変化と成長痛のその先へ──タノムが守り続ける思想と子会社化で広がる可能性
タノムは、2018年に創業したBtoB SaaS「TANOMU」を提供するスタートアップです。"卸業者と飲食店の受発注をシンプルに”することを目指しています。2024年に上場企業のインフォマートの子会社となり、組織体制や働き方にも変化が訪れました。
それでも、創業時から大切にしてきた思想は変わっていません。本記事では代表・川野秀哉が創業の原点、プロダクトの現在地、今後の展望を率直に語ります。
創業当時の思いについては、6年前のnoteをご覧ください。

タノムの変わらない思想──原点から語る“挑戦の理由”
私たちが挑むのは、「人間が生み出す価値を最大化すること」です。創造性を必要としない単純作業はテクノロジーに任せ、人はより複雑で本質的な仕事に時間を使えるようにする。“時間創出”こそが「TANOMU」の存在意義だと考えています。
この考えの原点にあるのは、当時お世話になっていたお客様先で目の当たりにした”非効率さ”です。FAXで届いた注文書を手作業で転記し、夜中に事務所へ出向く。雑務に追われるあまり、本来注ぐべき「新しい食材やメニューの提案」「旬や流行の情報提供」「顧客トレンドに基づいた営業活動」に時間を割けないのが卸業者の現実でした。この状況を少しでも変えたいと思い、私たちは「TANOMU」を作りました。
でも、道のりは平坦ではありませんでした。イタリア食材の流通から始まり、野菜、総合卸、食肉、輸入、アルコール、飲料へと領域を広げてきましたが、支援できているのは業務用食材を扱う卸業者と飲食店舗間の受発注が中心です。メーカー、一次卸・二次卸、小売など、それぞれの商習慣や課題は異なり、未解決の領域は数多く残されています。
この課題に向き合うために、私たちは食品業界全体を一気に変えることを目指すのではなく、一社一社のお客様に深く向き合い、着実に課題を解決する道を選びました。その積み重ねから共通項を見つけ、機能へ昇華し、他の業態へと横展開していく。小さな解決の連鎖こそが、やがて業界全体を動かす力につながると信じています。
タノムが創業以来大切にしている軸
売り手ファースト——タノムが選んだ成長の道
創業当時、買い手向けのサービスは数多くあっても、卸業者といった売り手に寄り添う仕組みはほとんどありませんでした。そこで、私たちは、売り手——特に中小企業や個人商店を中心とする卸業者の困りごとに徹底的に向き合うことにしました。
お客様の現場の効率化を進めるなかで、副次的に販売促進につながる機能も育っていきました。しかしそれは、「お客様の売上を伸ばすことで導入を後押ししよう」という発想からではありません。お客様の課題にどう応えるかを突き詰めていった延長線上で形になったものです。
たとえば、コロナ禍で対面営業が制限されたため、「どうすればデジタル上で提案活動を再現できるか」を突き詰めました。商品の見せ方を工夫し、検索性を高めたことで提案の幅が格段に向上。”ついで買い”が生まれたり、これまで埋もれていた商品に光が当たるようになりました。
あくまでお客様の現場の課題解決にこだわり、その積み重ねの結果としてお客様の売上に貢献し、導入社数の向上につながってきました。
今では中小規模の卸業者からナショナルブランドのエンタープライズ企業まで、幅広い売り手に利用されるサービスへと成長しました。利用地域も北海道から沖縄、さらには一部離島にまで広がり、日本全国ほぼすべてを網羅しています。
成長のステージが劇的に変わってきました。けれど、今もなお変わらないことがあります。それは、「新しい機能は売り手の現場から生まれる」というスタンスです。買い手の利便性を大切にしつつ、これからも常に売り手を起点に支援の幅を広げていきます。
合理性が支える“誰にでも直感的に使えるUI”
私たちが一貫して大切にしているのは、”デジタルに対するアレルギーを起こさせないシンプルなUI設計”です。毎週のように新機能をリリースしているため機能数は膨大です。けれども、すべてを画面上に並べるのではなく、階層を整理して必要なものだけを表示し、余計なノイズを取り除いています。
他にも使いやすさを高める工夫の一つに、LINEから受発注できる仕組みが挙げられます。パソコンを使わないお客様も多いため、日常的に使い慣れたLINEを活用することで、アプリに不慣れな方でも抵抗なく操作できます。この導入のハードルの低さこそが、「TANOMU」の成長を後押しした理由の一つだと思います。
また、UIのシンプルさを守り続けるために、開発チームとビジネスサイドは常に共創しプロダクトを磨き込んでいます。その際、重視しているのは次の3つの視点です。
お客様の声の背景を捉え、本質的な解決策を反映する
特定のお客様しか使わない機能は開発しない
アナログ業務を単純にデジタル化せず商習慣を理解したうえで最適化する
ITの常識を一方的に押し付けるのではなく、現場の習慣に寄り添いながら最適化する。ただし、特定のお客様しか使われない機能には効率化できる可能性があるため、その場合は機能追加ではなく、適した業務フローを提案する。この“寄り添いと踏み込んだ提案のバランス”こそが、私たちの考える合理性です。
粘り強く本質的な解決を求める姿勢が”誰でも直感的に使えるUI”を支え、長く信頼される基盤につながっています。
開発チームとビジネスサイドの共創の様子については、以下の記事をご覧ください。
子会社化への背景——インフラとしての責任に向き合った結果
タノムは健全経営を大切にし、地に足のついた成長を続けてきました。けれどコロナ禍で状況は一変。関東を中心に広がっていたシェアが、全国規模で受発注のデジタル化を求められる状況に。これまでのペースでは限界があり、一段上のステージに進む決断が求められました。
その答えが、資本業務提携をしていたインフォマートのグループ会社になることでした。この決断の根底にあったのは、「社会の受発注インフラになりつつある」という使命感です。ここまでお客様に求められる存在となった「TANOMU」に、撤退やピボットという選択肢はありません。継続企業として責任を果たし、成長していくために、より強固な基盤が必要でした。
子会社化によって、財務的な安定に加えて、システムの堅牢性やセキュリティの水準も高めていける。お客様に安心して使い続けてもらうためには、そうした環境面の底上げが欠かせないと考えました。
そして、もう一つの狙いがインフォマートとのシナジー強化です。資本業務提携の段階でも協力はしていましたが、別会社である以上、意思決定に曖昧さや温度差が生じることも少なくありませんでした。それが時にお客様と向き合う上での障害になる。だからこそ、同じ方向を見て進むために、意思決定をシンプルにする。そのために100%子会社化を選びました。
子会社化がもたらした“変化と成長痛”
子会社化によって、すべての課題が一気に解決したわけではありません。得られたものがある一方で、変化に伴う“痛み”も確かに生まれました。組織の仕組みやスピード感が変わり、現場が戸惑う場面もあれば、従来のやり方が通用しなくなる瞬間もありました。
私自身も悩むことはありますが、それでも変えるべき点と守るべき点を見極めながら前に進む。その葛藤の中で下す意思決定こそが、次のステージに進む力になると考えています。
増大する期待への対応
上場企業のグループに加わったことで、これまで以上に「成長」を求められる環境になりました。事業を続けていくうえで成長は欠かせませんし、目標達成の責任も理解しています。
ただ、それだけを追いかけるつもりはありません。私たちが守りたいのは、「課題解決を積み重ねることで信頼を得て、結果として成長につながる」という姿勢です。お客様一社一社に真摯に向き合い、その解決の先に売上が積み上がり、社会インフラとしての役割を果たしていく。それこそがタノムが培ってきたカルチャーを活かす、最も得意とする成長戦略だと考えています。
安心を支える“見えない投資”
子会社化を経て、セキュリティやデータ保全に対する意識はこれまで以上に高まりました。第三者機関による定期的なチェックやシステム監査、障害を防ぐ余裕を持たせたインフラ設計など、派手には見えない部分にこそ投資を惜しみません。こうした地道な取り組みが「安心して使える」という評価につながり、大手企業からの信頼を得る基盤になっています。
新たな声との出会いと挑戦の広がり
インフォマートとの連携によって、これまで自分たちだけでは届かなかった領域や業態の声に触れられるようになり、お客様の解像度が大きく高まりました。エンタープライズ企業特有のニーズに応える機会も増え、十分に取り組めなかった課題に向き合えるようになったことは大きな前進です。
最近では給食・学校給食といった領域への挑戦を始め、さらにメーカーや一次生産者への展開も視野に入っています。現場ごとに異なる課題を一つずつ解決していく。その積み上げが、人が本来注ぐべき”創造的な時間”を生むと考えています。
変わらない思想を胸に——描く次のステージ
タノムは、創業フェーズから全国規模のインフラを目指す拡大期へと進みました。フェーズに合った体制を模索する中で社内も大きく変化していますが、根底にある「なぜやるのか?」は揺らいでいません。
変化を楽しみ、自らルールをつくり、お客様と誠実に向き合う人。そういう人にこそ、今のタノムは最も力を発揮できる舞台だと思います。
子会社化という選択で広がった可能性と、それに伴う成長痛。両方を抱えながら、私たちは「テクノロジーで、シゴトをシンプルに」し続けています。この思想に共感してくれる仲間とともに、次のステージへ歩みを進めていけることを心から楽しみにしています。
