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【67回目noteマネー掲載】第百七章:消費税―食料品減税で、飲食店が増税になる!?

第百七章:消費税―食料品減税で、飲食店が増税になる!?

【彼女は全てを知っていた。】

【制度側の自白と、14年越しの答え合わせ】

ここから先は、もはや単なる議論ではない。
国会という公の場で、制度を運用する側が【自由主義経済においては、価格はきれいに転嫁されない】と自ら認めた【事件】の記録である。
片山さつきが残した問いを、安藤裕が引き継ぎ、そしてついに【決着】へと導いた瞬間を見てほしい。


――108円の大根は、101円にならない――

部屋の明かりを落とすと、国会中継の画面だけが青白く浮かび上がった。

みおは、動画を巻き戻した。

画面の中では、安藤裕議員が、食料品の消費税率を1%へ引き下げた場合について質問していた。

食料品を減税する。

普通に考えれば、家計も、食料品を仕入れる飲食店も助かるはずである。

ところが、安藤議員が指摘していたのは、その反対だった。

食料品だけを1%へ減税すると、飲食店の消費税納付額は増える。

みおは、動画を止めた。

みお:
「……どうして?」

みお:
「食料品を減税するのに、飲食店が増税になるの?」

隣で画面を見ていたあおいが答えた。

あおい:
「食材に含まれる税額が減ると、飲食店が差し引ける仕入税額控除も減るからだよ。」

みお:
「でも、食材の値段も下がるんでしょう?」

あおいは、テーブルの上に置かれたレシートを見た。

あおい:
「本当に、減税分だけ下がるのかな。」


108円の大根は、101円になるのか

食料品の消費税率を8%から1%へ引き下げる。

多くの人は、108円の大根が101円になると考える。

108円 = 本体価格100円 + 消費税8円

税率が1%になれば、

101円 = 本体価格100円 + 消費税1円

一見すると、当然の計算である。

食料品の消費税が7円減るのだから、販売価格も7円下がる。

一家四人の食費について、毎月いくら負担が減るのか。

一年間でいくら家計が助かるのか。

そのような試算の多くも、108円の大根が101円になることを前提にしている。

しかし、この計算には、一つの条件が隠されている。

減税された7円が、100%価格へ反映されること。

税率を決めるのは、法律である。

しかし、売価を決めるのは、市場である。

税率の変更 = 価格の変更

ではない。


なぜ、国民は101円になると思うのか

理由は単純である。

消費税を、預り金だと思っているからである。

国民の頭の中では、108円は、二つに分かれている。

本体価格100円 + 預り金8円

食品会社や小売店は、消費者が国へ納める8円を、一時的に預かっているだけ。

だから税率が1%になれば、預かる金額は1円になる。

余った7円は、当然、消費者へ返される。

この認識に立てば、108円の大根は101円にならなければおかしい。

しかし、法律上、消費税の納税義務者は事業者である。

消費者が税務署へ8円を納め、それを食品会社が預かっているわけではない。

108円は、その価格で成立した売買の対価である。

税率が下がれば、まず事業者の消費税納付額が減る。

その減税分を、値下げによって消費者へ渡すかどうかは、別の問題である。

預り金なら、減税分は消費者へ返る。

対価の一部なら、減税分は市場の中で分配される。

食料品減税は、この違いを可視化する。


税率を下げても、価格は同じだけ下がらない

これは、単なる想像ではない。

2020年、ドイツは新型コロナ対策として、標準VATを19%から16%へ、食料品などに適用される軽減税率を7%から5%へ、半年間引き下げた。

ドイツのスーパーマーケットの商品価格を調べた研究では、平均価格の低下は約1.3%で、減税分の消費者価格への転嫁率は約70%だった。

価格は下がった。

しかし、完全には下がらなかった。

英国でも、2020年7月、外食、宿泊、観光などのVATが20%から5%へ引き下げられた。

英国政府は、その目的を事業者の支援と240万人の雇用保護であると明記していた。

英国のホテル価格を分析した研究では、導入直後の価格転嫁率は、およそ20%から50%だった。

ここでも、税率の引下げが、そのまま同じ割合の値下げになったわけではない。

税率を下げれば、価格が自動的に下がる。

海外の市場でも、そのような現象は起きなかった。

減税分の一部は、値下げとして消費者へ渡る。

残りは、事業者側の税抜収益として残る。


大根の価格は、どこに集まるのか

108円の大根が、そのまま108円なら、価格転嫁率は0%である。

しかし、食料品が減税されたのに価格がまったく下がらなければ、消費者から疑問を持たれる。

競合店が値下げすれば、客を奪われる可能性もある。

だから、

α ≧ 108円

は起こりにくい。

一方、101円まで下げるには、食品会社、卸、小売が、減税によって生まれた余地を一円残らず手放さなければならない。

期間限定の減税なら、終了したときに101円を108円へ戻す必要もある。

一度下げた価格を、元へ戻す。

消費者から見れば、それは7円の値上げになる。

値上げによって客を失う危険を考えれば、事業者が最初から減税分をすべて価格へ反映しない可能性は高い。

だから、

α ≦ 101円

も起こりにくい。

そう考えると、減税後の大根価格αは、次の範囲へ入る可能性が高い。

101円 < α < 108円

さらに、海外の価格転嫁事例、期間限定減税、価格改定のコスト、物価上昇、競争圧力を重ねると、有力な仮説レンジは、もう少し狭くなる。

103円 < α < 106円

野村総合研究所の2026年7月の試算でも、税率変更だけなら食料品価格は約6.5%下がるが、物価上昇分を相殺する形で価格が設定されれば、実際の低下幅は約3.2%、理論値の半分程度になるとされている。

108円の商品が3.2%下がれば、約104.5円である。

その中心を、104.5円と置く。

α = 104.5円

これは、減税分7円の半分に当たる3.5円だけ、価格が下がった場合である。

108円の大根は、101円にはならない。

104円か、105円になる。


価格を固定すると、制度の骨格が現れる

ここからは、単純な二段階モデルで考える。

食品会社が食材を販売し、飲食店がそれを仕入れて料理を販売する。

制度の動きを見やすくするため、食品会社より前の仕入れは省略する。

すべて税込金額とする。

飲食店の料理の売価を、

β = 1,100円

食材の仕入価格を、

α = 540円

とする。

まず、食材価格も料理価格も変わらないとして、制度だけを動かす。

食料品の税率が8%のとき、飲食店の売上にかかる税額は、

1,100円 × 10/110 = 100円

食材について差し引ける仕入税額控除は、

540円 × 8/108 = 40円

したがって、飲食店の消費税納付額は、

100円 − 40円 = 60円

となる。

次に、食料品の税率を1%へ下げる。

料理の売価は1,100円、食材の価格は540円のままとする。

飲食店の売上にかかる税額は、変わらない。

1,100円 × 10/110 = 100円

しかし、仕入税額控除は、

540円 × 1/101 ≒ 5.35円

まで減少する。

したがって、飲食店の消費税納付額は、

100円 − 5.35円 = 94.65円

となる。

減税前は60円。

減税後は94.65円。

飲食店の消費税納付額は、約34.65円増える。

食料品を減税したにもかかわらず、飲食店は増税になる。

税収不変の法則

では、食品会社の消費税はどうなるのか。

この単純モデルでは、食料品8%のとき、食品会社の納付額は、

540円 × 8/108 = 40円

食料品1%では、

540円 × 1/101 ≒ 5.35円

となる。

食品会社の納付額は、約34.65円減少する。

一方、飲食店の納付額は、約34.65円増加する。


食料品8%から1%へ減税。

価格が540円のままなら、何が起きるのか。

食品会社の消費税

食料品8%:40円
食料品1%:約5.35円

約34.65円の減税


飲食店の消費税

食料品8%:60円
食料品1%:約94.65円

約34.65円の増税


系全体の消費税

食料品8%:100円
食料品1%:100円

税収は、変わらない。


食品会社の減税額と、飲食店の増税額が一致する。
減税された税金は消えたのではない。
納付する場所が、食品会社から飲食店へ移動しただけである。


食品会社の減税額 = 飲食店の増税額

系全体で見れば、税収は変わらない。

食品会社の減税が、飲食店の増税へ移動しただけである。

これが、価格固定条件における、

税収不変の法則

である。


付加価値も移動する

税抜金額でも見てみよう。

食料品8%のとき、食品会社の税抜売上は、

540円 × 100/108 = 500円

飲食店の税抜売上は、

1,100円 × 100/110 = 1,000円

したがって、飲食店に残る税抜付加価値は、

1,000円 − 500円 = 500円

となる。

食料品1%で、食材価格540円が変わらない場合、食品会社の税抜売上は、

540円 × 100/101 ≒ 534.65円

へ増える。

飲食店に残る税抜付加価値は、

1,000円 − 534.65円 = 465.35円

まで減少する。


食料品8%から1%へ減税。

価格が540円のままなら、付加価値はどう動くのか。

食品会社の税抜付加価値

食料品8%:500円
食料品1%:約534.65円

約34.65円の増加


飲食店の税抜付加価値

食料品8%:500円
食料品1%:約465.35円

約34.65円の減少


系全体の税抜付加価値

食料品8%:1,000円
食料品1%:1,000円

付加価値の総額は、変わらない。


税率が下がっても、新しい付加価値が生まれたわけではない。

系全体の付加価値は1,000円のままである。

食品会社の付加価値が増えた分だけ、飲食店の付加価値が減った。

減税によって、付加価値の持ち主が変わったのである。


現実に近い104.5円モデル

もちろん、現実には、食料品の価格も少しは下がるだろう。

そこで、108円の大根が104.5円になると仮定する。

540円分の食材なら、同じ割合で、

540円 → 522.5円

となる。

飲食店の料理価格βは、1,100円のままとする。

減税後、飲食店の仕入税額控除は、

522.5円 × 1/101 ≒ 5.17円

したがって、飲食店の消費税納付額は、

100円 − 5.17円 = 94.83円

となる。

減税前の60円と比較すると、

94.83円 − 60円 = 約34.83円増

である。

一方、食材の現金支出は、

540円 − 522.5円 = 17.5円減

となる。

食材代は17.5円安くなった。

しかし、消費税納付額は約34.83円増えた。

差し引けば、

34.83円 − 17.5円 = 約17.33円

飲食店の税抜付加価値は、1食当たり約17.33円減少する。


大根108円が104.5円になる場合。

食材540円は、522.5円になる。

飲食店の税込売価

減税前:1,100円
減税後:1,100円

変化なし


食材の税込価格

減税前:540円
減税後:522.5円

17.5円の値下げ


飲食店の消費税納付額

減税前:60円
減税後:約94.83円

約34.83円の増税


飲食店の税抜付加価値

減税前:500円
減税後:約482.67円

約17.33円の減少


食材は17.5円安くなった。
しかし、飲食店の消費税は約34.83円増えた。
差し引き約17.33円、飲食店の税抜付加価値は減少する。

食料品を減税したのに、飲食店の経営は悪化する。

サービス内容は変わっていない。

料理の販売価格も変わっていない。

食材の価格は、少し下がった。

それでも、飲食店の経営は悪化する。


500円の定食を、520円にできるのか

では、飲食店が料理を値上げすればよいのだろうか。

しかし、消費者にはこう見える。

食料品が減税されたのに、なぜ定食を値上げするのか。

500円の定食を520円にすれば、客は言うかもしれない。

外食をやめよう。

スーパーで弁当を買おう。

家で食べよう。

食料品減税は、内食や中食を相対的に有利にする。

同時に、飲食店の値上げを心理的に封じる。

飲食店の価格βは、上げにくい。

しかし、薄利の飲食店には、値下げする余力もない。

β₂ ≒ β₁

料理の価格は、上にも下にも動きにくい。

一方、食材の価格は、減税分のすべてが下がるとは限らない。

食材価格は、完全には下がらない。

料理価格は、上げにくい。

その間に挟まれるのが、飲食店である。


家計の負担軽減額は、最大値だった

食料品の消費税率が8%から1%へ下がるとき、完全に価格へ転嫁されれば、108円の商品は101円になる。

この場合、食料品の税込支出に対する理論上の値下げ率は、

7/108 ≒ 6.48%

である。

たとえば、一家四人の軽減税率対象の食費が月8万円なら、完全転嫁時の負担軽減額は、

80,000円 × 7/108 ≒ 5,185円/月

一年間では、約6万2,000円になる。

しかし、これは減税の効果として確定した金額ではない。

減税分が100%価格へ転嫁された場合の、家計負担軽減額の上限である。

転嫁率が50%なら、家計へ届くのは約半分の月2,600円程度になる。

残りは消えたのではない。

食品の生産、卸、小売など、供給側の税抜付加価値として残る。

そして、その食品を仕入れる飲食店では、仕入税額控除の減少として現れる。


減税は、家計への自動給付ではない

ここで、食料品減税の姿が変わる。

表面だけを見れば、税率が8%から1%へ下がる。

しかし、控除チェーンから見ると、次のことが起きている。

食品会社の納付額が減る。

飲食店の仕入税額控除が減る。

食品会社の税抜付加価値が増える。

飲食店の税抜付加価値が減る。

系全体の税収は変わらない。

系全体の付加価値も増えない。

変わるのは、誰が税を納めるか。

そして、誰が付加価値を受け取るかである。

税率だけを見ていれば、これは減税に見える。

税収から見れば、納付場所の移動である。

付加価値から見れば、食品側から飲食店側への救済ではない。

飲食店から食品側への、付加価値の移転である。


預り金神話が崩壊する

もし消費税が、本当に消費者から預かった税金なら、減税された7円は消費者へ返るはずである。

108円の大根は、101円になるはずである。

しかし、海外の市場では、そうならなかった。

価格転嫁は不完全だった。

なぜか。

消費税減税 = 事業者の納付税額の減少

であって、

消費税減税 = 消費者への自動返金

ではないからである。

価格を下げた分だけ、消費者へ渡る。

価格を下げなかった分は、事業者側に残る。

預り金なら、減税分は消費者へ返る。

対価の一部なら、減税分は市場の力関係によって分配される。

海外のVAT減税は、消費税を預り金として理解するモデルが、現実の価格を説明できないことを示した。

ここで、長年語られてきた預り金神話が崩壊する。


制度は、誰を見ているのか

みおは、もう一度、国会中継の画面を見た。

みお:
「食料品を減税しても、家計には全部届かない。」

みお:
「食品会社の納付額は減るけど、飲食店の納付額は増える。」

みお:
「それでも、税収は変わらない。」

あおい:
「最終販売価格βが変わらない限り、このモデルでは系全体の税収も変わらない。」

みお:
「……この制度、誰を見て作られているの?」

あおいは答えた。

あおい:「税収だよ。」

税率を下げる。

控除額を減らす。

前段階の納付額を減らす。

後段階の納付額を増やす。

課税ベースの位置を動かしながら、税収を保存する。

その計算式の中に、街の飲食店の生活は入っていない。

店主の賃金も。

従業員の賞与も。

新しい調理器具を買うための資金も。

資金繰りに耐えられる日数も。

制度のデスクには、数字が並んでいる。

しかし、そこから人間が消えている。


みお、街を見る

夕方。

みおは、商店街の八百屋の前で立ち止まった。

店先には、土のついた大根が並んでいた。

白い紙の値札には、太い文字で、

一本 105円

と書かれていた。

みおは、その数字をしばらく見つめた。

みお:
「……101円じゃない。」

あおい:
「減税分の全部が、価格へ渡ったわけじゃないからね。」

八百屋の少し先に、小さな定食屋があった。

色あせた暖簾の横に、手書きの看板が立っている。

日替わり定食 500円

値段は、以前と変わっていなかった。

店の中では、店主が仕入伝票を見ながら、会計端末を操作していた。

みお:
「食材は少し安くなったのに、あのお店は苦しくなるの?」

あおい:
「安くなった金額より、失った仕入税額控除の方が大きいから。」

みお:
「食料品を減税したのに?」

あおい:
「食品会社には減税になる。」

あおい:
「でも、飲食店には増税になる。」

店主は、帳簿の数字を確かめた。

料理の値段は上げられない。

食材の価格は、減税分ほど下がらない。

それでも、納付額だけは増えている。

店主が、会計端末の確定ボタンを押した。

小さな電子音が鳴った。

ピッ。

その音は、誰かの事業を削る音だった。


参考資料


【14年越しの答え合わせ】片山さつきが残した問いを、安藤裕が引き継いだ

参考動画:

【彼女は全てを知っていた。】

【制度側の自白と、14年越しの答え合わせ】


ここから先は、あえて繰り返す。
なぜなら、これは単なる国会質疑ではないからだ。
消費税という制度が前提としてきた「円滑かつ適正な価格転嫁」と、現実の市場で起きていること。
その二つが、国会という公の場で正面から衝突した「事件」の記録だからである。
自由主義経済において、価格は制度の予定通りには動かない。
原価が上がったからといって、その全額を価格へ転嫁できるとは限らない。
消費税率が上がったからといって、その分だけ売価を上げられるとも限らない。
価格転嫁できなくても、消費税の負担は消えない。
事業者の利益、賃金、賞与、投資、資金繰りへと移っていく。

その瞬間、消費税の問題は「価格転嫁」の問題ではなく、税金コストを誰に負わせるかという問題へ変わる。


2012年。
一人の政治家が、その危険性を国会で指摘していた。
片山さつき議員である。
そして14年後。
片山さつきが残した問いを、安藤裕が引き継いだ。
問いを受ける側に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。
これは、制度の外から制度を批判していた者が、制度の頂点へ立ったとき、どのように言葉を変えるのかという記録でもある。

2012年、彼女はすべてを知っていた

「もう、手のつけられないようなことになりますよ」
2012年。
野党時代の片山さつき議員は、消費税増税が経済へ与える影響について、強く警告していた。
住宅。
地方経済。
中小零細企業。
街の蕎麦屋。
普通の床屋。
価格を上げたくても上げられない、小さな事業者たち。

片山議員は、消費税が単なる「消費者の負担」では終わらないことを、具体的な例で指摘していた。

たとえば、街の蕎麦屋である。

今、お蕎麦屋さんは税込み630円でお蕎麦を出していますけど、660円にできますかね?

これは、単なる問いではない。

消費税の制度と市場の現実を知る者が、問いの形で提示した答えである。


全国一律の価格を持つ大手チェーンなら、まだ値上げしやすいかもしれない。
しかし、地域の客に支えられている小さな店はどうか。
街の蕎麦屋はどうか。
普通の床屋はどうか。
値上げによって客を失う可能性がある店に、「税率が上がったのだから、その分を価格へ転嫁すればよい」と簡単に言えるだろうか。

片山議員は当時、年間売上3000万円以下の中小零細企業について、5割から7割が価格転嫁できていないという調査があると述べていた。

さらに、滞納税額の約半分に当たる3400億円が消費税であるとも指摘した。

つまり、彼女は知っていた。


消費税は「価格へ転嫁されることを予定している」と説明される。

しかし現実の市場では、弱い立場の事業者ほど、その予定通りに転嫁できない。


消費税は、制度の予定と市場の現実が一致しなければ成立しない税だった。
2012年の片山さつきは、その矛盾を知っていた。

14年後、問いが戻ってきた

それから14年後。
今度は、参政党の国会議員として国政に復帰した安藤裕が、同じ問題を国会で問い始める。

答弁席に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。


安藤議員が最初に確認したのは、消費税の納税義務者である。
法律上、消費税を納める義務を負っているのは誰なのか。
消費者なのか。
事業者なのか。
答弁は明確だった。
消費税法上の納税義務者は、事業者である。
政府は消費税について、価格への転嫁を通じて、最終的には消費者が負担することを予定していると説明する。
しかし、それは経済的な負担についての予定である。
税法上の納税義務とは別の話だ。
税法上、消費者は消費税の納税義務者ではない。
消費税を申告し、納付するのは事業者である。
ここで安藤議員は、さらに問いを進めた。
消費者から受け取った消費税を税務署へ納めず、事業者が自分の利益にしているとされる、いわゆる「益税」は制度上存在するのか。
これに対して片山財務大臣は、法律上はそのような関係にはならないと答えた。
消費者は、消費税法上の納税義務者ではない。
したがって、消費者が納めるべき税金を事業者が預かり、それを国へ納めずに利益にしているという法構造にはならない。
法律上、益税は存在しない。
ここで、長年語られてきた消費税の物語が揺らぎ始める。

完全転嫁という幻想

多くの人は、消費税を次のように理解している。
まず原価がある。
そこに適正な利益を乗せる。
そして、その上に消費税10%を上乗せする。
消費者がその10%を支払い、事業者が一時的に預かり、後から税務署へ納める。
このモデルでは、消費税によって事業者の利益が削られることはない。
人件費も削られない。
消費税は売価の外側へ完全に上乗せされ、最終消費者がすべて負担するからである。
しかし、このモデルが成立するためには、強い前提が必要になる。
すべての事業者が、原価と必要な利益を確保したうえで、消費税相当額を完全に価格へ上乗せできること。
つまり、価格転嫁率100%の市場である。
もし本当に、すべての取引がこの通りに行われているなら、赤字企業はほとんど存在しない。
低賃金労働者もいない。
買いたたきもない。
利益を確保したうえで、消費税分まで価格へ上乗せできるのだから、消費税を払えずに資金繰りへ行き詰まる事業者も存在しないはずである。
だが、現実は違う。
赤字企業がある。
低賃金労働者がいる。
買いたたきがある。
価格交渉力の弱い事業者がいる。
値上げすれば客を失う店がある。
原材料費が上がっても、売価へ十分に転嫁できない事業者がいる。

「原価+適正な利益+消費税」という美しいモデルは、現実の市場を表したものではない。


それは、制度を成立させるために置かれた予定である。

赤字でも消費税が発生する理由

消費税の納付額は、大まかに次の式で計算される。

消費税

売上にかかる税額 − 仕入れにかかる税額


標準税率10%、すべて税込金額という単純なモデルなら、次のように表せる。

消費税

(課税売上 − 課税仕入)× 10/110


ここで重要なのは、法人税のように、売上からすべての費用を差し引いて利益を計算しているわけではないという点である。
給与や社会保険料、支払利息など、事業に必要な支出であっても、仕入税額控除の対象にならないものがある。
そのため、法人税上の利益が赤字であっても、

課税売上 − 課税仕入 > 0


であれば、消費税は発生する。
事業者が赤字か黒字かは、消費税の計算を止めない。
消費税は、利益ではなく、課税売上と課税仕入の差額を見ているからである。
一般に、事業者は仕入れた商品へ何らかの価値を加えて販売する。
100円で仕入れた商品を、毎回50円で売り続ける事業は成立しない。
100円の原材料を使い、50円で製品を売り続ける製造業も成立しない。
したがって、事業を継続している限り、一般には、

課税売上 − 課税仕入 > 0


となる。
企業全体では赤字でも、この差額は残り得る。

だから、赤字事業者にも消費税が発生する。


赤字でも「消費税が発生することがある」のではない。
事業が付加価値を生み出している限り、赤字でも消費税が発生する構造なのである。

付加価値の先取り

課税売上から課税仕入を差し引いたものは、概ね、その事業者が新しく生み出した付加価値に対応する。


単純化すれば、

付加価値

課税売上 − 課税仕入


さらに、その付加価値は概ね、

付加価値

利益 + 人件費


と捉えることができる。
したがって、消費税の構造は、概ね次の式で表せる。

消費税≒ 付加価値 × 10/110


さらに単純化すれば、

消費税≒(利益 + 人件費)× 10/110


となる。
ここで、何が起きているのか。

事業者が生み出した付加価値という一つのパイがある。


本来、その付加価値は、労働者の賃金と、企業の利益などに分配される。
しかし、消費税がある世界では、その分配より先に、国の取り分が決まる。

国が消費税を先に取る。


残った付加価値を、法人と労働者が分ける。
価格へ完全に転嫁できるなら、事業者の外側へ負担を押し出せるかもしれない。

しかし、価格転嫁できなければ、消費税は付加価値の内部に残る。


利益を削る。
賃上げ原資を削る。
賞与を削る。
採用を抑える。
設備投資を遅らせる。
資金繰りを圧迫する。
税負担が消えるわけではない。
負担する場所が変わるだけである。

安藤議員が述べた「賃上げする原資を持っていく前に、消費税を納税しろと言われている」という言葉は、この構造を表している。

消費税は、付加価値という一つの財布から、国が先に取り分を確保する税である。


その残りを、法人と労働者が分ける。
これが、「付加価値の先取り」である。

レシートに書かれた「内消費税」

安藤議員は、レシートの表示にも踏み込んだ。
たとえば、1100円の商品を買ったとする。
レシートには、
「内消費税100円」
と書かれている。
では、この100円は法律上、何なのか。
政府側の答弁は、次のようなものだった。
その取引について課されるべき消費税額に相当する額であり、課税資産の譲渡等の売上に対する対価の一部である。
つまり、レシートに「消費税」と書かれていても、それは消費者が税務署へ納めた税金そのものではない。
事業者が消費者から預かった税金そのものでもない。
事業者がそのまま税務署へ納付する金額でもない。

その売価で取引が成立したという事実と、その税込価格の内訳が表示されているだけである。


レシート表示からは、実際にいくら価格転嫁されたのか分からない。
事業者がいくら納付するのかも分からない。
その取引によって、事業者の利益がいくら残ったのかも分からない。

それでも、多くの人は「内消費税100円」という表示を見ることで、自分が100円の税金を納めたと認識する。


そして、事業者はその100円を預かっているだけだと考える。

ここから、「預かった税金を納めない免税事業者はずるい」という益税の物語が生まれる。


しかし、法構造は違う。
消費者は納税義務者ではない。
レシートに書かれた100円は、売上の対価の一部である。
事業者の納付額は、レシートの表示額ではなく、売上税額と仕入税額の差額によって決まる。
レシートは、価格転嫁に成功した証拠ではない。
預り金が存在する証拠でもない。
そこに記録されているのは、

「その価格で、一つの取引が成立した」


という事実である。

2012年の言葉と、2026年の言葉

2012年の片山さつき議員は、市場の現実を語った。
街の蕎麦屋は、630円を660円にできるのか。
中小零細企業は、本当に消費税を価格へ転嫁できているのか。
価格を上げられない事業者に、消費税は何をもたらすのか。
彼女は、制度の予定ではなく、現場で起きていることを見ていた。
それから14年後。
財務大臣となった片山さつきは、制度を守る側の言葉を語る。
消費税は、価格への転嫁を通じて、最終的には消費者が負担することを予定している。
消費税相当額は、適切に価格へ転嫁される。

同じ人物の中に、二つの言葉が存在する。


市場の現実を見る言葉。
制度の予定を守る言葉。
片山さつきは、なぜ言葉を変えたのか。
本当に考え方が変わったのかもしれない。
財務大臣として税制全体を守らなければならないのかもしれない。
党内の力学や、財務省との関係が影響したのかもしれない。

あるいは、本質的な認識は変わっていないまま、立場によって使用する言葉だけが変わったのかもしれない。


その答えは、本人にしか分からない。
だが、確かなことが一つある。

2012年に指摘されていた問題は、14年後も解決していない。


価格転嫁できない事業者がいる。
赤字でも消費税が発生する。
消費税の滞納が続いている。
賃上げが必要だと言いながら、賃上げ原資から先に消費税を取る構造が維持されている。

そして今も、政府は消費税を「景気に左右されにくい安定財源」と説明する。

だが、景気に左右されにくいということは、裏返せば、景気が悪くても取り続けるということである。


人々の生活が苦しくても。
企業の経営が苦しくても。
赤字でも。
資金繰りが限界でも。
付加価値が残る限り、消費税は発生する。

それを、本当に「安定」と呼んでよいのだろうか。

これは事件の記録である

14年前、片山さつきは問いを残した。
そして今、安藤裕がその問いを引き継いだ。
問いを受ける側に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。
2012年の片山さつきは、市場の現実を語った。
2026年の片山財務大臣は、制度の予定を語った。
変わったのは、市場ではない。

彼女が座る椅子だった。


制度の外から市場を見れば、価格転嫁できない事業者が見える。
制度の頂点から税制を見れば、「円滑かつ適正に転嫁されることを予定している」という説明になる。
事実が変わったのではない。
観測する位置によって、使用する言葉が変わった。

制度という怪異の頂点に座った者は、その構造を守るための部品として再定義される。

14年前の彼女の言葉が正しければ正しいほど、現在の答弁は、この国の政治が市場の現実よりも制度の維持を選んだことの証明になる。

これは、片山さつき一人の変節を責める物語ではない。


誰がその椅子へ座っても、同じ言葉を語らざるを得ないのだとしたら、問題は個人ではなく構造にある。
だから、問いに向き合わなければならないのは、彼女だけではない。

その変節を制度の「仕様」として受け入れ、今日もレジの音を聞き流している、私たち自身である。

失われた30年をもたらしたのは、果たして誰なのだろうか。


これは、事業者だけの問題ではない

3割特例の先で、すべての事業者が増税になるわけではない。
しかし、第4種・第5種・第6種の簡易課税へ移る事業者や、本則課税で仕入控除率が70%を下回る事業者は、3割特例よりも税負担が増える。
財務省モデルなら、その負担はこう動く。
10万円。
15万円。
そして、業種によっては、
20万円。25万円。30万円。
価格転嫁できれば、取引先や消費者の負担が増える。
価格転嫁できなければ、事業者の所得、貯蓄、設備投資、そして生活費が削られる。

どちらに転んでも、新しく生まれた付加価値ではない。

付加価値は増えない。
税負担だけが増える。

その負担に耐えられなくなった事業者は、やがて市場から消えていく。

消えるのは、帳簿の上の「免税事業者」ではない。
街の店である。
地域の職人である。
荷物を運ぶ人である。
企業の仕事を裏側で支える、ライター、デザイナー、エンジニア、カメラマン、清掃員、外注スタッフである。
市場から供給者が消えれば、商品も、サービスも、技術も、雇用も、消費者の選択肢も失われる。

これは、誰が消費税を納めるかというだけの話ではない。

日本の市場から、誰を消すのかという話である。

みおは、街を見た。
暖簾の向こうで、店主が会計端末を操作していた。
税込630円の蕎麦を、660円にできないまま。
やがて、小さな電子音が鳴った。
ピッ。
みお:
「救済が終わったら、さらに増税されるの?」

あおい:
「本人の労働で付加価値を生み出している事業者ほど、その可能性がある。」

みお:
「それ、救済じゃないわ。」

「増税を、少しずつ見せているだけじゃないの!」

3割特例は、終着点ではない。
その先には、通常の課税へ移行するための次の段階が待っている。

この事実を、まだ多くの小規模事業者は知らない。

もし、あなたの周りにインボイス登録した個人事業主や、小さな会社を営む人がいるなら、この記事を届けてほしい。

賛成か反対かを決める前に、まず、自分の税負担がこれからどう変わるのかを知ってほしい。

タイマーは、すでに動いている。
ピッ。

その音は今日も、誰かの生活を削り、誰かの事業を市場から消していく音だった。


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