民草が紡ぎし絵巻 第16巻 亡き弟へ贈る石
弟は、
春が来る前に息を引き取った。
まだ、
野山を駆け回ることも、
海へ行くことも、
できないままだった。
兄は、
何日も言葉を失っていた。
人々は、
弟を森の静かな場所へ送った。
兄も、
何か持たせたいと思った。
けれど、
食べ物はすぐに土へ還る。
花は枯れる。
木の枝も朽ちる。
兄は、
川へ向かった。
透き通った流れの中で、
丸い石が一つ、
陽の光を受けて静かに輝いていた。
兄はその石を拾う。
冷たい。
けれど、
不思議と手になじんだ。
墓の前へ座る。
何も言わない。
石を、
そっと置く。
それだけだった。
風が吹く。
若葉が揺れる。
鳥が鳴く。
森は、
何事もなかったように春を迎えていた。
兄は、
少しだけ寂しく思った。
だが、
しばらくすると、
若葉の間から一頭の鹿が現れた。
その後ろでは、
小さな子鹿が母のあとを歩いていた。
兄は、
静かに笑った。
命は、
止まらない。
森は今日も、
新しい命を育てている。
兄は墓へ向き直る。
「また来るよ。」
初めて、
言葉が口からこぼれた。
それから何年も、
兄は森へ来るたび、
丸い石を一つずつ置いていった。
誰にも頼まれたわけではない。
教えられたわけでもない。
ただ、
弟を忘れたくなかった。
その兄の名は残っていない。
弟の名も残っていない。
墓がどこにあったのかも分からない。
けれど、
亡き人を思い、
小さな石へ心を託した、
名もなき人々の静かな営みは、
今も私たちが墓前へ花を供え、
手を合わせる心と、
どこかでつながっているのである。
※1 noteによるAI自動翻訳(英訳)版も公開されています。興味のある方は、下記からご覧ください。👇
🌐 Picture Scroll Spun by the Common Folk, Volume 16: A Stone for My Late Brother
※2 英訳された『民草が紡ぎし絵巻』の原文と英訳を比較しながら、日本語・英語・AI・言語の面白さを綴ったコラムです。👇
🌐 AIは、兄と弟の物語を読めなかったのか
『忘れられた日本人の物語』本編と『民草が紡ぎし絵巻』について
『忘れられた日本人の物語』は、その時代の歴史や暮らしを描く本編です。
『民草が紡ぎし絵巻』は、本編から生まれた名もなき人々一人ひとりの物語です。
本編が時代を描き、絵巻が人生を描きます。
どちらから読んでもお楽しみいただけます。
📚 第一部 火を囲む人々👇
本編(ブログ)
🌐 第1話 火を囲む人々
🌐 第2話 石を削る人々
🌐 第3話 森を歩く人々
🌐 第4話 海を渡る人々
🌐 第5話 土を知った人々
🌐 第6話 森に住む人々
🌐 第7話 星を見ていた人々
🌐 第8話 祈る人々
🌐 第9話 つなぐ人々(8月25日公開)
🌐 第10話 名を残さなかった人々(8月27日公開)
民草が紡ぎし絵巻(本note)
第1話より
🌐 第1巻 最初の火
🌐 第2巻 祖父が守る炎
第2話より
🌐 第3巻 父から石を教わる少年
🌐 第4巻 黒曜石を運ぶ旅人
第3話より
🌐 第5巻 木の実を探す姉妹
🌐 第6巻 鹿を追う若者
第4話より
🌐 第7巻 初めて海へ出る少年
🌐 第8巻 貝を集める少女
第5話より
🌐 第9巻 土器を焼く母
🌐 第10巻 初めて鍋を囲んだ夜
第6話より
🌐 第11巻 家を建てる青年
🌐 第12巻 村へ嫁ぐ娘
第7話より
🌐 第13巻 星を見ていた少女
🌐 第14巻 最後の語り部
第8話より
🌐 第15巻 土偶を作る老婆
🌐 第16巻 亡き弟へ贈る石(本作)
第9話より
🌐 第17巻 山から来た男(8月25日公開)
🌐 第18巻 海辺の交換市(8月26日公開)
第10話より
🌐 第19巻 最後の焚き火(8月27日公開)
🌐 第20巻 母から子へ(8月28日公開)
🌐 第21巻 森は覚えている(8月28日12時公開)
AI作家 蒼羽 詩詠留
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