見出し画像

【小説】Lv9 極上のウソ |先生、冒険の続きを。~31年目のサンスーファンタジー~| 第1章 冒険への誘い 編


【これまでのお話】


Lv9 極上のウソ 



僕たちの先生は、
どこまでも


規格外の勇者だった。


昼休みに大人のガチシュートを
叩き込んできたかと思えば、
ある日の学活の時間、
今度はまったく違うベクトルの『力』を
僕たちに披露してくれた。

それは、僕たち生徒が、
いつものように先生にわがままを言って、
話をせがんだことが始まりだった。

「先生!
なんか面白い話してよ!」

「そうだ、
先生の怖い話が聞きたい!」


いつもなら「お、聞きたいか?」と
悪戯っぽくのってくれる先生が、
その日はなぜか、ひどく
真面目な顔をして首を振った。

「いや、あの話だけはダメだ。
本当に戻れなくなるから。」


先生が、
本気で嫌がっている。

そのただならぬ拒絶のオーラが、
逆に、僕たちの好奇心に
バチバチと火をつけてしまった。


「いいじゃん! 聞きたい!」
「 お願いだよ、先生!」


教室中の大合唱に、
先生はついに。

そして、ゆっくりと教壇に歩み寄ると、

パチリ


と教室の蛍光灯のスイッチを消したんだ。

午後の薄暗い教室。
カーテンの隙間から差し込む光が、
教室の床に長い影を落とす。

いつもは見慣れた4年4組の空間が、
一瞬にして、どこか別の不気味な世界へと
変貌したような錯覚に囚われた。

「……じゃあ、約束だ。
途中で逃げられないけど
大丈夫?」

暗闇の中、
先生の低く、
静かな声が響く。

それは、先生が語る、

異世界の少年『まーぼー』


の物語だった。

先生のストーリーテリングの才能は、
お世辞抜きで天才的だった。

声のトーン、
話すテンポ、
絶妙な間の取り方。

さわやかだったはずの先生の声が、
まるで本当に闇の奥から
響いてくるかのように冷たく、
僕たちの鼓膜を震わせる。

最初は
「先生は、演技うまいな!」
なんてニヤニヤしていた僕たちだった。

けれど、話が進むにつれて、
誰も声を出すことができなくなっていった。

『まーぼー』に誘われて、
現実世界には戻れなくなる話。

先生の言葉が、僕たちの脳裏に、
まるで映画のスクリーンを見ているかのように
鮮烈な『異世界の景色』を
強制的に映し出していく。

気がつけば、
33人の子どもたちは全員、
机に頭を伏せ、
耳を塞ぐようにして身を縮めていた。

「嘘だ。
こんなの、ただの怪談だ!」


頭では分かっているのに、
あまりのリアリティに、
教室の空気が本当に『ぐにゃり』と
歪んでいくような
恐怖が押し寄せてくる。

「もうやめて!」

「先生、もういい! 」

僕も、心臓がバクバクと暴れ、
震えていた。

誰もが
「お願い!元に戻して」
と心の中で叫んでいた。

しかし、闇の中の先生は、
さらにぐっと声を低め、
言葉を強めたんだ。

「ダメだ!
一回この世界に入ったら、
もう帰れないんだ!!」

その瞬間、
僕たちの絶望はピークに達した。

本当に、このまま誰もいない
異世界に置き去りにされてしまう
のではないかという、
圧倒的な物語の力に
完全に飲み込まれていた。

その、刹那だった。

パチッ。

乾いた音とともに、
教室にパッと眩しい蛍光灯の光が戻ってきた。

「ウッソーーー!!」


眩しさに見開いた僕たちの視線の先、
教壇の上で、先生がこれ以上ないほど
お茶目に、笑っていた。

「あはは!
みんな本気でビビりすぎ!
嘘だよ、う・そ!」

さっきまでビクビクしていた、
33人のパーティーは、
猛烈な安堵感でワッと湧き上がった。

張り詰めていた教室の空気が、
一気にいつもの温かい4年4組の
色に染まっていく。

やっぱり、
先生の作り話だったんだ。

異世界なんて、帰れなくなるなんて、
全部、先生が得意の大演技で
僕たちを驚かせた、
極上のエンターテインメントだったんだ。

みんなが、笑い合っていた。

でも、
僕だけは、教卓の上に置かれた


『1枚のプリント』



の存在に気づき、
その世界に導かれようとしていたんだ。

先生が最後に
「もう絶対に帰れないんだ」
と言った、あの瞬間。

先生の瞳の奥が、
一瞬だけ、本物の

『世界の裏側』



を見つめていたような気がしたことを。

「なーんだ、異世界なんて、
ただの先生のウソじゃん。」

そう自分に言い聞かせて笑った僕たちの元に、
本物の『冒険の招待状』が届くなんて、
この時の僕は、まだ知る由もなかったんだ。


冒険の招待状を受け取れ!

Lv9 極上のウソ 完 / Lv10へ続く

いいなと思ったら応援しよう!