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【76回目noteマネー掲載】第百十七章:消費税―1%になっても、大根は安くならない―

第百十七章:消費税―1%になっても、大根は安くならない―

――農家さんの生活原資――

「1%なら、安くなるんじゃないの?」

スーパーの野菜売り場。

みおは、大根の値札を見ながら首をかしげていた。

みお:
「食料品の消費税が8%から1%になったら、大根も安くなるのよね?」

あおい:
「普通は、そう思うよね。」

みお:
「だって、本体500円なら――」

みおはスマホの電卓を開いた。

500円+8%=540円

そして税率を1%に変える。

500円+1%=505円

みお:
「ほら! 540円だった大根が505円になるじゃない!」

あおい:
「じゃあ今度は、農家さんの財布から見てみよう。」

みお:
「財布?」


農家さんの計算は、もっと単純だった

ここでは話を分かりやすくするため、農家さんの経営をものすごく単純化する。

農家さんは、肥料や農薬、燃料、農業資材などを仕入れて、大根を作って販売する。

たとえば、

税込仕入 440円

だったとする。

そして大根を、

税込 540円

で販売していた。

すると、

540円-440円=100円

が残る。

厳密な会計上の付加価値とは少し違うが、本稿ではこの100円を、

農家さんの生活原資

と呼ぶことにする。

この100円から、

生活費を出す。

人件費を出す。

設備を直す。

次の作付けに備える。

農業を続ける。

つまり、

税込売上-税込仕入=農家さんの生活原資

と考える。

みお:
「100円で、農家さんの生活と経営を支えているのね。」

あおい:
「そう考えてみよう。」


食料品を1%にしてみる

ここで、食料品の消費税率を8%から1%へ下げる。

大根の税抜価格を500円のままにすれば、

500円+1%=505円

になる。

消費者から見れば、

540円 → 505円

35円の値下げである。

みお:
「やっぱり安くなるじゃない!」

あおい:
「農家さんの財布も計算してみよう。」

仕入価格は変わらないものとする。

税込仕入440円

売上は、

税込505円

だから、

505円-440円=65円

になる。

みおの指が止まった。

みお:
「……65円?」

あおい:
「うん。」

これまで農家さんに残っていた生活原資は100円。

それが、

100円 → 65円

になる。

減少額は、

35円

である。

みお:
「大根が35円安くなったんじゃなくて、農家さんの生活原資が35円減ってるじゃない!」


仕入れは、1%になっていない

ここが重要である。

食料品の税率を1%にしても、農家さんが使うものすべてが1%になるわけではない。

たとえば、

  • 肥料

  • 農薬

  • 燃料

  • 農業機械

  • ビニール

  • 支柱

  • 修繕費

  • 電気

  • その他の農業資材

こうした投入側には、標準税率10%のものが多い。

つまり、

大根の売上側だけ1%になっても、農家さんの仕入側は10%のまま残る。

そして免税事業者であれば、仕入れで負担した消費税を本則課税の仕入税額控除や還付で精算することはできない。

農家さんの財布から見れば、

仕入440円は、440円のまま。

なのである。


農家さんが生活するには、540円が必要だった

では、農家さんがこれまでと同じ100円の生活原資を維持するには、いくらで売ればいいのだろう。

必要なのは、

売上-440円=100円

だから、

売上=540円

である。

税率が1%になっても、

税込540円を維持しなければ、農家さんの生活原資100円を維持できない。

みお:
「じゃあ……大根の値段、下げられないじゃない。」

あおい:
「仕入価格が変わらず、仕入税額も精算できないなら、そうなるね。」


変わるのは、値札の中身だった

消費税8%のとき、税込540円の内訳は、

税抜500円
内消費税相当額40円
合計540円

だった。

では、税率1%で税込540円を維持するとどうなるだろう。

税抜価格は約534.65円。

その1%相当額は約5.35円。

つまり、

税抜約534.65円
内消費税相当額約5.35円
合計540円

になる。

並べてみよう。

8%

500円+40円=540円

1%

約534.65円+約5.35円=540円

総額は変わらない。

変わったのは、

総額表示の内訳

だった。

みお:
「40円だった『内消費税』が5円くらいになって、その分、本体価格が上がった。」

あおい:
「そう。」

みお:
「でも農家さんの手元に残る100円は変わってない。」

あおい:
「そこが大事。」


「減税分を農家が取った」のではない

消費者から見ると、不思議に見えるかもしれない。

食料品の税率が8%から1%になった。

なのに、

大根540円

のまま。

すると、

「せっかく減税したのに、農家が値下げしない」

と思うかもしれない。

さらに、

「減税分を農家が自分のものにした」

と感じる人もいるかもしれない。

しかし、農家さんの財布を見れば意味が変わる。

540円-440円=100円

だった生活原資を、

505円-440円=65円

にされたら、生活できなくなる。

だから農家さんは、

540円-440円=100円

を守ろうとする。

農家さんは、減税分を横取りしたのではない。

自分の生活原資を守ろうとしているだけである。


「益税」という見え方も変わる

消費税を、

消費者が税金を払い、事業者がそれを預かって国へ納める

というモデルだけで考えると、

税率が8%から1%になったのに価格が下がらなければ、

「農家が減税分を懐に入れた」

ように見える。

しかし実体経済では、

農家さんは、

売上-仕入

で生活している。

肥料代も払う。

燃料代も払う。

資材代も払う。

機械も直す。

そして残ったお金で生活する。

農家さんにとって重要なのは、

レシートに何%と書かれているかではない。

最後に、いくら残るのか。

なのである。


本則課税なら、話は変わる

もちろん、農家さんが課税事業者で、本則課税によって実際の仕入税額を精算できるなら話は変わる。

前章のモデルでは、

売上側の税額 5万円
仕入側の税額 40万円

だった。

本則課税なら、

5万円-40万円=-35万円

となり、35万円が還付される。

この35万円が戻ってくるなら、農家さんは税込価格を下げても、生活原資を守りやすくなる。

つまり、

食料品1%を、本当に1%として農家さんまで届けるためには、仕入側の10%を精算する仕組みが必要なのである。

しかし、小規模農家にとって本則課税は簡単ではない。

帳簿が必要になる。

領収書を整理する。

税率を区分する。

証憑を保存する。

制度を理解する。

必要なら税理士にも依頼する。

還付までの資金繰りも必要になる。

制度上、

「本則課税なら還付できます」

と言うことはできる。

しかし、

実際にそこまで辿り着けるかは、別の問題である。


大企業と、小さな農家さん

大企業には、

経理部門がある。

会計システムがある。

税務担当者がいる。

顧問税理士もいる。

本則課税による仕入税額控除や還付は、通常業務として処理できる。

しかし、小さな農家さんにとって、

知識
時間
お金
事務能力
資金繰り

は、すべて経営資源である。

減税を完全に受けるために、それらを追加で投入しなければならないとすれば、

同じ「食料品1%」でも、減税へ到達する難易度が違う。


だから、大根は101円にならない

みおは、大根を一本持ち上げた。

みお:
「つまり……。」

あおい:
「うん。」

みお:
「食料品が1%になったからって、大根の値段から単純に7%を引けるわけじゃない。」

あおい:
「農家さんの仕入価格が変わらないからね。」

みお:
「値下げしたら、その分だけ農家さんの生活原資が減る。」

あおい:
「仕入税額を別の方法で精算できなければね。」

みおは値札を見る。

大根 540円

税率は1%。

けれど価格は変わらない。

みお:
「……だから大根は安くならないのね。」


減税とは、誰の財布を軽くすることなのか

食料品の消費税率を下げれば、消費者の負担が軽くなる。

一見すると、とても単純な話に見える。

しかし、その商品の後ろには、

農家がいる。

漁師がいる。

畜産農家がいる。

加工業者がいる。

運送会社がいる。

小売店がいる。

そして、それぞれに仕入れがあり、売上があり、生活がある。

税率だけを下げても、

サプライチェーンの途中に残った税金コストは、誰かの財布から消えなければならない。

消費者が負担するのか。

農家が負担するのか。

事業者の利益が減るのか。

賃金が減るのか。

価格に戻るのか。

税金は、数字を変えただけでは消えない。


みお、レジを見る

みおは大根をレジへ持っていった。

レジの画面には、

税率1%

と表示されている。

みおは昨日までなら、

「1%なのに高い」

と思っていたかもしれない。

けれど今は、その値札の向こう側にいる人が見える。

肥料を買う人。

燃料を買う人。

畑を耕す人。

雨の日も、大根を育てる人。

そして、その人が生活するために必要な100円。

レジが鳴る。

ピッ。

税率は、1%。

けれど大根の値段は、ほとんど変わらない。

それは、

農家さんが減税分を奪ったからではない。

自分の生活原資を守ろうとしただけだった。

もう一度、レジが鳴る。

ピッ。

その音は今日も、

値札の向こうにいる誰かの生活を、

ほんの少しだけ見せてくれる音だった。


このモデルの前提

本稿は制度構造を分かりやすく確認するための単純化モデルである。

  • 農家の税込仕入を440円で固定

  • 税率変更前の税込売上を540円とする

  • 本稿では「税込売上-税込仕入」を便宜上「農家さんの生活原資」と表現する

  • 農家は免税事業者を想定し、本則課税による仕入税額控除・還付を受けない

  • 食料品税率のみ8%から1%へ変更

  • 実際の販売価格は需給、競争、契約関係、原材料価格など多くの要因によって決まる

本稿の目的は、

「食料品の税率が下がれば、その分だけ税込価格も自動的に下がる」

とは限らない理由を、農家さんの財布から考えることである。


【14年越しの答え合わせ】片山さつきが残した問いを、安藤裕が引き継いだ

参考動画:

【彼女は全てを知っていた。】

【制度側の自白と、14年越しの答え合わせ】


ここから先は、あえて繰り返す。
なぜなら、これは単なる国会質疑ではないからだ。
消費税という制度が前提としてきた「円滑かつ適正な価格転嫁」と、現実の市場で起きていること。
その二つが、国会という公の場で正面から衝突した「事件」の記録だからである。
自由主義経済において、価格は制度の予定通りには動かない。
原価が上がったからといって、その全額を価格へ転嫁できるとは限らない。
消費税率が上がったからといって、その分だけ売価を上げられるとも限らない。
価格転嫁できなくても、消費税の負担は消えない。
事業者の利益、賃金、賞与、投資、資金繰りへと移っていく。

その瞬間、消費税の問題は「価格転嫁」の問題ではなく、税金コストを誰に負わせるかという問題へ変わる。


2012年。
一人の政治家が、その危険性を国会で指摘していた。
片山さつき議員である。
そして14年後。
片山さつきが残した問いを、安藤裕が引き継いだ。
問いを受ける側に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。
これは、制度の外から制度を批判していた者が、制度の頂点へ立ったとき、どのように言葉を変えるのかという記録でもある。

2012年、彼女はすべてを知っていた

「もう、手のつけられないようなことになりますよ」
2012年。
野党時代の片山さつき議員は、消費税増税が経済へ与える影響について、強く警告していた。
住宅。
地方経済。
中小零細企業。
街の蕎麦屋。
普通の床屋。
価格を上げたくても上げられない、小さな事業者たち。

片山議員は、消費税が単なる「消費者の負担」では終わらないことを、具体的な例で指摘していた。

たとえば、街の蕎麦屋である。

今、お蕎麦屋さんは税込み630円でお蕎麦を出していますけど、660円にできますかね?

これは、単なる問いではない。

消費税の制度と市場の現実を知る者が、問いの形で提示した答えである。


全国一律の価格を持つ大手チェーンなら、まだ値上げしやすいかもしれない。
しかし、地域の客に支えられている小さな店はどうか。
街の蕎麦屋はどうか。
普通の床屋はどうか。
値上げによって客を失う可能性がある店に、「税率が上がったのだから、その分を価格へ転嫁すればよい」と簡単に言えるだろうか。

片山議員は当時、年間売上3000万円以下の中小零細企業について、5割から7割が価格転嫁できていないという調査があると述べていた。

さらに、滞納税額の約半分に当たる3400億円が消費税であるとも指摘した。

つまり、彼女は知っていた。


消費税は「価格へ転嫁されることを予定している」と説明される。

しかし現実の市場では、弱い立場の事業者ほど、その予定通りに転嫁できない。


消費税は、制度の予定と市場の現実が一致しなければ成立しない税だった。
2012年の片山さつきは、その矛盾を知っていた。

14年後、問いが戻ってきた

それから14年後。
今度は、参政党の国会議員として国政に復帰した安藤裕が、同じ問題を国会で問い始める。

答弁席に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。


安藤議員が最初に確認したのは、消費税の納税義務者である。
法律上、消費税を納める義務を負っているのは誰なのか。
消費者なのか。
事業者なのか。
答弁は明確だった。
消費税法上の納税義務者は、事業者である。
政府は消費税について、価格への転嫁を通じて、最終的には消費者が負担することを予定していると説明する。
しかし、それは経済的な負担についての予定である。
税法上の納税義務とは別の話だ。
税法上、消費者は消費税の納税義務者ではない。
消費税を申告し、納付するのは事業者である。
ここで安藤議員は、さらに問いを進めた。
消費者から受け取った消費税を税務署へ納めず、事業者が自分の利益にしているとされる、いわゆる「益税」は制度上存在するのか。
これに対して片山財務大臣は、法律上はそのような関係にはならないと答えた。
消費者は、消費税法上の納税義務者ではない。
したがって、消費者が納めるべき税金を事業者が預かり、それを国へ納めずに利益にしているという法構造にはならない。
法律上、益税は存在しない。
ここで、長年語られてきた消費税の物語が揺らぎ始める。

完全転嫁という幻想

多くの人は、消費税を次のように理解している。
まず原価がある。
そこに適正な利益を乗せる。
そして、その上に消費税10%を上乗せする。
消費者がその10%を支払い、事業者が一時的に預かり、後から税務署へ納める。
このモデルでは、消費税によって事業者の利益が削られることはない。
人件費も削られない。
消費税は売価の外側へ完全に上乗せされ、最終消費者がすべて負担するからである。
しかし、このモデルが成立するためには、強い前提が必要になる。
すべての事業者が、原価と必要な利益を確保したうえで、消費税相当額を完全に価格へ上乗せできること。
つまり、価格転嫁率100%の市場である。
もし本当に、すべての取引がこの通りに行われているなら、赤字企業はほとんど存在しない。
低賃金労働者もいない。
買いたたきもない。
利益を確保したうえで、消費税分まで価格へ上乗せできるのだから、消費税を払えずに資金繰りへ行き詰まる事業者も存在しないはずである。
だが、現実は違う。
赤字企業がある。
低賃金労働者がいる。
買いたたきがある。
価格交渉力の弱い事業者がいる。
値上げすれば客を失う店がある。
原材料費が上がっても、売価へ十分に転嫁できない事業者がいる。

「原価+適正な利益+消費税」という美しいモデルは、現実の市場を表したものではない。


それは、制度を成立させるために置かれた予定である。

赤字でも消費税が発生する理由

消費税の納付額は、大まかに次の式で計算される。

消費税

売上にかかる税額 − 仕入れにかかる税額


標準税率10%、すべて税込金額という単純なモデルなら、次のように表せる。

消費税

(課税売上 − 課税仕入)× 10/110


ここで重要なのは、法人税のように、売上からすべての費用を差し引いて利益を計算しているわけではないという点である。
給与や社会保険料、支払利息など、事業に必要な支出であっても、仕入税額控除の対象にならないものがある。
そのため、法人税上の利益が赤字であっても、

課税売上 − 課税仕入 > 0


であれば、消費税は発生する。
事業者が赤字か黒字かは、消費税の計算を止めない。
消費税は、利益ではなく、課税売上と課税仕入の差額を見ているからである。
一般に、事業者は仕入れた商品へ何らかの価値を加えて販売する。
100円で仕入れた商品を、毎回50円で売り続ける事業は成立しない。
100円の原材料を使い、50円で製品を売り続ける製造業も成立しない。
したがって、事業を継続している限り、一般には、

課税売上 − 課税仕入 > 0


となる。
企業全体では赤字でも、この差額は残り得る。

だから、赤字事業者にも消費税が発生する。


赤字でも「消費税が発生することがある」のではない。
事業が付加価値を生み出している限り、赤字でも消費税が発生する構造なのである。

付加価値の先取り

課税売上から課税仕入を差し引いたものは、概ね、その事業者が新しく生み出した付加価値に対応する。


単純化すれば、

付加価値

課税売上 − 課税仕入


さらに、その付加価値は概ね、

付加価値

利益 + 人件費


と捉えることができる。
したがって、消費税の構造は、概ね次の式で表せる。

消費税≒ 付加価値 × 10/110


さらに単純化すれば、

消費税≒(利益 + 人件費)× 10/110


となる。
ここで、何が起きているのか。

事業者が生み出した付加価値という一つのパイがある。


本来、その付加価値は、労働者の賃金と、企業の利益などに分配される。
しかし、消費税がある世界では、その分配より先に、国の取り分が決まる。

国が消費税を先に取る。


残った付加価値を、法人と労働者が分ける。
価格へ完全に転嫁できるなら、事業者の外側へ負担を押し出せるかもしれない。

しかし、価格転嫁できなければ、消費税は付加価値の内部に残る。


利益を削る。
賃上げ原資を削る。
賞与を削る。
採用を抑える。
設備投資を遅らせる。
資金繰りを圧迫する。
税負担が消えるわけではない。
負担する場所が変わるだけである。

安藤議員が述べた「賃上げする原資を持っていく前に、消費税を納税しろと言われている」という言葉は、この構造を表している。

消費税は、付加価値という一つの財布から、国が先に取り分を確保する税である。


その残りを、法人と労働者が分ける。
これが、「付加価値の先取り」である。

レシートに書かれた「内消費税」

安藤議員は、レシートの表示にも踏み込んだ。
たとえば、1100円の商品を買ったとする。
レシートには、
「内消費税100円」
と書かれている。
では、この100円は法律上、何なのか。
政府側の答弁は、次のようなものだった。
その取引について課されるべき消費税額に相当する額であり、課税資産の譲渡等の売上に対する対価の一部である。
つまり、レシートに「消費税」と書かれていても、それは消費者が税務署へ納めた税金そのものではない。
事業者が消費者から預かった税金そのものでもない。
事業者がそのまま税務署へ納付する金額でもない。

その売価で取引が成立したという事実と、その税込価格の内訳が表示されているだけである。


レシート表示からは、実際にいくら価格転嫁されたのか分からない。
事業者がいくら納付するのかも分からない。
その取引によって、事業者の利益がいくら残ったのかも分からない。

それでも、多くの人は「内消費税100円」という表示を見ることで、自分が100円の税金を納めたと認識する。


そして、事業者はその100円を預かっているだけだと考える。

ここから、「預かった税金を納めない免税事業者はずるい」という益税の物語が生まれる。


しかし、法構造は違う。
消費者は納税義務者ではない。
レシートに書かれた100円は、売上の対価の一部である。
事業者の納付額は、レシートの表示額ではなく、売上税額と仕入税額の差額によって決まる。
レシートは、価格転嫁に成功した証拠ではない。
預り金が存在する証拠でもない。
そこに記録されているのは、

「その価格で、一つの取引が成立した」


という事実である。

2012年の言葉と、2026年の言葉

2012年の片山さつき議員は、市場の現実を語った。
街の蕎麦屋は、630円を660円にできるのか。
中小零細企業は、本当に消費税を価格へ転嫁できているのか。
価格を上げられない事業者に、消費税は何をもたらすのか。
彼女は、制度の予定ではなく、現場で起きていることを見ていた。
それから14年後。
財務大臣となった片山さつきは、制度を守る側の言葉を語る。
消費税は、価格への転嫁を通じて、最終的には消費者が負担することを予定している。
消費税相当額は、適切に価格へ転嫁される。

同じ人物の中に、二つの言葉が存在する。


市場の現実を見る言葉。
制度の予定を守る言葉。
片山さつきは、なぜ言葉を変えたのか。
本当に考え方が変わったのかもしれない。
財務大臣として税制全体を守らなければならないのかもしれない。
党内の力学や、財務省との関係が影響したのかもしれない。

あるいは、本質的な認識は変わっていないまま、立場によって使用する言葉だけが変わったのかもしれない。


その答えは、本人にしか分からない。
だが、確かなことが一つある。

2012年に指摘されていた問題は、14年後も解決していない。


価格転嫁できない事業者がいる。
赤字でも消費税が発生する。
消費税の滞納が続いている。
賃上げが必要だと言いながら、賃上げ原資から先に消費税を取る構造が維持されている。

そして今も、政府は消費税を「景気に左右されにくい安定財源」と説明する。

だが、景気に左右されにくいということは、裏返せば、景気が悪くても取り続けるということである。


人々の生活が苦しくても。
企業の経営が苦しくても。
赤字でも。
資金繰りが限界でも。
付加価値が残る限り、消費税は発生する。

それを、本当に「安定」と呼んでよいのだろうか。

これは事件の記録である

14年前、片山さつきは問いを残した。
そして今、安藤裕がその問いを引き継いだ。
問いを受ける側に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。
2012年の片山さつきは、市場の現実を語った。
2026年の片山財務大臣は、制度の予定を語った。
変わったのは、市場ではない。

彼女が座る椅子だった。


制度の外から市場を見れば、価格転嫁できない事業者が見える。
制度の頂点から税制を見れば、「円滑かつ適正に転嫁されることを予定している」という説明になる。
事実が変わったのではない。
観測する位置によって、使用する言葉が変わった。

制度という怪異の頂点に座った者は、その構造を守るための部品として再定義される。

14年前の彼女の言葉が正しければ正しいほど、現在の答弁は、この国の政治が市場の現実よりも制度の維持を選んだことの証明になる。

これは、片山さつき一人の変節を責める物語ではない。


誰がその椅子へ座っても、同じ言葉を語らざるを得ないのだとしたら、問題は個人ではなく構造にある。
だから、問いに向き合わなければならないのは、彼女だけではない。

その変節を制度の「仕様」として受け入れ、今日もレジの音を聞き流している、私たち自身である。

失われた30年をもたらしたのは、果たして誰なのだろうか。


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