバウンドたちでごった返しているのだろう。

帰路は、空も晴れ、羊蹄山もくっきりと姿を現した。なに? Y斗は悩みを全て吐き出して、洗いざらいぶちまけたおかげで、この空のようにすっきり爽やか? (と思っているのはわたしだけかな)。

のんびりしていたら、どうやらこのままだと「全員集合!」の夜の宴会にギリギリの時間になりそうだ。「Y斗、かっ飛ばして!」と迫ったところ、パッシングをする対向車とすれ違う。もしや……と慎重に進んでいくと、案の定、ネズミ捕りがいた。ドキドキ。
さあ、夜は宴会だ。全員集合だ。
気合いと念で引き当てた話はこちらから。
第1話はこちらから。
第2話はこちらから。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします。もしこの記事でちょっぴり笑っちゃったり、ほんわか心が温かくなったとしたら嬉しいです。サポートいただけますと次の記事制作の大きな励みになります。