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【71回目noteマネー掲載】第百十一章:消費税―食料品減税のゼロサムゲーム―

第百十一章:消費税―食料品減税のゼロサムゲーム

【彼女は全てを知っていた。】

【制度側の自白と、14年越しの答え合わせ】

ここから先は、もはや単なる議論ではない。
国会という公の場で、制度を運用する側が【自由主義経済においては、価格はきれいに転嫁されない】と自ら認めた【事件】の記録である。
片山さつきが残した問いを、安藤裕が引き継ぎ、そしてついに【決着】へと導いた瞬間を見てほしい。


――減税したのに、税収が減らない――


夜。

みおは、国会動画を見ていた。

画面の向こうでは、安藤裕議員と片山さつき財務大臣が、食料品の消費税減税について議論している。

安藤議員が聞いた。

食料品の消費税率を下げると、飲食店が仕入れた食料品について控除できる消費税額も減る。

では、

飲食店の税負担は増えるのではないか。

片山財務大臣は、その構造を認めた。

食料品の仕入先に支払う消費税相当分が減れば、その分、飲食店が仕入税額控除できる額も減る。

その結果、

飲食店自身が納税する金額は増えうる。

さらに安藤議員は聞いた。

食料品の税率を下げれば、商品の価格も税率分だけ必ず下がるのか。

片山財務大臣の答えは、

必ずしもそうではない。

価格への反映がどこまで起きるかは、実体経済による。

みおは動画を止めた。

みお:
「……ちょっと待って。」

あおい:
「どうしたの?」

みお:
「食料品の価格は、減税分だけ必ず下がるわけじゃないのよね?」

あおい:
「うん。」

みお:
「でも、飲食店の仕入税額控除は減る。」

あおい:
「うん。」

みおは画面を見つめた。

みお:
「……これ、最後まで計算したらどうなるの?」


まず、食料品8%の世界

難しい話はいったん全部置いておこう。

見るのは、

食品会社 → 飲食店 → お客さん

この三者だけ。

食品会社が飲食店へ、食料品を税込540円で売る。

飲食店は、それを料理にして、税込1,100円でお客さんへ売る。

食料品の税率は8%。

外食は10%。

まず、食品会社側を見る。

540円に含まれる消費税額は、

540円 × 8/108
40円

つまり、

食品会社 40円

次に飲食店。

1,100円の売上に対応する消費税額は、

1,100円 × 10/110
100円

ただし飲食店は、食品会社から仕入れたときの40円を仕入税額控除できる。

だから、

100円-40円
60円

つまり、

飲食店 60円

食品会社と飲食店を合わせると、

40円+60円
100円

国へ入る税額は、

100円

ここまでは普通だ。


食料品を8%から1%へ減税してみよう

次に、食料品の税率だけを、

8% → 1%

へ下げる。

今回は、制度の動きだけを見るため、

食品会社から飲食店への税込価格540円

飲食店から客への税込価格1,100円

は変わらないとする。

なぜ、こんな仮定を置くのか。

理由は単純だ。

片山財務大臣自身が、

食料品の税率を下げても、商品の価格が税率分だけ必ず下がるわけではない

という趣旨を認めているからだ。

原材料費。

電気代。

物流費。

人件費。

為替。

競争環境。

商品の価格を決めるものは、消費税だけではない。

だから今回は、

価格はそのまま。

税率だけを変える。

そうして、税制そのものが何を動かすのかを見る。


食品会社は減税される

食料品1%なら、

540円に含まれる消費税額は、

540円 × 1/101
5.35円

食品会社側は、

40円 → 5.35円

になる。

差額は、

-34.65円

つまり、

食品会社は34.65円の減税

みおが少し笑った。

みお:
「ちゃんと減税されてるじゃない♪」

あおいが答える。

あおい:
「食品会社だけ見ればね。」

みお:
「……だけ?」


今度は、飲食店を見てみよう

飲食店の売価は1,100円のまま。

だから、売上側の消費税額は、

100円

で変わらない。

ところが、

仕入税額控除は変わる。

食料品8%のときは、

40円

控除できた。

食料品1%になると、

5.35円

しか控除できない。

だから飲食店の納付額は、

100円-5.35円
94.65円

になる。

つまり、

60円 → 94.65円

差額は、

+34.65円

飲食店は、

34.65円の増税

になる。

みおの笑顔が止まった。

みお:
「……あれ?」


あおいは数字を並べた。

食品会社

40円 → 5.35円

34.65円減税

飲食店

60円 → 94.65円

34.65円増税

みおは、しばらく数字を見ていた。

そして。

みお:
「ねぇ、あおい。」

あおい:
「うん。」

みお:
「食品会社の税金が、飲食店の消費税に移動してない?」


同じ34.65円

食品会社で減った税額。

34.65円

飲食店で増えた税額。

34.65円

同じ金額だ。

これは偶然ではない。

食品会社から見れば、

540円は売上

飲食店から見れば、

同じ540円は仕入

つまり、

食品会社側の売上税額と、

飲食店側の仕入税額控除は、

同じ取引を表と裏から見ている。


食料品の税率を下げれば、

食品会社側の税額が減る。

その瞬間、

飲食店が控除できる前段階の税額も減る。

だから、

食品会社 -34.65円
飲食店 +34.65円

になる。


「仕入先へ払うか、自ら納税するか」

ここで、

片山財務大臣の答弁が意味を持ってくる。

趣旨を簡単にすると、

仕入先へ消費税相当分として支払うのか、飲食店自身が納税するのかの違い

という整理だった。

これを数字にすると、こうなる。

食料品8%

食品会社 40円

飲食店 60円

合計 100円

食料品1%

食品会社 5.35円

飲食店 94.65円

合計 100円

みおが首をかしげる。

みお:
「つまり……。」

少し考える。

みお:
「お父さんが40円、お母さんが60円払っていたのが……。」

あおい:
「減税後は、お父さん5.35円、お母さん94.65円。」

みお:
「お父さんは34.65円減税。」

あおい:
「その分、お母さんが34.65円増える。」

みお:
「家族全体では?」

あおい:
「100円。」

みおが固まった。


運営の税収は?

みおは恐る恐る聞いた。

みお:
「……じゃあ、運営の税収は?」

あおいは答えた。

食料品8%。

40円+60円=100円

食料品1%。

5.35円+94.65円=100円

そして。

あおい:
「飲食店の売上が同じなら……。」

少し間を置く。

あおい:
「定額サブスクだ。」

みお:
「運営ぃぃぃぃぃ!!」


食料品減税のゼロサムゲーム

もう一度、簡単に整理しよう。

食品会社

40円 → 5.35円

34.65円の減税

飲食店

60円 → 94.65円

34.65円の増税

100円 → 100円

税収は変わらない

つまり、この単純モデルでは、

食品会社 -34.65円

飲食店 +34.65円


国 ±0円

となる。

減税分が消えたわけではない。

食品会社で減った税額と同額が、

飲食店の仕入税額控除から消えた。

その結果、

飲食店自身が納税する金額が増えた。


なぜ、こんなことが起きるのか

理由は、

消費税の計算式そのものにある。

簡略化すれば、

売上税額-仕入税額控除=納付税額

である。

食料品の税率を下げれば、

食品会社の売上税額が減る。

しかし、それは同時に、

飲食店から見れば、

前段階で控除できる税額が減る

ということでもある。

だから、

食品会社の税額が減る

飲食店の仕入税額控除が減る

飲食店の納付額が増える

という現象が起きる。

VATが壊れたわけではない。

むしろ逆だ。

VATが正常に動いているから、こうなる。


でも、食料品の価格が下がればいいんじゃない?

もちろん、

食料品の価格そのものが大きく下がれば、

結果は変わる。

しかし、

ここで最初の片山財務大臣の答弁へ戻る。

食料品の税率を下げても、

その分だけ価格が必ず下がるわけではない。

税率は制度が決める。

しかし価格は、

原材料費、

電気代、

物流費、

人件費、

為替、

需要、

競争環境、

さまざまな条件の中で決まる。

だから、

仕入税額控除が減ることは制度上起きる。

価格が同額下がることは保証されていない。

ここにズレが生まれる。


減税とは何だったのか

今回の540円、1,100円という数字は、

制度の構造を見るための単純モデルである。

現実には、

価格も動く。

販売数量も動く。

仕入先も変わる。

需要も変わる。

だから、

食料品を減税すれば、国全体の税収が必ず変わらない

と言っているわけではない。

しかし、

このモデルが示していることは重要だ。

食料品の税率を下げる
減税額がそのまま消費者へ届く

ではない。

そして、

上流事業者の減税

が、

下流事業者の仕入税額控除減少

として現れることがある。

片山財務大臣が認めた構造を、

最後まで計算しただけである。


みお、街を見る

動画を閉じて、

みおは街へ出た。

夕方。

一台のトラックが、

小さな定食屋の前で止まった。

裏口から、

段ボール箱が運び込まれる。

肉。

野菜。

米。

油。

調味料。

店主が伝票を受け取る。

厨房では、

若い従業員が仕込みをしていた。

やがて店が開く。

客が入る。

料理が運ばれる。

誰も、

仕入税額控除なんて見ていない。

食品会社がいくら納税したのかも見えない。

飲食店がいくら納税するのかも、

客には分からない。

でも、

数字の裏では、

40円 → 5.35円

そして、

60円 → 94.65円

さらに、

100円 → 100円

みおは店の外から、

明るい店内を眺めた。

みお:
「食料品は、減税されたのよね……。」

食品会社の税金は減った。

その分、

飲食店が控除できる税額も減った。

価格がその分下がる保証はない。

そして、

飲食店自身の納付額は増えうる。

店員が会計を始めた。

ピッ。

みおは、

さっきの数字を思い出した。

食品会社 -34.65円

飲食店 +34.65円


国 ±0円

もう一度。

ピッ。

減税したはずなのに、

負担は消えない。

ただ、

場所を変える。

小さな店は、

今日も営業を続けている。

ピッ。

その音は今日も、

誰かの事業を削る音だった。


※本稿の540円・1,100円の例は、食料品の税率変更による仕入税額控除の動きを分かりやすく示すため、税込取引価格や販売価格などを固定した単純モデルです。現実の価格、販売量、仕入構成、課税方式などが変化すれば、実際の納税額や税収も変動します。


【14年越しの答え合わせ】片山さつきが残した問いを、安藤裕が引き継いだ

参考動画:

【彼女は全てを知っていた。】

【制度側の自白と、14年越しの答え合わせ】


ここから先は、あえて繰り返す。
なぜなら、これは単なる国会質疑ではないからだ。
消費税という制度が前提としてきた「円滑かつ適正な価格転嫁」と、現実の市場で起きていること。
その二つが、国会という公の場で正面から衝突した「事件」の記録だからである。
自由主義経済において、価格は制度の予定通りには動かない。
原価が上がったからといって、その全額を価格へ転嫁できるとは限らない。
消費税率が上がったからといって、その分だけ売価を上げられるとも限らない。
価格転嫁できなくても、消費税の負担は消えない。
事業者の利益、賃金、賞与、投資、資金繰りへと移っていく。

その瞬間、消費税の問題は「価格転嫁」の問題ではなく、税金コストを誰に負わせるかという問題へ変わる。


2012年。
一人の政治家が、その危険性を国会で指摘していた。
片山さつき議員である。
そして14年後。
片山さつきが残した問いを、安藤裕が引き継いだ。
問いを受ける側に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。
これは、制度の外から制度を批判していた者が、制度の頂点へ立ったとき、どのように言葉を変えるのかという記録でもある。

2012年、彼女はすべてを知っていた

「もう、手のつけられないようなことになりますよ」
2012年。
野党時代の片山さつき議員は、消費税増税が経済へ与える影響について、強く警告していた。
住宅。
地方経済。
中小零細企業。
街の蕎麦屋。
普通の床屋。
価格を上げたくても上げられない、小さな事業者たち。

片山議員は、消費税が単なる「消費者の負担」では終わらないことを、具体的な例で指摘していた。

たとえば、街の蕎麦屋である。

今、お蕎麦屋さんは税込み630円でお蕎麦を出していますけど、660円にできますかね?

これは、単なる問いではない。

消費税の制度と市場の現実を知る者が、問いの形で提示した答えである。


全国一律の価格を持つ大手チェーンなら、まだ値上げしやすいかもしれない。
しかし、地域の客に支えられている小さな店はどうか。
街の蕎麦屋はどうか。
普通の床屋はどうか。
値上げによって客を失う可能性がある店に、「税率が上がったのだから、その分を価格へ転嫁すればよい」と簡単に言えるだろうか。

片山議員は当時、年間売上3000万円以下の中小零細企業について、5割から7割が価格転嫁できていないという調査があると述べていた。

さらに、滞納税額の約半分に当たる3400億円が消費税であるとも指摘した。

つまり、彼女は知っていた。


消費税は「価格へ転嫁されることを予定している」と説明される。

しかし現実の市場では、弱い立場の事業者ほど、その予定通りに転嫁できない。


消費税は、制度の予定と市場の現実が一致しなければ成立しない税だった。
2012年の片山さつきは、その矛盾を知っていた。

14年後、問いが戻ってきた

それから14年後。
今度は、参政党の国会議員として国政に復帰した安藤裕が、同じ問題を国会で問い始める。

答弁席に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。


安藤議員が最初に確認したのは、消費税の納税義務者である。
法律上、消費税を納める義務を負っているのは誰なのか。
消費者なのか。
事業者なのか。
答弁は明確だった。
消費税法上の納税義務者は、事業者である。
政府は消費税について、価格への転嫁を通じて、最終的には消費者が負担することを予定していると説明する。
しかし、それは経済的な負担についての予定である。
税法上の納税義務とは別の話だ。
税法上、消費者は消費税の納税義務者ではない。
消費税を申告し、納付するのは事業者である。
ここで安藤議員は、さらに問いを進めた。
消費者から受け取った消費税を税務署へ納めず、事業者が自分の利益にしているとされる、いわゆる「益税」は制度上存在するのか。
これに対して片山財務大臣は、法律上はそのような関係にはならないと答えた。
消費者は、消費税法上の納税義務者ではない。
したがって、消費者が納めるべき税金を事業者が預かり、それを国へ納めずに利益にしているという法構造にはならない。
法律上、益税は存在しない。
ここで、長年語られてきた消費税の物語が揺らぎ始める。

完全転嫁という幻想

多くの人は、消費税を次のように理解している。
まず原価がある。
そこに適正な利益を乗せる。
そして、その上に消費税10%を上乗せする。
消費者がその10%を支払い、事業者が一時的に預かり、後から税務署へ納める。
このモデルでは、消費税によって事業者の利益が削られることはない。
人件費も削られない。
消費税は売価の外側へ完全に上乗せされ、最終消費者がすべて負担するからである。
しかし、このモデルが成立するためには、強い前提が必要になる。
すべての事業者が、原価と必要な利益を確保したうえで、消費税相当額を完全に価格へ上乗せできること。
つまり、価格転嫁率100%の市場である。
もし本当に、すべての取引がこの通りに行われているなら、赤字企業はほとんど存在しない。
低賃金労働者もいない。
買いたたきもない。
利益を確保したうえで、消費税分まで価格へ上乗せできるのだから、消費税を払えずに資金繰りへ行き詰まる事業者も存在しないはずである。
だが、現実は違う。
赤字企業がある。
低賃金労働者がいる。
買いたたきがある。
価格交渉力の弱い事業者がいる。
値上げすれば客を失う店がある。
原材料費が上がっても、売価へ十分に転嫁できない事業者がいる。

「原価+適正な利益+消費税」という美しいモデルは、現実の市場を表したものではない。


それは、制度を成立させるために置かれた予定である。

赤字でも消費税が発生する理由

消費税の納付額は、大まかに次の式で計算される。

消費税

売上にかかる税額 − 仕入れにかかる税額


標準税率10%、すべて税込金額という単純なモデルなら、次のように表せる。

消費税

(課税売上 − 課税仕入)× 10/110


ここで重要なのは、法人税のように、売上からすべての費用を差し引いて利益を計算しているわけではないという点である。
給与や社会保険料、支払利息など、事業に必要な支出であっても、仕入税額控除の対象にならないものがある。
そのため、法人税上の利益が赤字であっても、

課税売上 − 課税仕入 > 0


であれば、消費税は発生する。
事業者が赤字か黒字かは、消費税の計算を止めない。
消費税は、利益ではなく、課税売上と課税仕入の差額を見ているからである。
一般に、事業者は仕入れた商品へ何らかの価値を加えて販売する。
100円で仕入れた商品を、毎回50円で売り続ける事業は成立しない。
100円の原材料を使い、50円で製品を売り続ける製造業も成立しない。
したがって、事業を継続している限り、一般には、

課税売上 − 課税仕入 > 0


となる。
企業全体では赤字でも、この差額は残り得る。

だから、赤字事業者にも消費税が発生する。


赤字でも「消費税が発生することがある」のではない。
事業が付加価値を生み出している限り、赤字でも消費税が発生する構造なのである。

付加価値の先取り

課税売上から課税仕入を差し引いたものは、概ね、その事業者が新しく生み出した付加価値に対応する。


単純化すれば、

付加価値

課税売上 − 課税仕入


さらに、その付加価値は概ね、

付加価値

利益 + 人件費


と捉えることができる。
したがって、消費税の構造は、概ね次の式で表せる。

消費税≒ 付加価値 × 10/110


さらに単純化すれば、

消費税≒(利益 + 人件費)× 10/110


となる。
ここで、何が起きているのか。

事業者が生み出した付加価値という一つのパイがある。


本来、その付加価値は、労働者の賃金と、企業の利益などに分配される。
しかし、消費税がある世界では、その分配より先に、国の取り分が決まる。

国が消費税を先に取る。


残った付加価値を、法人と労働者が分ける。
価格へ完全に転嫁できるなら、事業者の外側へ負担を押し出せるかもしれない。

しかし、価格転嫁できなければ、消費税は付加価値の内部に残る。


利益を削る。
賃上げ原資を削る。
賞与を削る。
採用を抑える。
設備投資を遅らせる。
資金繰りを圧迫する。
税負担が消えるわけではない。
負担する場所が変わるだけである。

安藤議員が述べた「賃上げする原資を持っていく前に、消費税を納税しろと言われている」という言葉は、この構造を表している。

消費税は、付加価値という一つの財布から、国が先に取り分を確保する税である。


その残りを、法人と労働者が分ける。
これが、「付加価値の先取り」である。

レシートに書かれた「内消費税」

安藤議員は、レシートの表示にも踏み込んだ。
たとえば、1100円の商品を買ったとする。
レシートには、
「内消費税100円」
と書かれている。
では、この100円は法律上、何なのか。
政府側の答弁は、次のようなものだった。
その取引について課されるべき消費税額に相当する額であり、課税資産の譲渡等の売上に対する対価の一部である。
つまり、レシートに「消費税」と書かれていても、それは消費者が税務署へ納めた税金そのものではない。
事業者が消費者から預かった税金そのものでもない。
事業者がそのまま税務署へ納付する金額でもない。

その売価で取引が成立したという事実と、その税込価格の内訳が表示されているだけである。


レシート表示からは、実際にいくら価格転嫁されたのか分からない。
事業者がいくら納付するのかも分からない。
その取引によって、事業者の利益がいくら残ったのかも分からない。

それでも、多くの人は「内消費税100円」という表示を見ることで、自分が100円の税金を納めたと認識する。


そして、事業者はその100円を預かっているだけだと考える。

ここから、「預かった税金を納めない免税事業者はずるい」という益税の物語が生まれる。


しかし、法構造は違う。
消費者は納税義務者ではない。
レシートに書かれた100円は、売上の対価の一部である。
事業者の納付額は、レシートの表示額ではなく、売上税額と仕入税額の差額によって決まる。
レシートは、価格転嫁に成功した証拠ではない。
預り金が存在する証拠でもない。
そこに記録されているのは、

「その価格で、一つの取引が成立した」


という事実である。

2012年の言葉と、2026年の言葉

2012年の片山さつき議員は、市場の現実を語った。
街の蕎麦屋は、630円を660円にできるのか。
中小零細企業は、本当に消費税を価格へ転嫁できているのか。
価格を上げられない事業者に、消費税は何をもたらすのか。
彼女は、制度の予定ではなく、現場で起きていることを見ていた。
それから14年後。
財務大臣となった片山さつきは、制度を守る側の言葉を語る。
消費税は、価格への転嫁を通じて、最終的には消費者が負担することを予定している。
消費税相当額は、適切に価格へ転嫁される。

同じ人物の中に、二つの言葉が存在する。


市場の現実を見る言葉。
制度の予定を守る言葉。
片山さつきは、なぜ言葉を変えたのか。
本当に考え方が変わったのかもしれない。
財務大臣として税制全体を守らなければならないのかもしれない。
党内の力学や、財務省との関係が影響したのかもしれない。

あるいは、本質的な認識は変わっていないまま、立場によって使用する言葉だけが変わったのかもしれない。


その答えは、本人にしか分からない。
だが、確かなことが一つある。

2012年に指摘されていた問題は、14年後も解決していない。


価格転嫁できない事業者がいる。
赤字でも消費税が発生する。
消費税の滞納が続いている。
賃上げが必要だと言いながら、賃上げ原資から先に消費税を取る構造が維持されている。

そして今も、政府は消費税を「景気に左右されにくい安定財源」と説明する。

だが、景気に左右されにくいということは、裏返せば、景気が悪くても取り続けるということである。


人々の生活が苦しくても。
企業の経営が苦しくても。
赤字でも。
資金繰りが限界でも。
付加価値が残る限り、消費税は発生する。

それを、本当に「安定」と呼んでよいのだろうか。

これは事件の記録である

14年前、片山さつきは問いを残した。
そして今、安藤裕がその問いを引き継いだ。
問いを受ける側に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。
2012年の片山さつきは、市場の現実を語った。
2026年の片山財務大臣は、制度の予定を語った。
変わったのは、市場ではない。

彼女が座る椅子だった。


制度の外から市場を見れば、価格転嫁できない事業者が見える。
制度の頂点から税制を見れば、「円滑かつ適正に転嫁されることを予定している」という説明になる。
事実が変わったのではない。
観測する位置によって、使用する言葉が変わった。

制度という怪異の頂点に座った者は、その構造を守るための部品として再定義される。

14年前の彼女の言葉が正しければ正しいほど、現在の答弁は、この国の政治が市場の現実よりも制度の維持を選んだことの証明になる。

これは、片山さつき一人の変節を責める物語ではない。


誰がその椅子へ座っても、同じ言葉を語らざるを得ないのだとしたら、問題は個人ではなく構造にある。
だから、問いに向き合わなければならないのは、彼女だけではない。

その変節を制度の「仕様」として受け入れ、今日もレジの音を聞き流している、私たち自身である。

失われた30年をもたらしたのは、果たして誰なのだろうか。


これは、事業者だけの問題ではない

3割特例の先で、すべての事業者が増税になるわけではない。
しかし、第4種・第5種・第6種の簡易課税へ移る事業者や、本則課税で仕入控除率が70%を下回る事業者は、3割特例よりも税負担が増える。
財務省モデルなら、その負担はこう動く。
10万円。
15万円。
そして、業種によっては、
20万円。25万円。30万円。
価格転嫁できれば、取引先や消費者の負担が増える。
価格転嫁できなければ、事業者の所得、貯蓄、設備投資、そして生活費が削られる。

どちらに転んでも、新しく生まれた付加価値ではない。

付加価値は増えない。
税負担だけが増える。

その負担に耐えられなくなった事業者は、やがて市場から消えていく。

消えるのは、帳簿の上の「免税事業者」ではない。
街の店である。
地域の職人である。
荷物を運ぶ人である。
企業の仕事を裏側で支える、ライター、デザイナー、エンジニア、カメラマン、清掃員、外注スタッフである。
市場から供給者が消えれば、商品も、サービスも、技術も、雇用も、消費者の選択肢も失われる。

これは、誰が消費税を納めるかというだけの話ではない。

日本の市場から、誰を消すのかという話である。

みおは、街を見た。
暖簾の向こうで、店主が会計端末を操作していた。
税込630円の蕎麦を、660円にできないまま。
やがて、小さな電子音が鳴った。

ピッ。

みお:
「救済が終わったら、さらに増税されるの?」

あおい:
「本人の労働で付加価値を生み出している事業者ほど、その可能性がある。」

みお:
「それ、救済じゃないわ。」

「増税を、少しずつ見せているだけじゃないの!」


3割特例は、終着点ではない。

その先には、通常の課税へ移行するための次の段階が待っている。

この事実を、まだ多くの小規模事業者は知らない。

もし、あなたの周りにインボイス登録した個人事業主や、小さな会社を営む人がいるなら、この記事を届けてほしい。

賛成か反対かを決める前に、まず、自分の税負担がこれからどう変わるのかを知ってほしい。

タイマーは、すでに動いている。

ピッ。

その音は今日も、誰かの生活を削り、誰かの事業を市場から消していく音だった。


《人気マガジン》

【土を育てる。】

※この連載は、家庭菜園から国土再生までを、【土を育てる】という一つの視点でつなげて考える物語です。雑草、落ち葉、水、有機物、放棄地、林業、地方――。身近な庭の話を入口に、土が人と地域を支える仕組みを、実際に使える形で書いています。

【みおとあおい】消費税怪異譚

※消費税とは何か。 レシート、預り金、価格転嫁、輸出還付金、インボイス――。 国会答弁や制度構造をもとに、みおとあおいが消費税の怪異を観測し、その真名を解き明かしていくシリーズです。

【日本が貧しくなった本当の理由】

※日本が貧しくなったのは、努力不足ではない。家計の手取りと消費を削り、企業の売上・投資を細らせてきた制度の積み重ねがある。消費税、社会保険料、緊縮財政、PB黒字化、インボイス。それらを一つの経済構造として読み解くマガジンです。

【人気記事】

<消費税―食料品減税の皮算用>

※【68回目noteマネー掲載】第百八章:消費税―食料品減税の皮算用は、こちらを参照

<食料品減税で、飲食店が増税になる!?>

※【67回目noteマネー掲載】第百七章:消費税―食料品減税で、飲食店が増税になる!?は、こちらを参照

<消費税―108円の大根は101円になるのか>

※【66回目noteマネー掲載】第百六章:消費税―108円の大根は101円になるのか―は、こちらを参照

<消費税―税金の保証人>

※【65回目noteマネー掲載】第百五章:消費税―税金の保証人―は、こちらを参照

<消費税―彼女は全てを知っていた>

※【60回目noteマネー掲載】第百章:消費税―彼女は全てを知っていた―は、こちらを参照

<消費税―大統一理論>

※【52回目noteマネー掲載】第九十二章:消費税―大統一理論は、こちらを参照

<付加価値の先取り―二人のカタヤマ>

※【みおとあおい】第九十一章:消費税―付加価値の先取り―二人のカタヤマは、こちらを参照


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