画布に柘榴
先輩の視線がキャンバスではなく自分の横顔に注がれていることに気づき、表情を作り直した。
「これじゃ、無意味ですよね」
僕が繕うように笑うと、先輩は「そう?」と首を傾げ、窓枠に手をかけた。
締め切られた窓からは、のっぺりとした白塗りの研究棟の壁が見える。
不規則に走る亀裂に沿って、午後の陽射しがつたい落ちている。
先輩の目線が自分から完全に外れたことを確認し、ようやく頬を緩めた。
「だってこれ、逸脱どころか完全無視じゃないですか。」
鉛筆書きの無花果の実はクリムゾン・レーキの柘榴に、微笑む女は眠れる黒猫に変わっている。
僕は全身が脱力していくのを感じた。
全身の関節が緩み、身体そのものが音もなく崩れていくようなあの感覚。
「決意が揺らぐんですよ。これでいい、このまま進もう、なんて決めるのに。」
視線を感じ、再び頬に力を込める。
喉奥が熱い。
努めて笑うと声は表情を失くし、無感情の時ほど声はよく笑う。
僕の悪い癖だ。
逆さまになっていく感情が脳を騙し、喉の奥から灼けるような熱さが這うように広がっていく。
「いいんじゃない?」
先輩は真新しい鉛筆を僕にかざし、片目を閉じた。
難しいらしい。
ひどくしかめっつらだ。
「枠がなければ、はみ出せない。軌道がなければ常軌を逸せない。道がなければ……」
そんなようなことを言いながら先輩は窓枠の下にキャプションを貼り付けた。
──なんの変哲もない風景
三年 深澤清香──
そこから先の記憶がない。
何の変哲もない風景を切り出す窓は開け放たれ、湿り、膨張したような風が吹き込んでいる。
先輩の姿はもうなくて、ただ、キャプションだけが残されていた。
僕はボロ切れで筆をしごきながら、ただぼんやりとして松脂油の匂いを嗅いでいる。
「律、終わった?」
「うん、とりあえずは。」
このキャンバスがある限り、僕の意識はうわずったまま、意味のない饒舌を静かに続けていくのだろう。
【習作】です。
私事ですが今週、予定が立て込んでおりましてですね、ストックもなければ執筆時間もなく、何時間も車に揺られ、頭は何もみせてくれず。
というわけでメモを掘り起こしたらこんなのが出てきたので肉付けしてみた。
が、何なのかわからない。
私もかつて油彩をやっていた時期があるけれども、なんだかよくわからない。
今日こそ何かしらの続きが書きたい。
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連載中はこの三本。
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富士急ハイランドのコニファーフォレストが舞台です。
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川端康成と遊ぼう。
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たくさん読んでいただきありがとうございます。
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こんなのもある。
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ゆきお様・解説
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お・ぬ・し